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ヒーロー  作者: 山都
第一章 始まり
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出会い

まあ、タイトルのまんまです。

前半は普通のヒーロー物やりますが、四章終盤からはやりたい放題やるので、ダークでハードで主人公がトチ狂っちゃうような作品が大好きな方は期待しててください。


 子供の頃からヒーローに憧れていた。

 正義の味方、と言い換えてもいい。

 いかなる時でも正義を守り、いかなる場合でも悪を倒す。

 どんな強敵にも立ち向かい、どんな危険も乗り越える。

 自分が死ぬ可能性があろうとも怖れず、そして必ずやり遂げてみせる。

 そんなヒーローに憧れていた。


 今、僕の前でヒーローが怪人と闘っている。


 ここは一軒家が立ち並ぶ住宅街。時間は午後の五時を過ぎたところ。車一台と少し分の幅しかない道路には、僕のほかに目の前の二人しかいない。不思議だ。全く人の気配が無い。

 二人、と呼ぶのはもしかしたら間違っているかもしれない。特に一方は、人と呼ぶのに抵抗があった。

 ポリバケツとその蓋の隙間から見える光景は、あまり現実味が無く、それでいてはっきりとしていた。


 一方は黒のプロテクターを付けた人間。

 もう一方は赤い巨大な豚の化け物。

 ポリバケツの中で充満している生ゴミの臭いなんて、どうでもよくなる光景だった。僕の目はそれに惹きつけられてしまう。


 黒のプロテクターをした人間は、特撮にでてくるヒーローのような外見をしていた。どこかの番組の衣装だと言われても、違和感は無い。

 そいつの頭は黒いヘルメットのようなもので覆われていた。バイクに乗るときのようなヘルメットとは全く違い、ところどころが尖がっているヘルメットだ。目元や口元を全く確認する事ができず、どんな顔をしているのか、全くわからない。

 全身にはプロテクター以外に、白い線が所々に入っていた。背中には、ロボットでいうバックパックのような物がついている。


 赤い豚の化け物は、成人の二倍くらいの大きさをしていた。二足歩行しているくせに、顔は豚のそれだ。テレビに出てくる怪人のようだ。

 顔は豚とよく似ていたが、若干違う。筋肉質になっている感じだ。

 両手首には腕輪のようなものが填められていて、手には巨大な斧を持っている。斧も普通のものよりも巨大だ。

 今、それが振り下ろされた。その先には、黒のプロテクターをした人間がいる。


「危ない」


 かすかな声で僕は言った。子供の頃、テレビに映るヒーローを応援していた時のように。

 轟音と共に、アスファルトが裂けた。地面が震動し、道路に書かれた「止まれ」の文字が、真っ二つに両断される。アスファルトの破片が周囲に飛び散る。僕が中に入っているポリバケツに、いくつかの破片が当たった。

 プロテクターをした人間は、間一髪で豚の怪人の斧を左に避けていた。そしてそのまま跳躍して化け物を飛び越え、その背後へと着地する。その高さは三メートル以上あった。常人の身体能力をはるかに超えている。


 ――本当にヒーローみたいだ。


 化け物が唸り声を上げながら背後を見た。身体をねじるようにして斧を引き抜いた。身体を相手に向けながら斧を振りかぶり、そして今度は縦ではなく横で切りつけた。

 斧はブロック塀を破壊して家の一部を切り裂き、そして目標へと向かっていく。


 プロテクターをつけた人間は跳躍した。そしてそのまま化け物の顔面へと拳を叩き込む。

 化け物がよろけた。斧を手放し、仰向けになって倒れていく。手放された斧は、民家へと激突していく。それでも人の声はしなかった。野次馬が来てもよさそうなのに、誰もこない。


 そのまま追撃をかけるのかと思ったが、着地するとなにやら右腕のブレスレットを操作し始めた。ダイヤルを回すような仕草をし、そして右腕を前へと突き出す。

 光が右腕のプロテクターに集まっていった。機械のモーター音が辺りに響き、バックパックから蒸気が噴出した。

 化け物はそれに気がついたのか、身体を起き上がらせ、焦ったように殴りかかった。倍以上ある体格の化け物が襲い掛かってくる。

 しかし動じる様子は無い。特に何かをするわけでもなく、右腕を突き出したままだ。


 化け物の拳が叩き込まれた。鈍い音が走った。プロテクターが破壊された音なのかもしれない。

 だが相変わらずモーター音と蒸気は出つづけていた。


 僕の目には、左手で化け物の手を受け止めている姿が映っていた。子供のパンチを受けるような軽さで。

 次の瞬間、右拳が化け物に叩き込まれた。光と轟音と爆風が同時に表れ、そして化け物が吹き飛ばされた。

 民家の窓ガラスに罅が入って、瓦がいくつか飛んでいった。僕の入っていたポリバケツはゴミ袋へと倒れこんだ。


 化け物は十五メートルほど吹き飛ばされていた。その腹部は発光していて、そこから全身に光の罅が走っていく。そして――砕けた。


 化け物は光の粒子となり、消えていった。それを確かめると、プロテクターをつけた人間は僕の方へとやってきた。

 僕はポリバケツから這い出す。生ゴミのにおいが鼻についた。気が緩んだのかもしれない。

 変わりに胸が高鳴っていた。僕の目の前にヒーローがいる。子供の頃から憧れてたヒーローが。


「立てる?」


 プロテクターを装備した腕が差し出された。左腕だ。右腕はまだ若干発光している。


 これが、僕が初めてヒーローを見た日だった。

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