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第14話 幸せの中で、息ができない

あることに気づいたシャルル


(シャルル視点)


 毎日が、とても穏やかだった。


 朝は、エドワードが迎えに来る。

 授業は、静かで邪魔もない。

 休憩時間には、お茶が用意されている。


 誰も、嫌なことを言わない。

 誰も、近づきすぎない。


 完璧だった。


 ……完璧すぎる。


「シャルル、寒くないか」


「大丈夫です」


 そう答える前に、

 もう肩に外套が掛けられていた。


「ありがとうございます、でも――」


「気にするな」


 それ以上、言えなくなる。


 気遣いは、優しい。

 拒む理由も、ない。


 だから、

 断る言葉が見つからない。


 最近、気づいたことがある。


 一人になる時間が、ない。


 物理的にはある。

 部屋にも戻れるし、扉も閉まる。


 でも。


 誰かが、必ず知っている。


 私がどこにいるか。

 何をしているか。

 誰と話したか。


 怖い、とは違う。


 守られている感覚が、強すぎる。


「……幸せなのに」


 夜、ベッドの上で呟く。


 不満は、ない。

 不安も、少ない。


 なのに、胸の奥が重い。


 今日は、久しぶりに一人で庭を歩いた。

 と、思っていた。


「ここにいたのか」


 振り向くと、エドワードがいた。


 声を荒げることもなく、

 責める様子もない。


 ただ、そこにいる。


「……探してました?」


「いいや」


 一拍。


「確認していただけだ」


 確認。


 私は、なぜか笑ってしまった。


「エドワード、私、逃げたりしませんよ?」


 冗談のつもりだった。


 でも。


 エドワードの目が、一瞬だけ揺れた。


「……分かっている」


 言葉は、優しい。


 けれど。


「君がいなくなる想定を、

 俺は持たない」


 それが、息苦しさの正体だと、

 やっと気づいた。


 私には、

 “離れる自由”が存在しない。


 選ばれている。

 守られている。

 大切にされている。


 全部、本当。


 だからこそ。


 私は、静かに思った。


「……私、檻の中なのかな」


 声には出さなかった。


 出せば、

 もっと優しくされるだけだと、

 分かってしまったから。


 エドワードは、変わらず微笑む。


「寒くなってきた。戻ろう」


「はい」


 私は、その隣を歩く。


 嫌じゃない。

 怖くもない。


 ただ。


 少しだけ、

 深呼吸がしたかった。


お読み頂きありがとうございます。

遂にシャルルは気づいてしまいました。

自分に自由がないことを。


次回もお楽しみに。

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