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カイジュウが出た      :約2000文字 :子供

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/06/14

 ある日、ぼくの住んでいる町に、突然カイジュウが現れました。

 その日、ぼくは学校から家に帰る途中でした。空は青く晴れていて、商店街ではお肉屋さんのメンチカツの匂いがふわんと漂っていました。八百屋のおじさんは店先で大きな声で呼びかけていて、自転車をすいーっと漕いでいるおばさんもいて、いつもどおりの午後でした。

 でも突然、地面がどしんと揺れたのです。

 最初は地震かと思いました。道を歩いていた人たちはびっくりして「きゃー!」「わー!」と叫びながら走ったり、その場にしゃがみ込んだりしました。お店の人たちも「うわー!」と声を上げ、外へ飛び出しました。看板がぐらぐら揺れて、自転車が次々と倒れ、窓ガラスがびりびりと震えました。

 どしん、どしんと地響きが続いて、町はたちまち大騒ぎになりました。

 そして、交差点の向こうからカイジュウが姿を現したのです。


 カイジュウは大きな鳴き声を上げながら、車を踏みつけていました。

 ビルくらいの高さで、二本足で立ち、長い尻尾を引きずったり、ぶんっと振り回したりしていました。図鑑で見たキョウリュウによく似ていましたが、顔にはたくさん皺がありました。

 黄色い目がぎょろぎょろ動き、口を開くたびに四角い歯が並んでいるのが見えました。みんなとても怖がっていました。


 ところが少しすると、ふしぎなことが起こりました。

 みんな、だんだんとカイジュウの近くに集まっていったのです。

 最初は遠くから様子を見ているだけだったのに、写真を撮ったり、指を差して笑ったりし始めました。

 なぜかというと、みんな、カイジュウが何も壊せていないことに気づいたからです。

 ビルにぶつかってもぜんぜん崩れないし、車を踏みつけても、ぐしゃっと潰れるはずなのに元のままなのです。街路樹を尻尾で薙ぎ払っても葉っぱ一枚落ちませんでした。

 でも、カイジュウはそのことに気づいていないようでした。

 何度もビルに体当たりし、たくさん車を踏みつけ、大声で吠えながら暴れ続けていました。なんだかとても真剣な様子でした。


 やがて、マスコミの人たちが大勢駆けつけてきました。大きなカメラを向け、テレビ中継を始めたのです。ヘリコプターまで飛んできて、カイジュウのことは町中に知れ渡りました。


 みんな、カイジュウのことを『トリモロサウルス』と呼ぶようになりました。

 トリモロサウルスは「トリモロス!」「トリモロース!」と鳴くからです。

 でも、ぼくにはそう聞こえませんでした。

 ぼくには「ニホンヲブッコワース」と聞こえたのです。たぶん、「二ホンをぶっ壊す」と言っているのだと思います。

 トリモロサウルスは真剣に何かを壊そうとして暴れているのに、みんなはお祭りみたいにはしゃぐばかりで、その意味をまったくわかっていないようでした。カイジュウが大声で叫ぶたびに、みんなが笑ったのです。

 やがて、ケイサツの人や政府の人たちがやってきました。黒い車が何台も並んで停まり、集まっていた人たちを解散させました。ここに集まってはいけないそうです。


 でも、ぼくにはさっぱりわかりません。

 だからしつもんです。


 そーりはテレビで「集まるのは問題だから解散だ」って言っていたけど、その『もんだい』って、いったいなに?

 先生は、「この国の問題は他にたくさんあるのに」って言ってた。「議員が多すぎるから減らしたほうがいい」って言ってた。でも本当に減らされちゃったのは学校の先生みたいです。

 ワタナベ先生、だいじょうぶかなあ。

 ぼくたちの前で、知らない人たちにどこかへ連れていかれたけど、いつ帰ってくるのかなあ。新しい先生は「ワタナベ先生は入院しています」って言っていたけど、本当にそうなのかなあ。早く元気になるといいなあ。

 やっぱり議員さんはエライから逆らっちゃだめなんだ。だからテンバツが当たったんだって、みんな言ってる。

 でも、そーりは「みんな豊かになる」って言っていたのに、ぼくのおこづかいはぜんぜん増えていないよ。パパもママもお布施のことばかり心配していて、大好きな焼肉屋さんにも連れて行ってくれなくなりました。


 でも、教祖様は簡単にお金を使っちゃうんだよなあ。

 ねえ、あのお金ってだれのお金なの?

 ねえねえ、だれか教えてよ。そーり、政治家さん、テレビやネットのみなさん、教祖様。

 どうして教会以外で集まっちゃだめなの? どうしてぼくがお金を使うと怒られるのに、たくさんムダづかいしても怒られないの? どうして解散させられるの?

 やっぱりこれも秘密なのかなあ。


 トリモロサウルスは夕方頃にふっと消えました。

 教会が霊界と繋がるための実験をした結果、現れた幽霊のようなものだそうです。昔の人たちの思念が集まって生まれた存在なんだって、大人たちは噂していました。


 ぼくにはよくわかりません。

 でも、トリモロサウルスはいったい何を壊したかったのかなあ。

 あんなに必死な顔をして叫びながら暴れていたんだもの。聞いてみたかったなあ。

 ぼくが代わりに壊してあげられたらいいのになあ。

 ニホンってなんなんだろう。

 大昔、そんな国があったってワタナベ先生が言っていた気がするけど、よくわからないや。

 とりあえず今日もお祈りをして寝ようと思います。

 トリモロサウルスの夢が見られるといいな。



 四年二組 ナカムラ ヤマト

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