放課後 2
「そうは言ってもさ、俺たちって中学生の頃からほんの少しだけど高校の内容を先取りして勉強してるだろ? だから、転校生が内部生のクラスに入るって、おかしいと思うんだ」
田上君の疑問は正しい。それは、僕も思っていたことだった。
中高一貫生のメリットの一つに、中学生の頃から高校の内容を勉強し、普通の高校生よりも早くカリキュラムを終えることができる、というのがある。
僕たちは普通の高校とは勉強している範囲が違う。少し進んでいるんだ。
けれど、高校から入ってきている生徒の勉強している範囲は、他の学校と大して変わらない。
だったら、転校生は高校からのクラスに転入するのが普通なんじゃないだろうか。
「そんな堅苦しいこと考えてどうするんだよ。それより面白いことがあるんだ。英志の野郎、放課後にさ」
「遠藤、やめてよ」
油断の隙もありはしない。
こいつは、ともかく人の恥ずかしいことをばら撒きたくて仕方が無いらしい。
「何? 俺、それちょっと興味あるんだけど」
「だろ? ほら、田上も知りたがってるし、いいだろ?」
「そんなの関係ないよ」
そんな理屈で暴露されるだなんて、たまったもんじゃない。
今、廊下にはたくさんの生徒がいる。
もし遠藤が言いたい事を全て暴露したら、僕はきっと主に男子生徒からの怒りの視線を浴びるだろう。
そんなのは嫌だ。
「英志、お前顔が赤いぞ。まあな。お相手があの愛しの彼女だもんな。口じゃあ否定しているが、満更でもないんだよな」
赤くなってない、と思う。多分。
「愛しの彼女? それって誰だよ。俺にも教えてくれよ、久坂」
「だから違うって」
「久坂君」
突然、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには天月葵がいた。もしかしたら、今の会話を聞いていたのだろうか。
そうだとしたら、僕はすごく恥ずかしい。きっと彼女は、そういうつもりで僕を誘ったわけじゃないのに。
「行きましょう」
僕は無言で頷き、それに従った。
遠藤と田上君が何も言わずに道を開ける。
二人とも、突然に現れた天月葵に驚いているんだと思う。僕だってそうだ。
僕と天月葵は二人で廊下を歩いていく。
途中、生徒の視線、特に男子生徒からの視線がきつかった。天月葵はなんともないのだろうか。
僕にとってこんなことは初めての経験だったから、緊張して仕方が無かった。
でもそれはきっと、視線のせいだけではなかったと思う。
「どういうこと、あれ」
「天月葵が、英志の放課後の相手って事」
「えっと、よく状況が飲み込めないんだけど」
「天月葵の先約は、なんと久坂英志君だったってことだよ」
「……マジ?」
「マジだよ」