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ヒーロー  作者: 山都
第二章 エニティレイター
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放課後 3




 僕達二人は学校の外へと出た。大通りを歩く。

 校内での視線の鋭さは相当のものだった。学校の外でもそれはまだ続いている。主に、帰宅途中の生徒からだ。 

 僕の先を行く天月葵は、僕の家とは逆方向へと向かっていた。

 その方角にあるのはお洒落なカフェや値段の張る料理屋、そして高級住宅街だ。

 天月葵は何も喋らず先を行く。

 何か話題を切り出そうかと考えるが、よく考えれば僕は天月葵の興味のありそうなことを何も知らない。

 転校初日の生徒について、知っている事がある方がおかしい。

 そもそも、僕と天月葵がこうして並んで歩いている事自体が間違ってる。

 そうして無言のまま歩いている内に、カフェや料理屋を通り過ぎていった。この先にあるのは、高級住宅街くらいだ。

「あの、天月さん?」

 僕はあたりまえの、というかもっと早くに切り出しておくべき話題を口にした。

「何」

 彼女の返事はそっけない。

 遠藤曰く、クールで手厳しい。そういうことなのだろうか。

「僕達、何所に向かってるんでしょうか」

「私の家」

 僕は立ち止まってしまった。

 僕の聞き間違いじゃなければ、家、と言ったと思う。

 いや、でも、そんあことあるわけないし。

「どうしたの?」

 彼女が不思議そうに問いかけてきた。

 驚くほどのことでもないじゃないか、と言っているように。

「いや、ごめん。なんでもない」

 もう、わけがわからない。

 僕は考えるのも面倒くさくなって、歩き出した。

 どうせ、彼女はなんとも思ってはいないんだ。僕だけ振り回されてるみたいで、馬鹿らしい。

 昨日からこんなことばっかりだ。気がついたら変な所にいて、変な怪物に殺されかけて、ヒーローに助けられて。転校生が来て、いきなり話しかけてきて、何故か約束をさせられて。誰かが故意にいろんなことを僕にぶつけているんじゃないか、って思うほどだ。

「私の家、もうすぐで着くから」

 ここの住宅街は、僕みたいな庶民には夢のような場所だ。幅の広い道の横には、手入れの行き届いた街路樹。デザインのよい街頭がいくつも並び、夜になると木にくくりつけられた電球がライトアップされる。ここにはいくつもの高層マンションが立ち並び、二十階なんてざらだ。この街の中で、異様に浮いている。この場所だけ、建物が高すぎるのだ。

 僕らの街は、都心ほど栄えているわけでもないし、マンションが大量に建造されて得いるわけでもない。というか、マンションなんてここの高級住宅街くらいのものだ。安アパートならば、何軒かあるけれど。

 駅から近く、都心へも近いというこの住宅街は、いくつものセキュリティによって守られている。聞いた話では、事前に頼みさえすれば衣類のクリーニングや、部屋の掃除までしてくれるサービスがあるらしい。夜景の面では少々物足りないのかもしれないが、その分、サービスを売りにしている。

 もしかして、天月葵はそんなところに住んでいるのだろうか。家が金持ちで、お嬢様、という事なのだろうか。ありえない話じゃない。

 だがそれは僕の勘違いだったようだ。彼女は高級住宅街を過ぎても歩みを止めなかった。

 この先には人が住めそうな、家と呼べそうなものは無い。川を越えた先に廃工場がたくさんあるくらいだ。

「ここ、降りて」

 そう言って彼女は川原の土手を下っていった。

 一体、彼女の家は何所にあるのだろう。

 僕は彼女についていった。

 ここに来るのは久しぶりだ。中学二年生以来だろうか。

 川原にはいくつかのビニールシートで作られた家と、ダンボールが捨てられている。雑草がこれでもか、というくらい生えている。地面はぬかるんでいて、靴には大量に泥がついた。

 そんな場所に、黒いキャンピングカーが留めてあったあった。窓はカーテンに覆われていて、上には巨大なアンテナみたいな物が付いている。不気味だ。誰が住んでいるのだろう。

「着いたわ」

 そう言って彼女が止まったのは、黒いキャンピングカーの前だった。

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