文通で芽生えた恋
ここは、海沿いの漁師町。1人の漁師、良太という青年がいた。良太は、1年のうちほとんど、海の上で過ごす生活だった。当然、彼女は、いなかった。彼女が、ほしいな、と、思いつつ、年齢を重ねてしまっていた。良太は、今、27歳だった。
ある時、雑誌の文通欄を見ていたら、文通を、やってみたくなった。良太は、さっそく、便箋と封筒をスーパーに、買いに行った。どんなのがいいか、迷ったが、シンプルな模様のにした。
家に帰り、文通欄をみて、どの子に書こうかな、と、迷っていた。名前が、かわいかったので、斉藤五月という人にした。秋田の人だった。
さっそく、手紙を、書いた。自己紹介で、自分は、漁師をやっていて、ほとんどが、海の上での生活なこと、これまで、彼女とは、付き合ったことがなかったことなど、書いた。返事がくるかな?と、不安だったが、切手をはり、ポストに出した。
良太の住んでいるところから、秋田は、少し遠かったが、文通なので、よしとした。
1週間くらいしてから、五月ちゃんから、返信の手紙がきた。五月ちゃんは、24歳で、保育士をしていた。子ども好きらしい。秋田県秋田市にすんでいる、とのこと。家族は、両親と弟がいる、とのことだった。
良太は、返信がきたことに、有頂天になっていた。あまり、文章を書くのは、好きではなかったが、頑張って、書こうと思っていた。
良太は、これから、よろしく、と、言って、海での生活のことを、書いて、教えた。良太は、五月ちゃんからの、手紙を、心待ちにする様になっていた。
五月ちゃんも、良太が、自分にない感じをうけて、興味を持っていた。
何度か、手紙のやりとりをするうちに、良太は、会ってみたくなっていた。自分は、漁があるので、秋田に行くのは、無理があるので、五月ちゃんに、遊びに来てもらいたかった。
五月ちゃんに、提案をした。五月ちゃんの返事は、意外にも、オッケーだった。良太は、すごく嬉しかった。漁で捕れた魚を、さばいて、ごちそうしようかと、思っていた。
とにかく、良太は、五月ちゃんに、会うことが、楽しみだった。五月ちゃんは、お盆休みをとり、良太のいるところに、来ることになった。
当日、駅で、待ち合わせて、車で、少し、町を案内した。初対面だけど、すぐに打ち解けられた。ほんとに、前からの知り合いのような感じだった。
良太は、思い切って、五月ちゃんに、聞いてみた。これからも、俺とこうして会ってくれるかな、と。五月ちゃんは、いいよ、と、言った。良太は、天にも昇るような気持ちだった。
そして、良太は、五月ちゃんを、家族にも、会わせようとしていた。両親と、30歳の兄、宗太郎に、五月ちゃんを、紹介した。五月ちゃんは、その席で、宗太郎に、一目惚れを、してしまったのだ。タイプは、兄弟、全然ちがっていたが、宗太郎の方に、惹かれてしまったのだ。
五月は、複雑な気持ちになっていた。まだ、良太とは、付き合っているわけではないから、宗太郎に、乗り換えても、いいのかな、と。宗太郎も、まだ、独身だった。宗太郎は、地元の役場に勤めていたのだ。宗太郎も、五月ちゃんのことは、とても、礼儀正しくて、感じのいい子だな、と、思っていた。
両親は、とても、喜んでくれた。食事をごちそうになっても、五月は、のどを通らなかった。悩んでいた。
その日は、地元の旅館に、泊まった。1人、部屋に戻ると、五月は、自分の心の変化の早さに、戸惑いを、感じていた。そして、ここには、こなければよかった、と、思う様になっていた。お兄さんが、いることも、知らなかったが、まさか、こんな気持ちになるとは…
文通だけで済んでいれば、何も問題は、なかったのに、と、思っていた。今更、時を戻せないから、仕方はないけど、宗太郎への、この気持ちだけは、どうすることもできなかった。
翌日は、家族みんなで、地元の食堂で、ランチを食べた。五月は、本当に、気まずかった。
この場を去りたい気分だった。良太と宗太郎、どちらもいる中で、一緒にいるのは、苦しかった。
そしてまた、良太の車で、ドライブデートをしたのだ。もう、良太への気持ちは、全くなかったのに。本当に、どうすればよいのかと、五月は、考えあぐねていた。
良太は、五月ちゃんが、なんとなく元気がなかったので、兄を誘って、カラオケに行くことにした。宗太郎も、行くことになり、五月は、嬉しかったが、良太の手前、そう、喜べなかった。
3人で、カラオケに行き、歌を歌った。五月は、宗太郎とも、いろいろ、話した。なかなか、縁がなくて、一人でいることなど。兄弟仲は、あまり良くないなど。とても、楽しく過ごせた。
翌日、五月は、秋田に帰ることになっていた。良太は、五月ちゃんに、正式に、付き合ってほしい、と、言った。五月は、良太に、「ごめんなさい。」とだけ言った。良太は、とても、落ち込んだ。誰か、好きな人でもいるのかな?と、思っていた。
良太は、五月ちゃんを、宿まで送った。良太も、いろいろ考えた。せっかく、文通で知り合えたのだから、たとえ、付き合えなくても、この縁は、大事にしたい、と、思っていた。
翌日、良太は、旅館に迎えに行き、五月ちゃんを、駅まで、送った。良太は、ただ一言、「これからも、よろしくね。また、遊びにきてね。」とだけ、言った。五月は、「ありがとう。」と言った。
五月は、秋田に戻った。文通を、やめてしまおうかとも、思った。でも、イチカバチカ、良太に、胸のうちを、聞いてもらおうかな、と、思っていた。残酷なことだとは、思ったが。
五月は、また、良太に、手紙を書いた。
『この間は、ありがとうございました。とても、楽しかったです。ところで、今日は、良太さんに、お話しがあります。この間、ご両親とお兄さまに、会わせていただき、本当に、ありがとうございました。私は、宗太郎さんにあった時、一目惚れをしてしまいました。こんなことを、良太さんに書くのは、不謹慎だと思っています。でも、良太さんに、本当のことを、話しておきたくて、ペンを、とりました。ひどいことを、書いて、本当に、ごめんなさい。』と、書いた。
良太から、1ヶ月後に、五月のところに、手紙が届いた。
『先日は、きてくれて、ありがとう。手紙、読みました。やはり、ショックでした。まさか、兄のことを…思ってもいなかった言葉でした。でも、本当に、兄のことが好きなら、俺を気にせず、あきらめないでほしい。俺で、役に立つことがあれば、何でも、いってほしい。』と、書いていた。
五月は、それを読んで、考えた。兄弟の間を引き裂く事になりは、しないかと。なかなか、結論は、出なかった。しばらく考えたあと、五月は、宗太郎を、あきらめることにした。どんなに好きでも、やはり、いけないと思ったからだ。結論に、悔いは、なかった。その旨、良太に、また、手紙を書いた。
良太は、手紙を見た。五月ちゃんに、また、手紙を、書いて、『本当に、それでいいの?』とだけ、添えた。
良太は、思い切って、兄の宗太郎に、言った。「五月ちゃんが、兄さんの事が好きみたいだよ。」宗太郎は、ビックリして、何を言ってるのか、というような顔をした。良太は、五月ちゃんの連絡先を、宗太郎に、渡した。
宗太郎は、良太に、「おまえ、本当にそれでいいのか?」と、聞いた。良太は、「五月ちゃんの気持ちを、優先したいから。」と、言った。
宗太郎は、考えていた。兄弟仲は、そんなに良くはなかったが、複雑な、心境になっていた。でも、五月ちゃんの気持ちも、正直、嬉しかった。宗太郎は、悩んでいた。
しばらくして、宗太郎は、五月ちゃんに、手紙を書いた。良太から、五月ちゃんの気持ちを、聞いたことを、書いて、自分も、少なからず、好意は、持っていたことを伝えた。
五月は、宗太郎にも、あきらめる旨、伝える、手紙を書いた。2人の仲を壊したくないから、と。
そしたら、宗太郎は、今度は、自分が秋田に行くから、会ってほしいと、手紙を書いた。そして、週末、仕事が休みの時に、すぐ、秋田に向かった。五月は、とても、嬉しかった。宗太郎が、秋田にきてくれたことが。五月の運転で、ドライブした。男鹿半島に行って、なまはげも、見てきた。五月も、宗太郎も、とても
楽しかった。晩ご飯を、食べて、五月の家に行き、五月の両親と弟さんと、会った。とても、歓迎してくれた。
その日は、五月の家に、宗太郎は、泊まらせてもらった。一泊二日の短い旅行だったが、五月と宗太郎は、お互いの気持ちを確認できた。
宗太郎は、早めに、五月と結婚したいと思っていた。離れているのが、寂しくなっていた。
もう、宗太郎は、付き合わなくても、すぐにでも、結婚したいと、思っていた。五月に伝えると、五月も、離れたくないから、早めに結婚したい、と、言ってくれた。2人は、結婚の約束をして、宗太郎は、帰って行った。
宗太郎は、自宅に戻り、両親と良太に、五月ちゃんと、結婚することにした。と、伝えた。両親は?ビックリした顔をして、良太の方を見た。良太は、「兄さん、おめでとう。」と、言って、祝福した。両親も、そういうことになったのだな、と、宗太郎を、祝福した。少し、複雑な気持ちだったが。良太が、いいのなら、それでいい。と、思っていた。
良太は、その日から、長い漁に、出かけていった。




