第3話 王子の声
ふたりの静かに距離が縮まっていきます。
エドワード王子殿下と、二人きりで話すことになった。
そう思った瞬間から、学園の空気が少しだけ変わった気がする。
……たぶん、気のせいだと思うけれど。
「こちらへ」
案内されたのは、人の少ない回廊だった。
窓から差し込む光は柔らかくて、静かで、落ち着く場所だ。
王子殿下はいつも通り穏やかな表情で、私の少し前を歩いている。
距離は近すぎず、遠すぎず。
なのに。
なぜか、胸の奥が落ち着かない。
「最近、学園で不便なことはないか?」
振り向いた王子殿下は、丁寧な口調だった。
いつもの、王族としての話し方。
「ありません。皆さん、とても親切で」
そう答えると、彼は一瞬だけ目を伏せた。
「……そうか」
沈黙が落ちる。
不思議と、逃げたくなる感じはしない。
でも、次に聞こえた声は――少し違った。
「なら、聞き方を変えよう」
王子殿下は、私を見た。
さっきよりも、ずっと近い。
その視線に、冗談や社交の色はなかった。
「怖い思いはしていないか?」
「え?」
一瞬、言葉に詰まる。
怖い、かどうかと言われると……。
「少し、びっくりすることはありますけど。でも大丈夫です」
本心だった。
嫌なことはあったけど、今は落ち着いているし、困ってもいない。
それなのに。
エドワード王子殿下は、静かに息を吐いた。
そして。
「……そうか」
声が、低くなる。
「それならいい」
次の言葉は、
はっきりと、違った。
「俺が、そうしたから」
――え?
一瞬、意味が分からなかった。
王子殿下は微笑んでいる。
でも、その笑みはどこか、確信に満ちていた。
「君が平穏に過ごせているなら、それでいい」
王子ではなく、
エドワード個人の言葉だった。
私は思わず、首をかしげる。
「……えっと、ありがとうございます?」
そう言うと、彼は少しだけ目を細めた。
「礼はいらない」
距離が、さらに縮まる。
でも触れられない。
触れないのに、囲われている。
「シャルル」
名前を呼ばれる。
「君は、気づかなくていい」
穏やかな声なのに、逃げ道がない。
「面倒なことは、全部俺が引き受ける」
……ああ、なるほど。
私は、なぜか安心してしまった。
「エドワード様って、本当に責任感が強いんですね」
そう言った瞬間、
エドワードは小さく笑った。
「そう見えるなら、それでいい」
その笑みが、少しだけ――怖かった。
でも。
守ってもらえるなら、悪くない。
私はそう思いながら、
王子――いえ、エドワードの隣を歩いた。
お読み頂きありがとうございます。
次回もお楽しみに。




