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ヒーロー  作者: 山都
第二章 エニティレイター
20/97

放課後 4

 ――このキャンピングカーが家? いや、確かに人は住めるかもしれないけど。

 そんなことを信じられるわけが無い。

 常人には理解できない、高度なギャグの類なのかもしれない。


 彼女は制服であるブレザーの裏ポケットから黒いカードを取り出すと、それをドアの近くにあった差込口に入れた。

 少しすると、パネルと小型のカメラが出てきた。

 天月葵は慣れた手つきでそれを操作し、そして顔をカメラに近づける。

 一体何をしているのだろう。


 ただ、これだけはわかる。

 この車も、天月葵も、普通じゃない。


 カチャリ、とドアの開く音が聞こえた。

 直後、差込口から黒いカードが排出される。天月葵はそれをを差込口から取り出し、ブレザーの裏ポケットへしまった。


「こっち」


 そう言って、天月葵はキャンピングカーの後ろの方へ行ってしまった。

 僕は無言でついていく。それ以外にどうしたらいいかわからない。

 

 彼女はここでも何か捜査をし、そしてドアを開けた。

 中には確かに人が住めるだけの空間があった。

 ベットがあり、机があり、ソファーがある。机の上にはノートパソコンが置いてあった。

 奥のほうにはトイレだと思われる個室もあった。

 台所は無かった。普通は付いているものだと思っていたが、必ずしもそうじゃないのかもしれない。

 代わりに、巨大なサーバーと思われるものがある。

 運転席はここからだと見えない。黒いカーテンがさえぎってしまっている。


「上がって」

 彼女は土足のままで車の中に入った。

 僕もそれに続く。

 この車を家と呼んでいいのなら、女子の家に入ったのは幼稚園以来だ。


 キャンピングカーの中は、普通の部屋のようだった。

 少し狭い気はするが、確かに生活できなくはないだろう。

 けれど、ここに天月葵が住んでいるというのはかなり違和感がある。


 音を立てて、入ってきたドアが閉まった。天月葵が閉めたのだろうか。

 彼女は何もしていなかった。ただ部屋の中で立っていただけだ。

 すると。


「やあ、君。よく来てくれたね。名前は久坂英志、だったっけ?」

 黒いカーテンの向こうから男の声が聞こえてきた。

 天月葵の父親だろうか。

 車を高校生一人では運転できないだろうし、もし本当に彼女がここに住んでいるなら、一人で、というのは物騒だ。

 でも、今はまだ学校が終わったばっかりだ。備え付けられていた時計を見ると、三時五十分だった。

 こんな時間から家に帰っている親がいるだろうか。

 いや、それより前に、なんで声の主は僕の名前を知っているんだろう。

 

「はじめまして、か。僕の名前は一ノ宮。よろしく」

 そう言って出てきたのは、髪とひげを無造作に伸ばして白衣を着た男だった。

 少なくとも、一般人の類ではない。あまり関わってはいけない香りがする。

 それに、一ノ宮、と言う名前が苗字だとするなら、天月葵は血縁関係ではないということになる。


「あの、あなたは……」

「まあ、立ち話もなんだし、座りなよ」

 僕の言葉をさえぎって、一ノ宮と言う男はソファーに座り込んだ。

 僕は机を挟み、もう一方にあった椅子に腰掛ける。

 

「じゃ、ちょっと失礼」

 そういうと、一ノ宮という男は僕の腕に何かを刺してきた。

 あまりにも突然のことで、何が起こったか最初は理解できなかった。

 刺されたものが注射だと気がついた時には、もう僕の腕からそれは抜かれていた。


「え、あの、これは一体」

「悪いんだけどさ、髪も五本くらい、くれないかな。なるべく新鮮なやつがいいんだけど」

 一ノ宮という男は、僕の質問に全く答えてくれない。

 しかも、何故か僕の髪の毛を要求してきた。


 この男がとても危険な人間だという事はなんとなくわかった。

 正直逃げ出したい。けど、出口は閉まっている。

「君は昨日仮想空間に間違って転送されただろう? まあ、システムの誤動作だと思うんだけど、一応君も調べとかなくちゃいけないんだよね。血液サンプルだけじゃ足りないから、身体の一部を貰いたいんだけど、髪の毛が一番無難だろう? だから、髪を頂戴」

 一ノ宮と言う男は、半分以上理解不能な事を喋った。

 何かの調査で僕の血と髪の毛が必要だと言うことはわかった。

 でも、仮想空間とか、転送とか、システムの誤動作とか、全然意味がわからない。


「あれ? もしかして、天月君は事情を説明してないの?」

 困惑した僕の表情を読み取ってか、一ノ宮という男が天月葵に聞いた。

「はい。一般人に私達の事をむやみに公表すべきではないと判断したので」

 当然のように、淡々とした口調だ。今はその冷静さが怖い。

 それを聞いた一ノ宮という男は、ため息をついた。そして、胸ポケットから一枚の名詞を取り出す。

「いや、ごめんね。説明が無くて」

 何回か質問はしたのだが、それはすべて無視されていた。一ノ宮という男は、そういう人のようだ。

「じゃあ、改めて。僕は一ノ宮敦(いちのみや あつし)。政府管轄の、対変異種第三実動隊の現場指揮官を任されているんだ」

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