第5話 準男爵家、状況を理解する
両親は全てを理解してしまい、胃が痛いですw
(シャルルの父・アルフォンス視点)
その日、我が家に届いた書状を見て、私は三度読み直した。
「……王家?」
声が裏返った。
封蝋は正式。
書式も完璧。
内容も、疑いようがない。
「どうしたの?」
妻のマリーが、洗濯物を畳みながら顔を上げる。
「いや……あのな……」
私は書状を差し出した。
彼女は目を通した瞬間、固まった。
「………………え?」
沈黙。
次の瞬間。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
悲鳴に近い声が上がった。
「え、王子? え、婚約? え、うちのシャルル!?」
マリーは書状と私の顔を交互に見て、完全に混乱している。
「いや、私も意味が分からん」
冷静を装おうとしているが、心臓は暴れている。
「側妃殿下のご子息、第二王子エドワード殿下……って、
これ、断れないやつじゃない!?」
「断るとか以前に、なんでうち!?」
マリーは頭を抱えた。
「准男爵よ!?
爵位だって下だし、特別な血筋もないし、
社交界で目立つ家でもないし!」
「そうだ。優秀な家は他にいくらでもある」
二人で顔を見合わせる。
同時に、同じ結論に辿り着いた。
「……あの子、何した?」
娘の顔が浮かぶ。
天然で、
人の話を都合よく解釈して、
いつも「大丈夫大丈夫」で済ませる娘。
「まさか、王子に失礼を……」
「いや、逆に失礼じゃなさすぎて気に入られた可能性も……」
頭が痛い。
そこへ。
「ただいまー」
能天気な声が廊下から聞こえた。
私は勢いよく立ち上がった。
「シャルル!!」
「は、はい?」
びくっと肩を震わせる娘。
「お前……王子殿下と婚約したって本当か!?」
「え? あ、うん。そうみたい」
そうみたい。
マリーが崩れ落ちた。
「“そうみたい”って何!?
どうしてそんな重大なことを……!」
「だって、もう話通ってたし」
シャルルは首をかしげる。
「嫌じゃなかったから、いいかなって」
その瞬間、
私たちは理解した。
――この婚約、
うちの娘が主導じゃない。
「……殿下は、何て?」
恐る恐る聞くと、シャルルは少し考えてから言った。
「私が安全でいるために必要だって」
マリーと私は、同時に息を呑んだ。
「……安全?」
「うん。だから、全部整えてくれたの」
整えてくれた。
言い換えれば、
逃げ道を全部潰したとも言える。
私は胃のあたりを押さえた。
「……シャルル」
「なに?」
「その王子殿下、優しかったか?」
娘は即答した。
「うん。すごく」
少しだけ間を置いて、付け足す。
「ちょっと怖いけど」
その一言で、全てが腑に落ちた。
マリーが小さく呟く。
「……捕まったわね」
私は深く、深くため息をついた。
「王家から正式な婚約者にされた娘を、
どう守ればいいんだ……」
廊下の奥で、シャルルは楽しそうに鼻歌を歌っていた。
何も知らずに。
お読み頂きありがとうございます。
母マリーの「捕まった」の一言が全てを語ってます。
次回もお楽しみに。




