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神様だ! 神力ゼロですが  作者: 狛猫
第1章「ひのひの村」
3/10

#01-03「神なのに手取り8万5千円!?」


こたつの縁に指先を添えたまま、少女は視線だけを落とした。古びた木の天板をぼんやり見つめながら、頭の中で何度も状況を整理する。


神だと言い張る少女。

その付き添いらしい神使。

駐車場になってしまった神社で二日間の野宿。

そして主食がこんにゃく。


どこをどう切り取っても、まともな話ではない。なのに、そのまともではないはずの内容が、妙なところだけ現実味を帯びていた。


誰にも言わず神宮へ行ったことを知っていた、自称神様。しかも、その隣にいた神使が狛犬に変わるところまで、この目で見てしまっている。


だからこそ、冗談だと笑い飛ばしてしまうこともできなかった。


神使の小さな咳払いが、静まり返った居間に落ちる。


「急なお話で困らせてしまっているのは承知しています。ただ、正直……本当に切羽詰まっておりまして」

「切羽詰まってるのは分かるんですけど……」


そこで少女は言葉を切り、困ったように眉を寄せた。


「そんな急に、泊めてって言われても」

「大丈夫、家賃は入れる」


間髪入れずに返ってくる。


そういう問題ではない。言いたかったのは、いきなり家に押しかけてきた素性の分からない相手を泊めること自体への戸惑いだった。けれど、どうやら向こうは別の意味に受け取ったらしい。


確かに、お金を入れてもらえるなら多少は気が楽になるのかもしれない。けれど――


「一人10万、私と犬ころ合わせて20万でどう?」


思わず目を丸くした。

その横で、神使の表情がすっと曇る。


「神様。その金額はどこから出すおつもりですか?」

「神の財力を甘く見るなよ?」

「甘く見ていないから申し上げているのですが」


静かに続いた声は容赦がない。だが神様は、その冷たさに気づかないまま、妙に得意げに胸を張っている。


「神様の現在の手取りで、それは無理です」

「……は?」


ぽかんと口が開いた。


「今月からの神様の手取りは、確か8万5千円だったかと」

「8万5千円!?」


さっきまで家賃の話をしていた本人が、いちばん驚いた声を上げた。


「ちょっと待て、少なすぎるだろ! なんで!?」

「神宮手当と、巫女のバイト代が今月分から減額されたからです」

「聞いてない!」

「言いました」

「最低賃金を下回ってる!」

「神宮は宗教法人です」


神様は絶句した。


宗教法人の理屈の前では、どうやら神の力すら通じないらしい。


その姿に、少女は思わず少しだけ同情しかけた。


「ちなみに……お前はいくらなの」


神使が一瞬だけ嫌そうな顔をしたものの、静かに視線をそらして口を開く。


「手取りで、58万5千円です」


一瞬、場が止まった。


次の瞬間、神様がこたつの上へ身を乗り出す。


「なんで使いの方が高いんだよ!」

「階位で基本給が決まりますので」

「ふざけんなよ! 私、神だぞ!?」

「ランク外の、ですね」

「神罰」


足が伸びた。

神使は慣れた動きで少しだけ身を引いたが、こたつに足を取られて避けきれず、結局“神罰”という名の理不尽な足蹴りを食らってしまう。


「痛いですよ……」

「痛いで済むと思うなよ! 絶対労働組合作ってやる!」

「そんなところに情熱を燃やす前に神階を上げてください」


ぐぬぬ、と悔しそうな唸り声が漏れる。


そのやり取りを見ながら、少女はさっきまで抱いていた警戒が、少しずつ別のものに変わっていくのを感じていた。


やっぱり変だ。変なのには違いない。けれど、悪い人たち──いや、片方は神らしいのだが、とにかく悪意のある何かにはどうしても見えない。


ひとしきり悔しがったあと、神様はふいに何かを思いついたように顔を上げる。


「少女ちゃん。家賃は先払いで神使が出す」

「え?」


ぴたりと神使の動きが止まる。


「私がですか?」

「迷惑料と食費光熱費込みで58万5千円を先払い」

「それ私の一か月分の手取り額じゃないですか」

「そうだよ」


悪びれもせず、むしろ名案だと言わんばかりににっこり笑う。


「悪い話じゃないでしょ」


こたつの向こうから身を乗り出し、神様は少女を覗き込むようにして言った。目が妙にきらきらしている。必死なのか、神使に一泡吹かせることに妙な快感を覚えているのか、その両方なのか。勢いがあまりにも妙な方向へ振り切れていた。


思わず少女はたじろぐ。


「い、いや、そんな……」

「足りない?」

「違います」

「じゃあ、私が1万5千円追加して合わせて60でも」

「そういう問題じゃなくて」


神使が深く、深く、今日一番のため息をついた。


「神様。金額を積めばどうにかなる話ではありません」

「でも現実問題、住むところないし」

「それはそうですが」

「また野宿かぁ」


わざとらしいくらいに、声がしょんぼりと沈む。


「神社さえ残っていれば、こんな苦労しなかったのになぁ……」


少女の肩が、わずかに揺れた。

それを見逃さなかったのか、こたつに顎でも乗せそうな格好のまま、さらにぽつりと続ける。


「駐車場は寒いしなぁ」


沈黙が落ちた。


ちらちらと、窺うような視線が少女へ向く。


祖父の家だ。自分ひとりの家ではない。勝手に決めていいことではないのかもしれない。けれど今、この家にいるのは自分だけだった。

目の前には、神だか何だか分からないが、本当に行き場をなくした二人がいる。


小さく息を吸い込んでから、少女は顔を上げた。


「……分かった」


ぴたりと神様の動きが止まる。

神使もはっと顔を上げた。


まだ少し迷いを残した表情のまま、それでも少女ははっきりと言う。


「泊めてあげる」

「やったー!」


こたつから立ち上がる勢いで神様が身を乗り出し、その勢いでぴょんぴょん跳ねる。まるで子供がオモチャをもらったみたいな喜び方だった。


あまりにも無邪気に喜ぶものだから、少女は慌てて言い添えた。


「ただし、変なことしないでください。あと、大声もなるべくなし」

「するわけないじゃん!」


そう言いつつも、神様は大声を上げながら少女の手をぎゅっと握り、盛大にぶんぶん振った。


神使は何度目か分からないため息をつき、額を押さえる。


「神様、まずはお礼を」

「そうだった」


咳払いを一つして、今度は少しだけ神らしく見えなくもない顔を作る。


「少女ちゃん、ありがとう。命の恩人だ」

「そこまでのことじゃ……」

「そこまでだよ。駐車場二泊は神でもきつい」

「その比較対象を基準にしないでください」


静かに神使が突っ込んだ。


そんな二人を見て、少女は困ったような、それでいて少しだけ柔らかい顔になる。


「神使君、あとで銀行に行ってお金を下ろして少女ちゃんに渡して」

「……」

「返事は?」

「貸しですよ、神様……」


盛大にため息をつきながらも、神使は否定しなかった。


神様は満足げに頷いたあと、何かを思い出したように目を輝かせる。


「ところで夕飯って食べた?」


少女はきょとんと目を瞬いた。


「まだ、だけど」

「神使君。食事の準備を超特急で」

「……分かりました」


もはや完全に諦めきった顔で、神使が立ち上がる。


「少女さん。台所、お借りしてもよろしいでしょうか」

「あ、私が作ります」

「まぁまぁ」


嬉しそうに手を振りながら、神様が口を挟んだ。


「神使君は犬ころのくせに、料理だけはそこそこだから任せてちょ」

「褒めているのか貶しているのか、どちらですか……」


少女は思わず吹き出しかけ、慌てて口元を押さえた。だが神様は見逃さない。


「また笑った」

「笑ってません」

「いや、今ちょっと笑った」


頬がほんのり赤くなる。


そんな様子を見ながら、神使が小さく頭を下げる。


「それでは、台所を拝借します」

「……はい。こっちです。私も手伝います」


少女が立ち上がり、神使もそれに続いて居間を出ていった。

その背中を見送りながら、神様はこたつに深く沈み込み、心底満足そうに息を吐く。


「……助かった」


その声は、さっきまでのような芝居がかったものではなく、本当に胸の底から漏れたような響きだった。


台所へ向かう途中、少女はふと足を止めかける。

けれど何も言わず、そのまま神使を案内していった。


居間には、こたつに潜り込んだ神様だけが残る。


畳の匂い。家のぬくもり。人の暮らしの音。それらを噛みしめるように、神様はそっと目を閉じた。


台所のほうから、控えめに食器の触れ合う音が聞こえてくる。


神様はこたつに上半身を預けたまま、その音をぼんやり聞いていた。火の気のある家の中というだけで、もう十分ありがたい。しかも人の立てる生活の音がある。駐車場で風に吹かれていた二日間があまりにひどかったせいで、そんな当たり前のことにまで胸が緩みそうになる。


「……人んち、最高」


誰に聞かせるでもなくそう呟いて、神様はこたつに額を預けるようにした。

ぬくもりに身をゆるめたまま、意識はそのまま、とろとろと眠りの底へ沈んでいく。


「あの……」

「ん〜?」

「寝ないでください。ご飯、運ぶので」


呼びかけられて、神様はのろのろと顔を上げた。まだ半分くらい眠りの中に片足を突っ込んでいるような顔である。


「朝?」

「夜です。まだ夕飯前です」

「あ〜……そうね。できた?」

「まだ途中です。神使さんがすごい勢いで台所を使ってるので」


どこか困ったようなその言い方に、神様は少しだけ笑った。台所のほうからは、たしかに食器の触れ合う忙しない音が絶え間なく聞こえてくる。


「あいつ、手際だけはいいんだよ」


居間の入口に立ったまま、少女は少し不思議そうに首を傾げた。


「いつもあんな感じなんですか?」

「うん。口うるさいし、いちいち細かいし、給料は私より高いし、腹立つことだらけだけど」


そこでいったん言葉を切ってから、神様はわざと偉そうに付け足した。


「まあ、料理だけはそこそこできる」


少女は少しだけ口元を緩めたが、すぐに表情を戻した。まだ完全に打ち解けたわけではないのだろう。それでも、最初に玄関を開けたときのような強い警戒は、もうだいぶ薄れている。


「少女ちゃん」

「はい?」

「ここ、広い家だね」


何気ないようでいて、少しだけ様子をうかがうような調子だった。

その言葉を受けて、少女の視線が一瞬だけ横へ逃げる。


「……昔からここに住んでます。学校に通うのは少し不便ですけど」

「少し?」


神様は眉を上げる。


「結構……いや、絶望的に不便そうに見えたけど」

「慣れればなんとかなりますよ」


それ以上は言わず、少女はこたつの向かいへもう一度腰を下ろした。


ふと会話が途切れ、部屋に静けさが戻る。

けれど、それはさっきまでのような気まずさをはらんだ沈黙ではなかった。台所の音が遠くで鳴っていて、こたつの熱がじんわりと足元にたまっている。その中で同じ空間にいることが、もうそこまで息苦しくなくなっている。


やがて台所のほうから、神使の声がした。


「少女さん、こちらのお皿をお願いできますか」

「はい」


短く返事をして、少女はまた台所へ向かう。迷いのない足取りが、この家にずっと暮らしてきた人のものだと分かる。なんとなく、その背中を神様は目で追った。


家の中での動きに無駄がない。慣れた家なのだと分かる。けれどそのわりに、どこか静かすぎる気もした。大人の気配が薄いというか、家の広さに対して音が少ない。


しばらくして、台所から神使と少女が料理を運んできた。


小鉢がいくつかと、湯気の立つ主菜。白いご飯。素朴な家庭料理だが、匂いが届いた瞬間、神様の目がぱっと輝く。


「うわっ……! 肉?」

「肉です」

「よし! 最高!!」


あまりに素直な反応だったせいで、少女は少しだけ吹き出した。


料理が並び終わると、三人は食卓代わりにこたつを囲む。


「では、いただきましょうか」

「いただきます」


少女がそう言うのに続いて、神使も頭を下げる。


神様は一拍遅れて、だが誰よりも勢いよく両手を合わせた。


「いただきまっす!」


次の瞬間には、もう箸が動いていた。

一口、二口、三口と食べ進めるたびに、その顔がみるみるうちにほどけていく。


「うまいっ!」


本気で感動した声だった。


「温かいし、白米あるし、汁物あるし……全部ある」

「基準がおかしくなってますよ」


神使の冷静な突っ込みが入る。


そんな二人を見て、少女はどこか不思議そうに瞬きをした。


「大したものじゃないのに」

「大したものだよ」


今度の神様の声は、さっきまでより少しだけ静かだった。


「今の私たちには、めちゃくちゃ大したもの」


その言い方には大げささもあった。けれど、からかうような調子ではない。少女はその声音に少しだけ戸惑い、すぐに目を伏せる。料理を褒められたことより、その言い方の真っ直ぐさのほうに、少しだけ心が引っかかったのかもしれない。


そこで箸を置きかけた神使が、少女へ向き直った。


「本来は居候の私たちが作るべきところを、お手伝いしてもらって申し訳ありません」

「いえ……」


首を横に振って、少女は小さく答える。


「料理は嫌いじゃないので」

「私も! でも、あんまり料理作らせてもらえないからな~」

「以前、十人ほど病院送りにしていましたよね」

「……」


その一言で、少女の手がぴたりと止まった。


机を叩きそうな勢いで、神様が身を乗り出す。


「違う! あれは私のせいじゃない! 悪いのは牡蠣だろ!」


神使は何とも言えない顔をした。


こらえきれず、少女は今度こそはっきり笑った。


小さな笑い声だった。けれど、さっきまでのように慌てて引っ込めることはしない。その代わり、自分でも少し驚いたように目を瞬かせている。笑ってしまったことより、笑えたことのほうに、自分自身が驚いているようだった。


その顔を見るなり、神様がにやりとする。


「また笑った」

「……すみません」

「謝ることじゃないって」


箸を持ったまま、ひらひらと手が振られる。


「笑ったほうが可愛いし」


少女は少しだけ頬を赤くして、視線を落とした。


その様子を見た神使の目が、ほんのわずかにやわらぐ。けれど、すぐに空気を整えるように話題を変えた。


「そういえば、こちらには少女さんお一人で?」


その問いに、少女の箸が少しだけ止まる。


「……ここは、祖父の家で」

「今日はお出かけですか?」


問い自体は何気ないものだった。だが、その言葉を受けた少女の表情が、わずかに曇った。


「入院中です」


その短い言葉に、食卓の空気が少しだけ変わる。


「それは……失礼しました」


すぐに頭を下げた神使へ、少女は小さく首を振った。


「気にしないでください」


そのやり取りのあいだ、神様は黙ったままだった。


箸だけは動いている。けれど、さっきまでのような勢いはない。少女の横顔をちらりと見やると、そこには明るく流して済ませられるものではない影が確かに差していた。


少し言葉を選ぶような間を挟んでから、神使がさらに続ける。


「ご両親は、付き添いで?」

「いえ。私が小学生の頃に……」


最後までは言わなかった。

けれど、それで十分だった。


それ以上は踏み込まず、神使も静かに視線を落とす。


「……申し訳ありません」

「大丈夫です」


そう答えた少女の声は、ほんの少しだけ小さかった。


食卓に、短い沈黙が落ちる。


しんみりした空気をそのまま受け止めるように、神様はご飯をもぐもぐと噛んだ。味噌汁をひとくちすすってから、何でもないような顔で口を開く。


「ねぇ、少女ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」


そこで一度、神様は言いよどんだ。


「その……」


珍しく少しためらうような間があったものだから、少女のほうも自然と構えてしまう。


「もしかして、神宮でお参りした理由――」

「ここって夜に遊ぶ所ってある?」

「……へ?」

「ゲーセンとか、カラオケとか」


あまりにも予想外の方向へ話が飛んだせいで、少女は一瞬返事に詰まった。頭の中で村を思い浮かべてみるものの、それらしい施設は一件も浮かばない。


「ない……かな」

「ビデオレンタル屋は?」

「ない」


神様はそこで箸を止めた。


「そうかぁ……」


返ってきた答えを、じわじわ噛みしめるような声だった。


「もしかしてここ、ド田舎だったりする?」

「超が付くほどのド田舎だと思う」


考える間もなく返された即答に、隣では神使が苦笑いしながらお茶を啜っていた。


「やっぱり」


見るからにしゅんとした神様の反応があまりに分かりやすくて、少女は思わず目を瞬かせる。


「知っていて来たんじゃないの?」

「いや、私の希望は吉祥寺か下北沢だったんだけどさぁ」


箸を持ったまま、神様は恨みがましく神使を見る。


どこをどう間違えれば、そんな都会がこんな田舎に化けるのか。少女にはまるで理解できなかった。


その疑問を補足するように、神使が口を開く。


「実は、神様の神階が低すぎて行けなかったのです」

「神使君さぁ」


じろりと睨んだ神様が、不満げに頬をふくらませる。


「次の人事査定で評価落とすよ?」


その台詞の妙な実務感に、神使は一瞬だけ目を瞬いた。


「え? 神様って人事権もってるんですか?」

「これでも私は君の上司で神だよ?」

「……」


ほんのわずかに黙り込んだ神使へ、神様はさらに意味ありげな視線を流す。


「あ〜あ。今まで全部“特A+”にしてあげてたのにな〜」


その言い方に、神使の目がわずかに細くなる。


「神様」

「ん?」

「明日はステーキなどいかがですか? 腕によりをかけてお作りします」


あまりにも見事な変わり身に、少女は思わず吹き出しかけた。


一方の神様は、ぱっと顔を輝かせる。


「うそ! ステーキ?」


次の瞬間には、こたつの中でぴょこんと弾むように身を浮かせていた。


「少女ちゃん! 明日のディナーは豪華だぞ!」

「神様?」


即座に神使がたしなめる。


「食事中ですから跳ねたりしないでください」


そのやり取りがおかしくて、少女の胸の奥がふっと軽くなった。


「ふふっ」


こぼれた小さな笑い声が、食卓の空気をやわらかくする。


その声を聞いた神様が、ぱっと少女のほうを向いた。さっきまでのふざけた顔とは少し違う、やさしい笑みだった。


「今度こそ笑ってくれたね」


はっとしたように少女は口元を押さえ、すぐにぷいと視線を逸らす。頬が少しだけ熱いのが、自分でも分かる。


「……別に」

「う〜んっ、照れちゃって可愛いぞっ!」

「神様、お行儀が悪いですよ?」


呆れたように神使が息を吐く。そんなやり取りを挟みながら、さっきまで食卓に落ちかけていた重さは、少しずつほどけていった。


むっと膨れる神様を見て、少女はまた小さく肩を震わせる。


温かい、と思った。


こたつの熱だけではない。誰かと食卓を囲んで、他愛のないことで笑って、くだらない言い合いを聞いている。そんな時間が、この家に流れるのはいつぶりだろう、と少女はぼんやり思った。


どこか懐かしい感じがした。


「ありがとね、少女ちゃん」


ふいに向けられたその言葉に、少女は顔を上げる。


神様は箸を持ったまま、けれどさっきまでみたいに大げさでもなく、ただまっすぐに少女を見ていた。


「こっちこそ……」


少女は小さく頷いて、それから少しだけためらうように視線を伏せる。


「ありがとう」


それ以上の言葉はなかった。

けれど、そのやり取りだけで十分だった気がした。

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