内藤光 3
まあ、少しずつでも慣れてくれればいいな、と思う。
僕達は一階にある職員室へと向かった。
途中、かなりの数の生徒とすれ違った。尋常じゃない量だった。
僕達の背後で人だかりができていた。多分、天月を見ているんだと思う。
それほどまでに転校生が珍しいのだろうか。
いや、転校生だから見に来ているんじゃなくて、天月が美人だからか。
僕みたいにそこまで女子に対する興味が無い奴から見ても、天月は可愛い。それはもう、相当なものだ。
運動神経もよく、スタイルもよく、美人。それでいて物静か。
もしかしたら、遠藤や田上君みたいな反応が当たり前なのかもしれない。
「あの、先輩」
階段を下りている途中で内藤君が口を開いた。
「先輩って、なんでヒーロー同好会なんて作ったんですか?」
今まで内藤君の声は聞き取りづらかったが、何故かその時の声はハッキリと聞こえた。
「何でって、そりゃあ……」
そんな事を聞かれると思っていなかった僕は、回答に詰まってしまった。
何故かと言われれば、それは「僕と同じような仲間が欲しかった」とか、「皆で一緒に会話できるような場所が欲しかった」とか、色々ある。
でも、あえて端的に言うならば。
「そりゃあ、ヒーローに憧れているからだよ。僕はヒーローが好きなんだ。カッコいいと思う。高校生にもなって、子供みたいかも知れないけど」
一番の理由はこれだ。
それ以外のことも理由と言えば理由だが、やはり僕はヒーローが好きで憧れているからヒーロー同好会を作った。
他の理由は全て、これの延長線上にある。
ヒーローが好きだから皆とそれについて話してみたくて、ヒーローが好きだからそれについて皆で話し合えるような場所が欲しかった。
「嫌じゃなかったんですか。他の人から、変な事言われるの」
もしかしたら、内藤君は気にしているのかもしれない。
ヒーロー同好会に入ると、奇妙な目で見られる事を。
田上君と同じように、誰かにその事で何かを言われるのが嫌なのかもしれない。
「僕、あまりそういうの気にしないから。内藤君は、そういうのが不安?」
僕は全然気にしてない。子供っぽいのはわかってるけど、それに憧れるのは悪い事じゃない。別に何が好きでどんな同好会に入っていようと、個人の自由だ。
だから別に引け目なんて感じてないし、感じる必要も無いと思っている。
でもそれは、一般的な考え方じゃなくて、だから田上君は同好会を止めると言ったんだろう。
「えっと、それは……」
内藤君は口をもごもごと動かして、言葉を濁らせた。
「はは、別に遠慮なんてしなくていいよ」
そんな感じのことを思われるのは今に始まった事ではないし、僕は全く気にしない。
それよりも、嬉しいと思う気持ちの方が強かった。
高校生しかいない同好会に中学生が一人で入るのはかなり勇気がいることだと思う。
それに、内藤君はヒーロー同好会の評判を知っていて、そしてどのような目で見られるかも、なんとなくわかっている。
でも内藤君はヒーロー同好会に入ってくれるという。
嬉しかった。単純に仲間が増える事と、勇気を出して同好会に加わってくれたという事が。
「他の人がどう思っても、僕はヒーローが好きなんだ。君は、どう?」
僕の質問に、内藤君は少し間を空けて、小さな声だったけど答えてくれた。
「……僕も、好きです」
「じゃあ、一緒だ。これから、よろしく」
その言葉に、内藤君は小さく頷いてくれた。