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ヒーロー  作者: 山都
第一章 始まり
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久坂英志 2






 そういうわけで、ヒーロー同好会は僕と遠藤、たったの二人になってしまった。

 田上君の退部届け騒動の後、僕たちは何か活動するわけでもなく、互いの家へと向かった。

 僕と遠藤は一緒に家路を歩く。

 僕らの住む街は、都心とベットタウンの中間にある。この街にマンションはあまりない。立ち並ぶのは殆ど一軒家だ。買い物する場所と言えば長い商店街と、デパートくらい。ゲームセンターやCDショップなんてのは、デパートの中に申し訳程度にしかない。他には大きな本屋が一つあるくらいで、なんというか店に関しては、特徴になりそうなものがない。ボウリング場なんて洒落た施設はない。ファーストフード店や喫茶店、そっしてファミレスやコンビニなどの全国チェーン展開している店なら結構ある。焼き鳥屋とかトンカツ屋とか、魚屋とか八百屋とか、そんな地味な店だったら充実している。

 その代わりと言ってはなんだけど、特徴的なものとして、高級住宅街がある。高層マンションがいくつも建てられていて、しかもマンションの一部屋が物凄く広い。道幅がとんでもなく広く、夜になるとライトアップまでされるらしい。僕らには到底届かなさそうな、とんでもない値段で売り買いされている。そのくせ周辺にある店は大した事ないんだから、謎だ。交通の便も底までいいわけじゃない。都心にはすぐいけるけど、それだけだ。最寄り駅には一つの路線しか通ってない。

 遠藤の家は近所にある。僕もそうだ。学校まで徒歩通学、十五分。自転車は持っているけれど、登録が面倒だから使っていない。僕と遠藤は途中まで、というか殆ど同じ道を通って帰る。路地の手前か奥か程度の違いで、お互いの家の距離は百メートルもない。

 おまけに家のデザインも同じ、一軒屋だ。丁度同じ時期に僕の家族も遠藤の家族もこの町に引っ越して来て、その時に完成したのがその家だった。

 僕と遠藤は小学生の頃から、同じところに通っていた。腐れ縁、という奴だ。

 遠藤がヒーロー同好会に入っているのも、それが関係している。遠藤は僕のようにヒーローが好きなわけではない。ただ、入部しているだけだ。

 僕はちゃんとヒーローに興味のある部員が欲しい。一緒に番組の話をしたり、漫画について色々語り合える部員が欲しい。

 だけど。

「三人いないと同好会は潰れちまうぜ」

 相変わらず遠藤は人事のように喋っている。というか、こいつの場合は完全に人事なのだ。遠藤が同好会に入っている理由は「暇」と「他の部活はしたくない」というだけだ。

「わかってるよ。そんな事は。こうならない為に、田上君に入部してもらってたんじゃないか」

 三人以上でなければ、同好会は活動が出来ない。活動が出来ない、ということは、部室を追い出され、帰宅部になるという事だ。

「気のいい田上が退部したがるくらいだから、我等がヒーロー同好会に対する世間の目は、相当厳しいみたいだな」

「それがよくわからないんだよね。どうして馬鹿にされるんだろう。カッコいいじゃん。ヒーローって。なんであの良さが皆わからないのかな」

「それはともかくだ……ヒーロー同好会なんて言っちゃあいるが、その実態は特撮同好会だからな。明確な活動指針があるわけでもないし。大体さ、部員募集の謳い文句が“ヒーローに憧れてる人募集”だってんだから、そりゃ噂にもなるわな」

 “ヒーローに憧れている人募集”というのは僕が部員勧誘の時に使った言葉だ。学校の掲示板にあるポスターにもそう書いてある。

「もうちょっと上手く書けばよかったんだよ。“特撮好き募集”って書いとけば、そこまで変な目で見られる事も無かったんじゃねぇの。黒魔術同好会なんてのもあるからな。あそこは“占いやってます”、だぜ。なんだよ憧れてるって。変身でもしたいのかよと思われるだろ?」

「変身できるならしてみたいよ」

 ヒーローになれるんだったら、なってみたい。憧れというのはそういうものだろう。

「お前のヒーローに対する情熱はおいといて、俺達の世間評価はそれとは別だ。そいつを上げようったって、今更どうしようもない」

「実際に、ヒーローがいれば、人気でるのかな……」

 心の底からそう思った。

 皆がヒーロー好きを馬鹿にするのは、実際にそういう人間がいないからだ。

 自分の正義の為に全てを捨て。

 自分の信じる物のために戦い。

 自分の守りたいものを守りきる。

 カッコいい生き方だ。もしそうやって生きていけるなら、僕は生きてみたい。

「いやいや、そんな事はねぇよ。世の中の学生は冷めてるぜ?熱狂して憧れるのはアイドルだけだっての」

「でもさ、本当にヒーローがいたら、皆絶対憧れるよ。そりゃあ、テレビとか漫画の中だけだったら馬鹿にするだろうけどさ。自分の正義を貫ける人がいたら、カッコいいじゃないか」

「でも実際、ヒーローなんてこの世にいないんだけどな」

 冷めた口調で遠藤は言う。

 そう言われたら、僕に言い返す言葉はない。気が滅入る。

 僕が落ち込んだのを察したのか、それとも自分の家の前まで着いたからなのか、僕の肩を叩き、遠藤は口を開いた。

「ともかくさ、まだ同好会が潰れるまでには三日間の余裕があるんだ。それまでにどうにかすればいいんだよ。そんな深く悩む必要はねぇって」

 と言って、遠藤は自分の家のドアを開けた。

 散々駄目出ししておいて、よく言う。

 ――評価が最低だとか、ヒーローが実際にいないとか、そんな風に言われて、どうにかできる気がしないよ。


 さらに落ち込んだ僕の気も知らず、遠藤は明るい口調で「じゃあな」と言って自分の家へと入っていった。

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