第18話 準男爵家、修羅場にて
シャルルの両親視点です。
(シャルル父・母 視点混合)
王城応接室。
高級。静寂。無駄に広い。
「……で?」
准男爵である私――父は、
目の前の冊子を、そっと机に置いた。
「これは」
娘の一日が、分単位で記録された代物。
母が、ぱらぱらとめくる。
「朝食のパンの残量まで把握している婚約者様って、
世間的にはどういう分類になるのかしら?」
にこやか。
だが目が笑っていない。
向かいに座るエドワード殿下は、落ち着いていた。
「配慮です」
即答。
「どの辺が!?」
父、反射でツッコミ。
「娘が『息苦しい』と申しましたので」
母、ぴたりと動きを止める。
「……言いましたね?」
「はい」
「それを受けて出てきた結論が」
母、冊子を掲げる。
「不可視監視・完全記録制?」
「そうです」
エドワード殿下、胸を張った。
「姿を見せないことで圧迫感を軽減しました」
「見えない圧迫感が一番怖いんですよ!?」
母、初めて声を荒げる。
父は、冷静を装いながら額を押さえた。
「殿下。
これは……その……」
「はい」
「誘拐犯の行動記録に見えます」
沈黙。
側妃殿下が、遠くを見る。
「……私の教育が悪かったかしら」
「違います、母上」
エドワードは、真剣だ。
「俺は間違っていません」
あ、俺出た。
母が、ひくっと眉を動かす。
「今、俺って言いました?」
「はい。家族会議ですから」
「家族の距離感じゃないのよ!!」
父、再びツッコミ。
完全に王族に対する言葉遣いじゃない。
エドワードは、少し首を傾げた。
「シャルル嬢は、幸せそうでした」
「幸せそうに見えることと、
幸せであることは違いますわ」
母、即論破。
「娘は、殿下を信じて何も言わなかった。
それを“成功”と判断したのなら」
母の笑顔が、逆に怖い。
「……殿下、相当ズレてます」
「承知しています」
エドワード、即答。
「ですが、修正する気はありません」
父、吹き出した。
「開き直りました!?」
「必要だからです」
「必要なのは、娘の自由です!」
母、机を叩く。
エドワードは、静かに言った。
「自由とは、危険です」
父と母、同時に叫ぶ。
「危険なのはあなただ!!」
応接室の外で、
シャルルが小さくくしゃみをした。
エドワードが、即座に立ち上がる。
「……今、寒かったはずだ」
「お待ちなさい!」
母、引き止める。
「今の、記録なさらないの?」
「必要ありません」
エドワードは、微笑んだ。
「この場には、俺が直接いる」
父、崩れ落ちる。
「……娘を嫁に出す前に、
胃薬を用意しよう」
母、深く頷いた。
「強めのをね」
その夜。
准男爵家の夫婦は、
「娘は幸せだが安心できない」
という、史上最難関の状況に頭を抱えた。
一方。
エドワードは、
新しい改善案を考えていた。
「……家族が不安なら」
静かに、ペンを取る。
「家族も、守ればいい」
――記録対象、追加。
准男爵夫妻。
これを知る者は、まだいない。
お読み頂きありがとうございます。
底辺貴族がいくら娘が王子の婚約者でも言葉遣いには気をつけないと、と丁寧にしたのですが、どうでしょうか?
次回もお楽しみに。




