【第6章:不当解雇と反撃の火蓋-Xバズの呪い-】
リベンジが「愛の奉仕」と称して残業100時間超を自発的に減申請した、その給与支給日の翌日だった。
俺はデスクで、次のアパレル店舗改装の図面を見ていた。異世界の魔術師が描く魔法陣よりも複雑な製図作業も、勇者の「集中スキル」のおかげで、もはや苦ではなかった。
そこに、神妙な顔つきをしたケチ夫がやってきた。
隣には、常に影のように存在感を消している雇われ社長「ヨコバー・ノーパワー」が立っている。
「佐藤くん。話がある」
ケチ夫は、昨日までのようにケーキの話をすることも、笑い飛ばすこともなく、静かに切り出した。
それが逆に、リベンジにとって不気味だった。
「キミの働きは、確かに優秀だった」
ケチ夫は、ヨコバー社長をチラリと見た後、さらに言葉を続けた。
「だが、フナケンの家族としては、ちょっと『個性が強すぎる』というか……」
(個性?
トイレの流れない落とし物を浄化して、経費天引きされたのが個性か?)
「……簡単に言おう。
クビだ。」
不当解雇。
理由も根拠もなく、ただ「個性が強い」という曖昧な言葉で、勇者は職を失った。
「用済み、ってことですね」
リベンジは冷静だった。
「ま、そう悲観しないで!
キミにはこの『退職合意書』にサインしてもらおうか」
ケチ夫は、リベンジの給与明細よりも薄い紙を差し出してきた。
「ここにサインしてくれれば、特別に、リニューアル工事が終わったばかりの高級ブランド店のケーキを二個つけてあげよう!
どうだ、太っ腹だろ?」
給料詐欺、トイレ監視、残業強要、そして不当解雇の圧力を、たった二個のケーキで処理しようとする男。
俺の【鑑定スキル】は、ケチ夫の頭上に、もはや魔王すら持たないだろう【特性:ブラック企業魂Lv.999】を表示していた。
「結構です」
リベンジは合意書を押し返した。
「ケーキは要りません」
「え? なんでだよ!
これ、一個三千円はするんだぞ!」
ケチ夫が慌てた様子を見せる。
リベンジは静かに立ち上がった。
「俺の復讐は、ケーキなんかじゃ収まりません」
リベンジはそのままオフィスを後にした。
彼の背後で、ケチ夫が焦燥に満ちた声で叫んだ。
「お、おい! 何もするなよ!
訴えるぞ! フナケンの名誉を傷つけたら、ただじゃ済まないぞ!」
◆Xバズの呪い:俺の物語で勝つ!
その夜。
リベンジはパソコンに向かい、小説投稿サイトの準備を進める傍ら、現代の最強の武器であるX(旧Twitter)に手を伸ばした。
「勇者が魔王を討伐するのに、力だけではダメだ。
世論を味方につける。これが現代の戦い方だ」
リベンジは、フナケンで体験した「ブラック企業あるある」の真髄を、ファンタジー風に変換して投稿した。
「#ブラック企業あるある」
異世界勇者が転生した先はブラック企業。
ラスボス(副社長)の口癖は「給料はケーキでいいよね?」。
トイレには流れない「魔王の落とし物」と「監視カメラの呪術」。
「愛の奉仕」と称して深夜の工事で残業100時間超を減申請。
そして、「フォルダ整理」を妨害する「ショートカット魔女」。
不当解雇されたので、この経験をラノベにして復讐します。
#異世界転生
投稿からわずか数時間後。
『ピーッ!』
スマホが異常な音を立て始めた。
通知が止まらない。
Xバズの呪いが、フナケン、そしてケチ夫を襲い始めたのだ。
1万RT突破。
コメント数:5,000件超。
「給料ケーキw」「トイレ監視は本当にやばい」「建設業あるあるすぎて泣いた」
フナケンという企業名は出していない。
所在地も特定できるような情報は一切入れていない。
ただ、リベンジが体験した「一般的なブラック企業あるある」が、現代の働く人々の心に深く突き刺さったのだ。
特に「給料はケーキでいいよね?」のパワーワードは、爆発的な拡散力を持った。
その翌朝。
フナケンには、「給料をケーキで払うとはどういうことだ」という、愉快犯も含めたクレーム電話が鳴り響いていた。
リベンジのスマホに、ケチ夫から震えるようなメッセージが届いた。
『佐藤リベンジ! 今すぐあの投稿を消せ! 名誉毀損で訴えるぞ!』
リベンジはコーヒーを一口飲み、静かに返信メッセージを入力した。
『副社長。
本作はフィクションです。
「給料をケーキで払おうとする会社」は、どこにでもありそうな話ですよね。
俺の物語で、勝たせてもらいますよ』
リベンジは、会社を潰すという低次元の復讐ではなく、物語という名の圧倒的な成功で、カズデ・ケチ夫を見返すことを選んだ。
これで、復讐劇の火蓋は切って落とされた。




