表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロー  作者: 山都
第二章 エニティレイター
24/97

一ノ宮博士 4

「本物のヒーロー……」

 僕はそう呟いていた。


 子供の頃から憧れていた。

 誰かのために自分の身を省みず闘い、自分の信念を貫き、正しい道を行くヒーローに。

 カッコいいから、と言う理由だけじゃない。僕自信がそうでありたかった。誰かのために闘えて、自分の信念を貫ける人間になりたかった。

 けれど成長していけばいくほど、それが無理だとわかっていく。正しい人が否定されて、間違っている人が肯定されるなんて、よくある話だ。


 それでも、だからこそ、僕は正義のヒーローに憧れる。

 憧れるだけなら、誰にも文句は言われないから。

 正義のヒーローなんてこの世にいやしないと諦めるしかないのに、諦めきれない。だから、僕はすがるように架空のヒーローに憧れる。


 でも今、僕は本物のヒーローをこの目で見ることができる。


「久坂君、止めて」 

 天月葵が僕を見て言った。

「あの時はたまたま無事だった。けど、次もそうとは限らない。だから、止めて」

「決めるのは君だ。危険だと思うなら今すぐ家に帰ればいい。データは採れたしね。でも、もし君が望むなら、僕は君を仮想空間へ送ろう」


 僕は黙って、うつ向いている。

 天月葵の言うことはわかる。僕が生きて帰ってこれるという百パーセントの保証はないだろうし、それに、僕がいても邪魔になるだけだろう。

 けれど僕はこの目でヒーローを見たい。

 本物のヒーローがいるとわかっていて、それなのに家に帰っていつも通りの生活を送るなんて、僕にはできそうになかった。


「見てみたいです。この目で」

 単なるワガママだ。そんなのはわかってる。天月葵の迷惑にだってなるだろう。

 でも僕はもう一度、この目で本物のヒーローを見たかった。そこに本物にヒーローがいると、確かめたかった。


「よし、じゃあ決まりだ」

 一ノ宮博士が嬉々とした表情で言った。

 天月葵は何かを言いかけたが、飲み込んだようだ。不満そうな、悲しそうな、辛そうな、そのどれでもあって、どれでもないような顔をしている。

 わかってる。僕の決めた事はきっと間違ってる。


「よし、じゃあ二人まとめて仮想空間に転送するから、外に出て待っていてくれ」

「外、ですか?」

「ああ。建物の中だったり電波が少しでも入りにくい場所だと、仮想空間に転送する事ができないんだ。だから、外に出て行ってくれ。あとはこっちでやる。久坂君を頼むよ、天月さん」

「……了解」

 

 僕と天月葵は車の外に出た。

 二人になると、やはり沈黙が流れる。ただ天月葵が怒っているだけかもしれないが。

 彼女が怒るのも無理は無いと思う。彼女は僕を心配してくれているのに、僕はそれを無視したんだから。 

 

「それじゃあ、転送を始めるよ」

 車の中から一ノ宮博士の声が聞こえてきた。


 次の瞬間、真っ白な光が僕の視界を包んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ