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【第5章:闇の工事呪縛と混沌の書庫-多すぎる業務内容と三日間の清掃地獄-】

給料が詐欺で、トイレ掃除が天引き。

俺、佐藤リベンジの「普通のサラリーマン生活」は、早くも崩壊の危機に瀕していた。


しかし、このフナケンという魔王城は、俺の想像の遥か上を行く。


俺が面接で受け取った採用条件通知書には、こう記載されていた。


『業務内容:営業補佐、見積業務、現場対応、発注業務、図面作成、製図補助、資料管理、雑務』


多すぎる。

異世界の魔術師ギルドの受付嬢でも、ここまで業務を羅列しなかった。


そして、入社した俺を待っていたのは――。


「佐藤くん。

まずは会社に慣れてもらわないとね」


ケチ夫はそう言って、俺に清掃用具一式を押し付けた。


「入社して最初の三日間は、トイレの大便掃除含めた清掃のみで!

みんなが気持ちよく働けるようにね!」


三日間の清掃漬け。

もちろん、これは「雑務」に分類されるのだろうが、勇者の【鑑定スキル】は、この状況に対して即座に警告を発した。


『状態:パワハラ採用の疑い(労働契約法5条違反の可能性あり)。』


「……これって、パワハラ採用っていうんじゃないのか?」


俺がぼそりと呟くと、ケチ夫は聞こえないふりをして、社内をウロウロし始めた。


「なにか佐藤くんにやらせることない?

暇を持て余すのは、家族への冒涜だよ!」


副社長自ら、社員一人一人に聞いて回る。

その結果、俺には、賞味期限切れの茶葉の整理、壊れた電球の交換、そして誰も使わない備品のカタログ化といった、意味のない業務が次々と降り注いだ。


(魔王軍の幹部ですら、部下にそこまで無意味な業務を押し付けなかったぞ!)


俺は勇者の「忍耐スキル」をフル活用し、この理不尽な清掃と雑務地獄に耐えた。


◆混沌の書庫呪縛とショートカット魔女

四日目。

俺はついに本業と思しきデスクワークを与えられた。


「佐藤くん! 共有フォルダを整理しろ!」


ケチ夫は、まさに混沌の書庫呪縛そのものを、俺に押し付けてきた。


フナケンが扱うのはアパレル店舗改装の案件。

その図面や資料が格納されている共有フォルダは、まるでダンジョンのように複雑で、古いトラップが山積みだった。


「なんでここ、ショートカットのショートカットのショートカットなんだ……」


同じファイルへのショートカットが、様々な階層に大量に乱造されている。

これを整理しないと、新規案件の度に過去の図面を探すだけで、日が暮れてしまう。


「任せてください。

勇者の整理スキル、見せてやりますよ」


俺はすぐに社内魔法メール(アナタンス)で全社員に通達した。


『件名:共有フォルダ整理開始のお知らせ 佐藤リベンジです。

20日後からフォルダ階層の整理を開始します。重要な書庫(案件ファイル)は、最上階層の【保存フォルダ】に移動します。』


これは、「俺が整理したら文句言うなよ」という、勇者なりの事前通告だった。


しかし、そのメールが届いた直後、俺のデスクに一人の女性社員が仁王立ちした。

総務経理担当の彼女は、フナケンにおける「ショートカット魔女」の異名を持つ人物だった。


「ちょっと! 新人の佐藤くん! 勝手に動かさないで!

営業がどこに資料があるかわからなくなって困るでしょ!」


「魔女」は、その鋭い眼光で俺を睨みつけた。

彼女こそが、ショートカットを乱造し、フォルダを混沌化させている元凶だったのだが。


リベンジは鑑定スキルを発動させた。


『【特性:過剰な防衛本能】。

【スキル:ショートカット乱造呪術Lv.10】』


「しかし、このままでは業務に支障が……」


「いいから、触らないで! うちのやり方に口を出さないで!」


魔女はそう吐き捨てて去っていった。

総務経理からの正式な「ブロック呪文」だ。


その直後、営業部門のエース社員がこっそり俺のデスクに来た。


「佐藤くん。

君、フォルダ整理してくれるんだってね? 本当に助かるよ!

総務経理のショートカット乱造で、うちの部署、いつもイライラしてたんだ!」


(やっぱり、ショートカット魔女が原因じゃないか!)


勇者の「忍耐スキル」は、清掃地獄に加えて、このカオスな社内政治にも対応しなければならなかった。


◆闇の工事呪縛と仮眠魔法

そして、本業の現場対応が始まった。

フナケンが手掛けるアパレル店舗改装は、営業後の夜間工事がメインだ。


「佐藤くん。

今日からこの図面通りに現場を動かすから。

朝は10時出社でいいけど、夜間工事は夜6時から深夜2時までだからね!」


これがフナケン流の【闇の工事呪縛】だった。

朝10時出社でも、深夜2時までの労働は、すでに軽く12時間オーバーだ。


深夜2時。

工事が終わり、帰宅しようにも馬車(電車)はもう動いていない。


「じゃあ、佐藤くん。

疲れただろ? 車で仮眠して、そのまま次の現場に直行な!」


リベンジは、異世界から持ってきたボロボロのオンボロ軽自動車の中で、勇者の「仮眠魔法」を使うしかなかった。


「……睡眠の質は最悪だが、魔王軍との野営に比べればマシか」


しかし、翌月の給与明細に書かれていたのは、衝撃の文言だった。


『雑費:仮眠費1,500円(車中泊)。』


ケチ夫は満面の笑みで言った。


「仮眠も立派な経費だからね!

家族への愛だよ!」


リベンジは、もはや自分が何時間働いているのかわからなくなっていた。

タイムカードは、「時間隠蔽魔法」によって存在せず、ケチ夫は月末にこう言い放った。


「佐藤くん。今月は残業が100時間超えてるけどさ、自主的に半分くらいに減らして申請してくれるかな?

家族のために、愛の奉仕を頼むよ!」


リベンジの「正義感スキル」は、ついに限界を突破した。

給与詐欺、トイレ監視、清掃天引き、フォルダ整理妨害、そして愛の奉仕と称した残業100時間自発的減申請。


「フナケン……この会社は、俺にとってのラスボスだ」


しかし、勇者は知っている。

ラスボスを倒すには、力ではなく戦略が必要だということを。


リベンジの心の中で、復讐の物語のプロットが、静かに紡ぎ出され始めたのだった。


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