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ヒーロー  作者: 山都
第二章 エニティレイター
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一ノ宮博士 1

この物語の敵にあたる、「変異種」についての説明の話。

わけわからない理屈ですが、大目に見てください。

「はあ……どうも」

 僕は差し出された名刺を受け取った。

 それには今、一ノ宮という男が言った通りのことが書かれていた。

 『対変異種第三実動隊 現場指揮官 一ノ宮敦』。やたら長い肩書だ。


「何所から説明しようか。君は何か知りたいことはあるかい?」

「それなら、何で僕の名前を知ってたのかを……」

 どうでもよさそうなことなのだが、僕が一番気になっていることと言ったらそれだった。

 というか、他の事に関しては知りたいとかそういう次元じゃなかった。全くの理解不能で、知りたいという気持ちすら起きない。


「そうだな、そんな事よりもまずは変異種について説明しようか。その方がいいと思うんだが。構わないかい?」

 自分から言ってきたくせに、目の前のこの人は僕の質問に答えてくれない。

「じゃあ、それで」

 僕は気の無い言葉を返した。

 多分僕に拒否権は無いんだろうし、どうせ全部知らないことばかりだ。

 どれから聞いても一緒だろう。

 けど、僕の考えは甘かった。


「変異種というのは、全ての生物の遺伝子に眠っていると言われている『進化の系譜』が、脳や身体に影響を与えるようになった生物の事を指す。ある程度の差はあるが、どの個体も理性を失い、凶暴性が増す、という特徴がある。これはヒトおよび霊長類と言う種の最大の特徴である発達した脳が、『進化の系譜』内に記録されている他の生物のものと入り混じることにより、俗に言う、本能という奴が活発化するのが原因だ。他の生物は理性を持ちながら行動することは無いからね。極稀に全ての『進化の系譜』を自由に引き出せる個体が発見されるが」


「あの、すみません。もう少し解りやすく教えてもらえますか?」

 一ノ宮という男の口から出た言葉は、さっきよりも訳がわからなくなっていた。

 僕の言葉を聞き、目の前の男は首をかしげた。

「十分解りやすいと思うんだがなあ……」

 そんなことはない、という言葉を飲み込んだ。


「うーん、じゃあこうしよう」

 そう言うと、彼は黒いカーテンの向こうへと行ってしまった。

 その場には、僕と天月が残される。

 お互い、何も喋らない。

 一ノ宮さんはカーテンの向パソコンをいじっているようだ。

 キーボードを打ち込む音が、こっちまで聞こえてきた。

 ここにもノートパソコンはあるのに、何故向こうで作業をするのだろう。


「天月さん、あの人って、天月さんの父親とかじゃないんでしょ?」

 二人の間に流れる沈黙に耐え切れなくなった僕は、天月葵に問いかけた。

 これは僕が二番目に気になっていたことだ。

 彼女はここが家だと言った。それなら一ノ宮と言う人保護者と言うことになるのだろうか。

 僕にはあの人が保護者、と言うのが想像できない。


「そう。一ノ宮博士は現場指揮官。私の上司。だから、私のパパではないわ」

 一ノ宮と言う人はどうやら博士らしい。

 けど、そんなことより。

「パ、パパ?」

 僕は彼女のその言葉に驚いた。


「何?」

「天月さんがパパなんて言うとは思ってなかったから」

 今日の朝から今までの間で、天月葵はずっと淡々とした口調だった。

 自分の言いたいことを、必要最小限の言葉で語る。そんな感じだった。

 その彼女が、自分の父親のことを「パパ」と呼ぶだなんて、誰が予想できただろう。


「パパって呼ぶのは、おかしいの?」

 彼女は僕の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 なんというか、近い。

「いや、そんなことないと思うよ」

 僕は何も考えずにそう言った。というか、考えられなかった。

「そう。ならよかった」

 そう言って、彼女は僕から顔を離した。


 それから少しして。

「これなら大丈夫だろう」

 一ノ宮博士がカーテンの向こう側から飛び出してきた。

 その手にはいくつものコードに繋がれたノートパソコンがあった。それらのコードは全て、サーバーへと伸びている。

「どうやら君は一つ一つの単語を明確にしなくちゃわからないようだからね」

 普通の人間はそうだと思うんだけど、一ノ宮博士の中では僕は特別に理解力のない人間ということらしい。

「説明することは最低限に絞ることにしたよ。これでわかるはずだ」 

 一ノ宮博士が僕へと見せたノートパソコンの画面には、昨日の怪物が、赤い豚がいた。


「こいつは」

 僕を握りつぶし、殺そうとした怪物。

 そして、ヒーローに倒された怪物。

 なんでこいつの画像が画面の中にあるんだろう。

「そう。これが変異種。普段は僕たちと同じような人の形をしているけど、遺伝子の中に刻まれている『進化の系譜』にアクセスし、このような化け物になってしまう」


 画面の中には赤い豚以外にも、下半身が馬の人間や、蝙蝠のような人型の化け物がいた。

「『進化の系譜』って?」

「『進化の系譜』とは、全ての生き物の遺伝子に刻まれている、進化の過程の記録だ。僕たちがプランクトンからこの姿までになるまでの過程や、そしてなりえた可能性までが刻まれている」


「あの、そんな話は聞いたことが無いんですけど」

 なんなんだ、そのトンデモ理論は。

「ある意味、有名だよ。この説は知らないかい? 『生物の一生は遺伝子に刻まれている』っていう説。それの飛躍版だと思えばいい。『生物の進化は遺伝子に刻まれている』ってことだ。もっとも、未来の進化の過程も刻まれている。解析した結果によると、僕ら。つまりヒトという種は行き止まりのようだ。ここから先に発展しない。退化ならしていくだろうが。まあ、そんな事は置いといて」

 画面は切り替わり、教科書に出てくうるような、枝分かれした図があらわれた。出発点は微生物で、終着点は人や鳥、魚などが描かれている。


「例えば君が遭遇したあの変異種なんかは、僕たちがなりえたかもしれない『豚』というの系譜を覚醒因子、まあ言うなれば、起動装置のようなものが呼び覚ます事によって、『人』という種と交わったものだ。君も体験してわかったと思うが、あいつらは凶暴だ。その理由は人の理性が交わった種の本能にかき消されてしまうから。それに彼らは自分を制御できないんだ。人間の理性なんて他の種の本能に比べればちっぽけなものだからね。だから変異種は危険な生き物だ。まあ、変異種に対する説明は以上。わかった?」

「あの、なんで変異種とか言うのは、『進化の系譜』っていうのを利用できるんですか?」

 というか、なんで他の動物と混ぜあっちゃうのか、よくわからない。

 普通の人間はそんなことはできない。


「それができるような突然変異をしているから、変異種って言うんだよ」

 なんというか、適当だ。

「まあ、大まかに言うとこうだ。本当はもっと複雑なんだが……これだけ知っていれば十分だろう」

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