内藤光 1
久しぶりの更新です。
別の小説が終わったんで、ちょくちょく更新できると思います。
あっという間に一日が過ぎていく。
気がつけばもう六時間目が終わり、帰りのホームルーム最中だ。
昨日や一昨日に密度が濃い時間を過ごしていたから、より一層、学校が終わるのが早く感じる。
「起立」
日直の笹倉さんが号令をする。
特に何事も無く、ホームルームが終わった。
これで、今日の授業は全て終わり。
僕はなんて味気ない毎日の繰り返しを送っていたのだろう。
昨日や一昨日のことを考えれば、全てが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
こんなことをやっている間にも、世界のどこかには変異種が人にまぎれて生活している。
そいつらはいつ暴走しだすか、わかったもんじゃない。何人もの人が犠牲になるかもしれない。
それなのに、そんな状況がどこかで起きているのかもしれないのに、僕らはこんなくだらない事で毎日を消費している。
遠藤じゃないが、退屈で眠くなってしまう。
「よっしゃ。それじゃ、部活だ部活」
珍しい事を遠藤が言った。
部活というのはつまりヒーロー同好会のことなのだろう。
遠藤がそれを楽しみに思う発言をするのは、かなり珍しい事だった。
「だってよ、クラスの謎の美少女転校生を間近で見放題なんだぜ。それやあ、誰だって楽しみに思うだろ」
こいつの思考回路が中々下らないのだと言う事を僕は忘れていた。
遠藤が浮かれてる時は、大体そんなものだ。
「ねえ、遠藤君。あなた、掃除当番なんじゃないの?」
笹倉さんが言った。
そういえばそうだった。遠藤は今日、掃除当番だった。
笹倉さんもそうだった気がする。
「えー、でも今日は美少女転校生天月葵さんとのデートが……」
「何がデートよ。馬鹿馬鹿しい。あの子はそんな事これっぽちも思ってないわよ」
「いや。思ってるね。心のどこかで俺と一緒の個室にいれることを期待している。俺にはわかる。これは確信と言ってもいい。女心と春の空、というだろう?そんなのもわからないなんて、お前は女子高生失格だな」
どこから突っ込んでいいのかわからなかったが、とりあえず「女心と秋の空」と遠藤は言いたかったのだろう。
なんで間違える。
「そうだ。英志、お前代わってくれよ。明後日の掃除当番お前だろ。俺が明日やるからさ」
「え、嫌だよ。面倒くさい」
「そう言うなよ。美少女転校生と俺の幸せな一時のためだからさ。あ、田上もいたな。美少女転校生と俺と田上のためだ。マジ、頼むよ」
「それ、田上君関係なくない?」
遠藤が幸せな時間を過ごそうが過ごすまいが、田上君にはどうでもいい事だろう。
というか、遠藤がいないほうが田上君的には嬉しいんじゃないだろうか。
「何、馬鹿なこと言ってるのよ。あなたが掃除当番なんだからね」
「えー、勘弁してよ美由紀」
遠藤は笹倉さんに引っ張られて掃除用具入れへと向かっていった。
「久坂君」
突然、僕の後ろから天月の声が聞こえきた。
僕はびっくりして身体をビクつかせてしまった。
「どうしたの?」
天月が不思議そうに聞いてくる。
君があまりにも気配を感じさせないで背後に立っていたからだよ、とは言えなかった。
というか、もしかしてさっきのやり取りを聞いていたのだろうか。
そうだとしたらちょっと気まずいような感じがする。
いや、僕が気まずくなる理由は無いんだけど。
「さっきの話、あまり聞いてなかったけど。同好会、行くの?」
「……天月さんさ、もしかして相手の心とか読めたりする?」
僕はついそんな事を口走ってしまう。
「そんなことないけど。なんで?」
天月は律儀にもそれに答えてくれた。
「いや、ゴメン。ちょっと思う事があって」
僕は適当に誤魔化した。
しかしなんだ、相変わらず天月は何を考えているのかわからない。
「今日、同好会ってあるの?」
天月が聞いてきた。
「もちろんあるよ。もし面倒だったら、来なくてもいいけど」
正直、天月がヒーロー同好会に入ってくれた理由がイマイチ理解できなかった。
本物のヒーローが、造り物のヒーローを観たがると言うのはあまりしっくりこない。
だが他に理由が思いつかない。けれど、天月がヒーロー番組なんて観たがるのだろうか。
僕が誘ったから、流れで承諾しただけなんじゃないのだろうか。
もしそうだったら無理に同好会に連れて行くのは気が引けた。
天月も楽しくないだろうし、僕はあまりそういうことはしたくない。
田上君には悪いけど、天月がヒーロー同好会で活動をしたくないのなら、それでもよかった。
僕らは結局、頭数さえそろっていれば存続できるから。
遠藤のことは知った事ではない。どうでもいい。
「じゃあ、行くわ。部屋まで案内してもらえる?」
以外にも天月は乗り気だった。
本当にヒーロー番組が観たいからだけの理由でヒーロー同好会に入ったのだろうか。
「おーい英志。お前にお客さんだぞ」
遠藤の声が聞こえてきた。
教室のドアのところで、モップを片手に僕に手を振っている。
「ゴメン天月さん。ちょっと待ってもらっていい?」
「ええ。構わないわ」
「ありがとう」
僕は遠藤の方へと向かう。誰だろうお客さんって。
「この中学生がヒーロー同好会に入りたいんだとよ」
そう言って遠藤が紹介してきたのは、ちょっと痩せ気味な男子生徒だった。
上履きには「内藤」と書かれていた。
「こいつは英志な。俺達のボスだ。情けなさそうだろう。実際、情けない。少年漫画や熱血アニメなら間違いなく主人公にならないタイプだ」
遠藤は僕の事を紹介しているんだろうか。
適当すぎる。
というか、まともに紹介できてない。
「は、はじめまして。僕、二年D組の内藤光です。えっと、ヒーロー同好会に入りたいんですけど」
内藤君が言った。
「おい、英志。こいつからはあお前と同じ匂いがするぞ」
気のせいだろう、と言ってやりたかったが、確かになんとなく僕と似ているところがあった。
主に喋り方とか。