仮想空間 1
真っ白な光の中で声が響いていた。
「仮想空間の原理としては、僕達の存在いる空間をベースとし、僕らの次元から僅かにずれた場所に新しい次元を人工的に作り出す。そこに配置するのは物体だけで、生命体は存在しない。物体は街を丸ごとスキャンすればそのまま配置するだけでいいし、生命体は仮想空間に必要ない。何より、複製が面倒だ」
「僕達の生きている次元は三次元に時間を加えた世界、つまり四次元と言われているが、五次元的視点から見るとそれらは重なり合い、密集したものだ。それを立体的思考で捉えるとしたら、箱という五次元空間に、いくもの紙、すなわち四次元が大量に詰め込まれている。仮想空間は僕達の次元のそばに作成される。その次元と僕達の生きている次元は五次元的に殆ど重なり合っているため、干渉しやすい。なので次元と次元を人為的に繋ぎ、人や物質を転送する事ができる」
「しかし、仮想区間は完全な新しい次元ではなく、所詮人為的に作られた不安定なものだ。維持には膨大な量の電力を必要とし、維持ができなくなれば、崩壊してしまう。仮想空間内で生命体が存在している時は、さらに電力が必要となる。ちなみに、核のような周囲に影響を与えるような物は仮想空間と僕達の空間がお互いに干渉してしまい、僕達の次元へと影響がでてしまうので、使用できない」
「物語などでは、五次元空間内に密集している四次元空間をパラレルワールドと言われることが多い。仮想空間は人為的な一定時間のみの空間だから厳密には違うが、まあ、同じものと考えてくれればいい。そっちの方が理解しやすいだろう。人為的な、人や動物のいないパラレルワールドを作り出し、変異種とヴァリアント・システムの適合者を転送し、そこで変異種を殲滅する。それが仮想空間だ」
光が次第に薄れ、僕は横断歩道のど真ん中に立っていた。
学校の近くの、というか僕の通学路にある横断歩道だった。車が道路に止まっている。中に人はいない。
人の気配が無い。仮想空間には僕達と変異種他に生き物がいないから、だろう。多分。
隣には天月葵がいる。
そして正面には、よだれを垂れ流した男がいた。
訳の解らない事をぶつぶつと呟き、両手をだらりとぶら下げ、今にも倒れそうな足取りで歩いている。
まるで、麻薬中毒者みたいだった。
「久坂君は下がって」
僕は天月葵の言葉に従い、少し離れた所に止まっていた車の陰に隠れる。
それを確かめた天月葵は右の袖を捲くった。天月葵手首には、見たことの無いデザインの腕輪がはめられていた。
涎をたらした男は、天月葵に気がついたようだ。
男の声がいきなり大きくなった。しかし、言っている事は要領を得ない。
「あははぁ、オンナだなぁ。おい、なんか言えよ。何でなにも言わねぇ。どうしてだ。今の俺が、さっきの俺が、昔の俺が悪いのか?俺のせいじゃない、こんなのは。ああ気に入らない、気に入らない。ぐちゃぐちゃにして、八つ裂きにして、何回も噛み砕いて、あああああ!!!」
「脳が他の生物と混ざり合って、まともな思考ができなくなっているんだ。これが末期症状」
僕の後ろから一ノ宮博士の声が聞こえた。
「えっ?」
振り向く。しかし、誰もいない。
「これは空間を干渉させて、僕の声だけを仮想空間に送っているんだ。僕はそっちにはいないが、声を伝える事はできる。さっきの仮想空間の説明も、これと同じ原理でやっていたんだ。」
ビバ、トンデモ理論。
五次元空間の勝手な解釈。
まだ続きます。