第7話 婚約者様の日常
エドワードの友人達が登場します。
最近、学園が妙に静かだ。
正確に言うと、
私に向けられる悪意が消えた。
「シャルル様、おはようございます」
いつの間にか、
令嬢たちは距離を保ち、丁寧な挨拶しかしなくなった。
嫌がらせをしていた子たちの姿は、ほとんど見ない。
「皆さん、忙しくなったのかな?」
そう呟くと、隣を歩くエドワードが穏やかに答える。
「そうだろう」
……理由は聞かない方がいい気がした。
教室に入ると、空気が変わる。
「婚約者様」
誰かがそう呼んだ瞬間、
周囲が一斉に静かになった。
……え、今の私?
「えっと、シャルルで大丈夫ですよ?」
そう言うと、
なぜか困ったような視線が集まる。
「いえ……」
言いかけて、誰も続けない。
そのとき。
「相変わらずだな、エドワード」
軽い声が割って入った。
振り向くと、長身の男子生徒が腕を組んで立っている。
制服の着こなしからして、明らかに上級貴族。
その両隣にも、銀髪の男子生徒と金髪の男子生徒。
上級貴族ではなさそうだけど。
「あの方は確か...ヴァレンシュタイン公爵家の...」
ヒソヒソ声が聞こえた。
「お前、もう少し加減を覚えろ」
その言葉に、
周囲が一瞬、凍った。
……え、今、王子に注意した?
エドワードは眉一つ動かさない。
「必要な範囲だ」
「はいはい。で、その“必要”の結果がこれか」
彼は私を一瞥してから、ため息をついた。
「……君がシャルル嬢?」
「はい、そうですけど……」
にこっと笑うと、
彼は一瞬だけ目を逸らした。
「……なるほど」
何かを納得したらしい。
「私は、ルーカス・ヴァレンシュタイン。エドワードとは幼なじみだ。」
「忠告しとく。こいつの“守る”は、普通じゃない」
「ちょっと」
エドワードが初めて、声を低くした。
「余計なことを言うな」
でも、ルーカス様は肩をすくめる。
「事実だろ」
それから、私に向き直った。
「嫌なことがあったら、すぐ言え。
我慢とか、美徳でもなんでもない」
「は、はい?」
突然すぎて、よく分からない。
「この男はな」
そこで一拍。
「“起きてから対処”しない。
“起きる前に消す”」
……消す?
私が聞き返す前に、エドワードが静かに言った。
「話は終わりだ」
ルーカス様は苦笑して、両手を上げた。
「はいはい。婚約者様の前だもんな」
そう言って去っていく背中は、
どこか本気で心配しているように見えた。
私はエドワードを見上げる。
「お友達、面白い方ですね」
そう言うと、彼は少しだけ表情を緩めた。
「……ああ。昔から口が悪い」
それ以上、何も言わない。
でも。
その日から私は、
学園で誰かが視線を逸らす理由を、
少しだけ考えるようになった。
ほんの、少しだけ。
お読み頂きありがとうございます。
次回はルーカス視点です。
お楽しみに。




