部室 2
「ここが、僕達の使っている部室。放課後だったら毎日活動してるから、いつでも来ていいよ。気が向かなかったら、別に来なくてもいいよ。そこは個人の自由ってやつで」
僕はこの同好会を作ってから特別な用事が無い限り、いつもここで放課後を過ごしていた。
遠藤と一緒に特撮番組のDVDを観て、無理矢理話を聞かせて、一日が終わる。
一向に遠藤は興味を持ってくれなかったし、かったるそうだったけれど、何だかんだでいつも僕に付き合ってくれた。
本人には絶対に言いたくないけど、あいつはいい奴だ。
「まあ、とにかく中に入ろう」
そして、ドアを開けると。
テレビでヒーロー番組の劇場版DVDを観ている天月がいた。
「え?なんで?」
僕は思わず間抜けな声を上げてしまった。
天月が部室にいるのはわかる。
そのために田上君に天月を部室まで招待してもらったんだし、そのこと自体はなんらおかしくない。
けれど、なんで彼女はこんな物を観ているんだ?
僕は部室の角で蹲っている遠藤と田上君を見つけた。
何してるんだ。二人とも。
「ちょっと待ってて」
僕は内藤君にそう言って、二人の方へと駆け寄った。
「ねえ、天月さん、どうしたの?」
僕が尋ねると、二人は僕の方を睨んできた。
一体何事だ。
「ふざけんなよ、英志」
「なあ、久坂。お前が彼女をあんなふうにしたのか?」
「そんな、英志の毒牙がこんな所にまで」
「怨むぜ、おい」
などと、二人は呟いた。
しかもしれは小さな声の割には僕の耳にしっかり届き、なんというか、気味が悪かった。
「ねえ、僕には何がなんだか理解できないんだけど」
遠藤の言っている事が滅茶苦茶なのは今に始まった事ではないが、田上君までおかしな事を口走っているのは変だ。
それに、なんで天月が特撮の映画なんてみているのか。
全然わからなかった。
「何が理解できないだ。お前が美少女転校生に趣味を押し付けたんだろう」
「いや、ますます理解できない」
「昨日、何をしたんだ?何をしたら彼女はああなってしまったんだ?なあ、久坂。教えてくれよ」
田上君からこんな風な発言な聞くのは初めてだ。
なんというか、妙に芝居がかっていた。
遠藤のあの喋り方の感じがうつったのだろうか。
「ごめん、田上君。本当にわけがわからないよ。しかも僕は何もしてない」
そう。僕は何もしてない。
むしろ僕の方が教えて欲しい。
はあ、と遠藤がため息をついた。
しらばっくれやがってこの野郎、と言うように。
何だ、こいつ。
ついさっきいい奴だ、と思ったばかりだったけど、本当はただの嫌みったらしい奴だったのか。
「あのなあ、美少女転校生天月葵がな、この部室についた途端『DVDって何があるの』と言い出してな、優しい俺はお前に渡す予定だったDVDを差し出したんだ」
「貸す予定のものを渡すなよ。というかお前、掃除はどうしたんだよ」
「いいんだよ。相手は天月葵なんだから。掃除は早めに切り上げて追いついたんだよ。まあ、それはともかくな、DVDを受け取ると彼女はな、『ありがとう』とだけ言ってな、そしてテレビの虜になってしまったんだ。俺と田上がトランプに誘ってもお菓子パーティーを開こうとしても、彼女は全くの無反応を貫き通しているんだ」
「それって」
もしかして、天月は本当にヒーロー同好会に乗り気だったのか?
「まさかだぜ。彼女までヒーローマニアの一員だったとはな。いや、英志、お前が彼女になんか吹き込んだんだろう」
「そんな事してないから」
「久坂、顔が若干ニヤけているな。怪しい」
「いや、何も無いよ」
「じゃあ教えてくれよ。英志は昨日、彼女と何をしてた?」
「いや、それは言えないけど……」
誰にも言わないと言う約束だから。
どうせ言ったとしても言い訳としかとられないだろうし。
「絶対になにかしたんだ。それはもう、とんでもない事を。最悪だ。最低だ。もう手遅れなんだ。もう彼女は英志のモノなんだ」
直ぐそこに天月がいるとわかっているのに、遠藤は恥ずかしくないのだろうか。
僕は恥ずかしかった。
天月に聞かれていたら、と思うと、気が気じゃない。
ただ幸い、天月はDVDに集中しているようで、全く話は聞こえていないと思う。
そうであって欲しい。そうでなくては困る。
なんて、考えながら天月の方を見ると。
「先輩も、ヒーロー好きなんですか」
天月の隣に、内藤君が座っていた。しかも、何故か自然に話している。
「私も昔、こういうの観てたから」
こういうのとは特撮番組の事だろう。
僕には小さい頃の天月がそれを観ている場面を想像する事ができなかった。
いや、目の前で天月がDVDを観ているんだけど。
なんというか、それは酷くリアルさに欠けていた。