内藤光 2
「この内藤光君は特撮ヒーローが大好きなんだそうだ。お前と一緒だな。よかったな。ちゃんとした仲間ができて」
「どういう意味だよ、それ」
「だって、俺も、田上も、もちろん天月さんも、別に心の底からヒーローに憧れてるわけじゃないし」
それはそうかも知れないけれど、新しく入ってくれるかもしれない子の前で言って欲しくはなかった。
聞かなきゃよかった。
「あの……」
内藤君の声は今にも消え入りそうだった。
なんでだろう、と考えて、ここが高校生のクラスだと言う事に気がつく。
中学生にとって、高校生はかなり怖く感じる。
何のかかわりも無ければ尚更。
僕みたいな奴だったら別だが、運動部の高校生なんて、僕が中学生の頃はあまり近寄りたくなかった。
身体の大きさが全然違うし、顔も怖そうだった。
今思えば顔の方は気のせいだったかもしれないけれど、怖かった感情は気のせいじゃない。
内藤君はとても運動部に所属しているように見えない。文化部か、もしくは帰宅部だろう。
身体も大きいわけではないし、むしろ細い。華奢な身体だ。喧嘩なんてしたら、骨が折れてしまいそうな身体だった。
そんな中学生が高校生の教室に来るというのはかなり怖い事なんじゃないだろうか。
「同好会に入るのって、どうすればいいんですか?」
「ああ、それは」
先生からもらえる「入部届け」の紙に、自分の名前を書いて親に判子を押してもらって、担任の先生に提出すればいい。
それを知らないと言う事は、きっとまだ「入部届け」の存在も知らないんだろう。
それは職員室に行けば直ぐにもらえるけど、なんというか、内藤君を一人で行かせるのはなんとなく気が引けた。
僕がヒーロー同好会を立ち上げようとした時、職員室に行くのがたまらなく嫌だった。
別に誰か嫌いな先生がいたわけではない。ただ、なんとなくあの雰囲気が嫌だった。
内藤君がそう思っているかはわからない。
けれど、彼と僕は同じ「匂い」がする、らしい。
「職員室に行けばもらえるから、そうだ、一緒に行こうか」
「え、あ、ありがとうございます……」
内藤君が軽く頭を下げた。
声は小さすぎてあまり聞き取れなかったけど。
「おい、アキラの面倒を見るのもいいけどよ、お前、天月さんをそんな長時間放置しといていいのか」
アキラ、というのは内藤君の事だろう。確か、下の名前がそうだった。
「あ、そうか」
確かに、これ以上天月を待たせるのは気が引けた。
かといって内藤君を一人で行かせるのあまり気が進まない。
「久坂に遠藤。どうしたんだよ、二人して」
僕達に声をかけてきたのは田上君だった。
「なんかさ、二人でその子を脅してるみたいに見えるぜ」
「そんな事してないよ」
「こいつはウチの新戦力だぜ。お前のように下心丸出しのスケベエな野郎とは違うのさ」
遠藤が胸を張って言った。
下心丸出しと言ったら、それはさっきの遠藤の方が下心丸出しだった。
隠す気なんて、全く無かった。
「別に下心なんてないって」
「そういえば田上は昨日、天月さんが同好会に入った途端、『やっぱ俺、同好会止めないよ』なんて言ってなかったっけ」
「へえ、この子、同好会に入るんだ」
田上君は遠藤の言葉を全力で無視しようとした。
まあ、図星だったのだろう。
田上君は天月を近くで見るために同好会に入ってきたようなものだし。
そう考えて、僕は思いついた。
「そうだ。田上君さ、天月さんを同好会で使ってる部屋に案内してよ」
田上君に天月を案内してもらえばいいんだ。
活動にはあまり来ていなかったっけど、田上君は同好会で使ってる部屋の場所を知っている。そうすれば天月を待たせないで、僕は内藤君についていく事ができる。
田上君的にもその方がいいだろう。
「え、マジで」
「おい、何だよそれ」
田上君と遠藤が同時に言った。
「僕はこの子と一緒に職員室に行くからさ、田上君は天月さんを案内しといてもらえる?」
「久坂、お前サイコー」
「うわあ、見損なったぜ、英志。お前は俺の親友だと思っていたのに」
「遠藤君」
僕達の背後から声がした。
この声は、天月だ。
「うわ、ビックリした。やめてくれよ。転校生だからって、人の背後に気配を消して歩み寄っていいわけじゃないんだ」
それは転校生だろうがなかろうが、やめて欲しい。
天月は遠藤の言葉を無視して続けた。
「笹倉さんが怒ってるわ。掃除、真面目にやれって」
そういえば遠藤は掃除当番だった。
教室の中を覗くと、笹倉さんが鋭い眼光で遠藤を睨んでいた。
「いや、ごめん。俺が悪かった。そんな怒るなよ、美由紀。折角の可愛い顔が台無し」
遠藤はそう言うと、教室へと戻っていた。
中からは笹倉さんの声が聞こえてきた。
もう、何を言っているかは大体想像ができる。
相変わらずなんだな、あの二人は。
「それじゃあ、用事終わったら、呼んで」
天月も教室の中へ戻ろうとする。
「ちょっと待って」
僕はそれを呼び止め、天月に説明する。
「この人は田上君って言うんだけど、僕、ちょっと時間が掛かりそうだから、代わりに田上君が、天月を同好会で使ってる部屋まで案内してくれる事になったから」
「わかったわ」
「えっと、よろしく、天月さん」
田上君が天月に喋りかけた。
天月はそれに対して淡々と答える。
まあ、こっちは問題ないだろう。
「ごめん、待たせたね。じゃあ、職員室に行こうか」
「は、はい……」
小さな声で、内藤君が返事をした。
僕はまだちょっと怖がられているのだろうか。
僕を怖がるなんて、結構珍しいと思うけど。