仮想空間 2
理屈はよくわからないが、仮想空間にいても一ノ宮博士の声が聞こえる、というのだけはわかった。
さっきの仮想空間についての説明も、イマイチよくわからなかった。四次元と五次元がどうのこうのと言っていたが、最後の「仮想空間はパラレルワールドみたいなもの」と言う事しかわからなかった。
僕は男の方へ視線を戻す。
男は奇声をあげて、頭を抱えていた。もう、言葉すら喋れていない。
「一度でも『進化の系譜』を覚醒させてしまうと、もう普通の人間には戻れない。人のに戻る事はできても少しずつ、だが確実に体は『進化の系譜』に侵食されて、肉体や脳が別のものへと変化していく。最終的には、あのように人としての思考ができなくなり、己の本能のみに従う生き物になってしまう」
男の身体が少しずつ変わっていった。
全身に黄色の毛が生え始め、顔つきが人のものから虎のものへと変わる。身体が一回り大きくなり、服や靴は裂けて地面に落ちた。
歯は牙へと変わり、爪は鋭く分厚くなっていく。足は倍以上に膨れ上がり、目は獣のそれへと変わった。
虎のうなり声が無人の町に響いた。
もう、目の前の男は人ではなかった。変異種という名前の、得体の知れない化け物だった。
「あれが変異種だ。『進化の系譜』にアクセスする前に仮想空間に送れたのは幸いだった。もし街中であの姿になっていたら、何人もの死者が出ている所だった」
虎の化け物は再び吼えた。
そして、天月葵へと襲い掛かる。
「そして、それらを倒すために造られたのが、ヴァリアント・システムだ」
《解除コード認証。ヴァリアント・システム起動》
機械的な声が天月葵のしている腕輪から聞こえてきた。
そして、虎の化け物時と同じように、天月葵の身体が変わっていく。
黒色と白色のプロテクターを纏った、ヒーローに。