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【第3章:給与詐欺-魔王よりヤバい内訳-】

フナケンのオフィスは、妙に小洒落た内装と、カフェミュージックという”偽りの平穏”で満たされていた。


「ようこそ、佐藤くん! 今日から君も、フナケンという家族の一員だ!」


副社長のカズデ・ケチ夫は、昨日Zoomで見た時と同じ、やけにハイテンションな笑顔で俺を迎えた。

俺の鑑定スキルは、その笑顔の裏側で渦巻く【邪悪な計算】をしっかりと検知していた。


『特性:偽りの歓迎Lv.9』


「うちは、社長も会長も、みんな家族同然。

だからさ、残業代ゼロが愛の証! なんだよね」


ケチ夫はそう言いながら、机の上に薄っぺらい書類を広げた。


「これが雇用に関する書類。

細かいことはいいから、とりあえず目を通しておいて。

サインは後で大丈夫だよ! それよりも、君へのサプライズだ!」


ケチ夫は契約書へのサインを曖昧にし、別の封筒をドヤ顔で俺に手渡してきた。


「はい! これが君の初月分の給与明細だ!

ペーパーレス化が叫ばれてる時代だが、うちはやっぱりこういうのは紙で渡したいんだよね。

情熱がこもってるだろ?」


(契約書は結ばせないのに、給与明細は紙で手渡し……逃げ道を塞ぐ高等テクニックか?)


リベンジは嫌な予感を覚えながら、その紙の給与明細を開いた。


『佐藤リベンジ様 基本給:240,000円 役職手当:0円 固定残業代:0円 その他:0円 総支給額:240,000円』


俺の視線が、「手取り30万円〜」という面接での約束と、この「総支給額:240,000円」という数字を往復する。

俺はすぐさま、目の前のケチ夫の顔に【鑑定スキル】を全力で発動させた。


『カズデ・ケチ夫:【特性:給与詐欺師】の真髄発動中。

【スキル:平然とした嘘Lv.MAX】』


「……副社長。

面接で、手取り30万円とお聞きしたのですが」


リベンジは冷静を装ったが、声はわずかに震えていた。

これは魔王に勝てるかどうかの瀬戸際でこそ出す、極限の怒りだった。


ケチ夫は、額に薄っすら汗をかきながらも、ニッコリと、この世で最も憎たらしい笑顔を返した。


「あれ? 手取りじゃなくて、額面でって言ったはずだけどな~。

ま、大した違いじゃないでしょ? 君みたいな若者は、額面か手取りかなんて気にしない!

大事なのは、家族のために働く情熱でしょ!」


(大違いだ! これは手取りだと20万円を切る!

この男、魔王軍が敗戦後に約束した『豪華な城の譲渡、ただし家具なし、屋根もなし』よりタチが悪い!)


「情熱で家賃は払えません」


リベンジは冷たく返したが、ケチ夫は完全に勝利を確信していた。

彼は休憩スペースから高級そうな箱を持ってくると、高笑いしながら俺の目の前に置いた。


「ま、今月は研修期間だし! 来月になったらドーンと給料も上がるからさ。

あ、そうそう、今日ちょうど、リニューアル工事が終わったアパレル店舗のケーキがあるんだけど……」


ケチ夫は、ニヤニヤしながら俺の肩に手を置いた。


「どう? 佐藤くん。

今日の給料は、この美味そうなケーキでいいよね?

その分、残業も頑張れるだろう?」


目の前でケーキの箱を突き出されるという、非現実的なギャグ展開。


俺の脳裏で、鑑定スキルが警鐘を鳴らした。


『【特性:非常識な提案Lv.10】発動中』


「魔王の詐欺よりひどい!」


俺は異世界でのツッコミをそのまま口に出してしまった。

ケチ夫は一瞬戸惑ったが、すぐに愛想笑いで誤魔化した。


「あはは、魔王? 面白いジョークだね!

ま、そういう熱い気持ちを仕事にぶつけてくれよ!

明日から、早速現場に出てもらうからさ!」


俺は即座に「よくある詐欺話」と一般化することで、自分の正体を隠した。

だが、心の中では復讐の炎が静かに、そして激しく燃え上がっていた。


このフナケンという名の魔王城は、俺が必ず内側から攻略してやる。


復讐の炎が、転生勇者の心に静かに、そして激しく燃え上がったのだった。



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