一ノ宮博士 2
ついにヒーローの変身アイテム(の名前)が出せた!
やったね!最高!
前の話で敵(の名前)も出せてるし、それっぽくなってきた!
しかし、会話ばっかしててアクションないですね。
仮想空間についての理論は、そのうち書きます。
相変わらずトンデモですが。
「はあ、そうですか」
僕はあまり納得できてなかった。
言ってることはさっぱり理解できなかったし、わかったことと言えば、あの怪物の名前が変異種という事ぐらいだ。
それにしても、何でこの人は赤い豚の画像を持っていたのだろう。
次の瞬間、一ノ宮博士は驚くべきことを口にした。
「君は昨日、殺されかかっていたしね。変異種の危険性については、よくわかっているだろう」
「なんで、それを」
どうしてこの人はそんなことまで知っているんだ。
あの場面には、ヒーローと、変異種と、僕しかいなかったはずだ。
「なんでって、それは僕が対変異種第三実動隊の現場指揮官だからだよ」
パソコンの画面が切り替わった。
「僕達はこの街に潜伏している変異種を殲滅しに来たんだ。戦いの記録は全て撮っているし、報告書だって受け取っている。だから、君が昨日どんな目にあったのかも知っている」
画面に表示されているのは動画だった。
赤い豚に掴まれている僕が映っている。
直後、黒と白の装甲をつけた人間が、赤い豚の顔面を蹴り飛ばした。赤い豚の手が緩み、僕の身体が空中に放り出される。
「僕達、ってことは、天月さんもそうなんですか?」
そういうことなのか。
この目の前の人は昨日の赤い豚のような怪物を倒すためにこの街に来た人間で、天月葵はその仲間と言うことなのか。
「もちろん。君も一度見ているからわかると思うよ」
僕の目の前では赤い豚と、白と黒の装甲をつけた人間が闘っていた。
まるで、特撮みたいに。
「そこにいる天月葵こそ、変異種に対する人類の切り札であり希望でもある、ヴァリアント・システムの適合者だ」
「ヴァリアント・システム?」
また意味のわからない言葉が出てきた。
「難しいことを抜きにして言うなら、彼女は変異種と闘う人ってことだよ。ほら、これに映っているだろ。これ、天月さん」
そう言って一ノ宮博士が指差した画面にいたのは、昨日僕を助けてくれたヒーローだった。
「……え?」
僕は横に立っている天月葵に顔を向けた。
相変わらず無言で立っている。自分が話題に上っている自覚があるんだろうか。
いや、そんなことより。
――天月葵が昨日、僕を助けてくれたヒーローってこと、だよな?
「そして、君が変異種と出会い、天月さんに助けられたあの場所が、仮想空間だ。あれは、一般人に知られないように、変異種を殲滅するための空間だ。普通の人に変異種の存在を知られるわけにはいかないからね。本来は天月さんと変異種のみを仮想空間に転送する予定だったんだが、なぜか、君も転送されていた。だから、君を調べる必要があるんだ。これでわかっただろ?だから、髪を頂戴」
そうか、そういうことか。
やっと話が繋がった。
昨日、僕が気がついたら違う場所にいたのは、仮想空間っていうところに事故か何かで送りつけられてしまったから。
赤い豚の怪物は変異種とかいうやつだった。
あの場所で人の気配が全く無かったのは、そもそも人のいない場所だから。
僕を助けてくれたヒーローは、変異種っていう化け物を倒すために、あそこにいた。
そして、天月葵がそのヒーローだということ。
彼女はおそらくこの人に頼まれて、僕をここまで連れてきた。
それで、仮想空間って所に送られてしまった原因は僕の身体にもあるんじゃないか、ということで僕の血を注射器で採って、さらに髪の毛を要求している。
こういうことらしい。
僕は自分の髪の毛を適当に抜いて、目の前の一ノ宮博士に渡した。
「やっとわかってくれたか。じゃあ、結果が出るまでそこにいてくれ」
僕の手から髪の毛を奪うようにして受け取ると、カーテンの向こうへと消えてしまった。
また、僕と天月葵が取り残される。
「あのさ、天月さん」
僕は聞きたくてしょうがなかった事を聞こうとした。
どうして君は闘っているのか、と。
けれど。
「出たよ、結果。血液だけで十分だったよ。悪いね」
一ノ宮博士が戻ってきてしまった。
なんというか、すさまじく早い。
前もって血の方だけを調べていた、という事だろうか。
「それでさ、久坂英志君に提案があるんだけど」
一ノ宮博士は笑顔で言った。
「君、ヴァリアント・システムを使ってみないかい?」
「博士、それは」
そう言った天月葵の顔に、初めて感情らしきものがうかがえた。
それは、焦りだと思う。
「彼は一般人です。巻き込むわけにはいきません」
「彼の適合値は全て君を上回っていたんだ。それだけで理由としては十分だ」
「でも」
「それに、指揮官は僕だ。誰を闘わせるかは、僕が決める」
その声は、僕に話しかけたときよりも低く、暗かった。
こっちが本来の喋り方なのかもしれない。
「あの、ヴァリアント・システムって何ですか?」
使う、使わないはともかく、僕はそれが何なのか全くわからない。
「君ならきっと気に入るよ。きっとね」