第二章
そこには、サンが颯爽と立っていた
カインとシュラはルートの前に立ちふさがった
あぁ、2人は護衛という訳なんだ...そう思った
「聖獣か...」
ルートがそう言ったとき
「アイリンの兵が来る。人数は3人だ」
サンはそう言いながら、私に近づいてきた
そして、ルート達を睨んだ
「シャイリスの殿下とやら、お前に何が出来る?この子は争いを望まぬぞ」
低い声が響いた
誇り高い獣の声だった
ルートはカインとシュラをよけ、サンに近づいた
全く恐れる様子がなかった
「私は、アイルに無理強いはしないと言いました。
だが、呪師は必要。先日私に仕えていた呪師の寿命が尽きた。
現在ではもう、呪師がいなければ、その国は滅びる。
私は今、アイルに出会いました。
私はアイルの力を借りたいと思っています」
ルートはサンの眼を見ながら答えた
サンは私の方を見た
「お前は、どうしたい?今なら私の背に乗ってアイリンの兵から逃れられる
どこにでも連れていってやろう
アイリンが諦めるまで私がついている
だが、このシャイリスの殿下を信用してみるのも1つの手だよ
お前がお決め」
サンは優しい口調で私に問いかけた
サンは私にルートは信用出来ると遠回しに言っている
いつまでもこのままじゃいけないということか....
「ルートを信じてみようと思うよ‥サン」
信じてみようと思った
最初はみんなと変わらない傲慢な人なのかと思った
だけどルートはとても綺麗な眼をしていた
それに...サンを恐れなかったから
サンはルートを見た
「シャイリスの殿下。この子を頼んだよ」
そう言うと静かに小屋を出て行った
思いも寄らない訪問者と訪問者からの助言で
小屋の中はしばらく沈黙してまった。
最初に口を開いたのはルートだった
「ありがとうアイル。よし、そうと決まればあの馬鹿王子と話しをつけないとな」
明るい口調。そして屈託のない笑顔を私に向けた。
.....
ルートの印象が変わった。先ほどまでとは口調が全く違っている
「あぁ、気にしないでね、ルートは元々こういう人だから。あ、これからよろしくね。
俺のことはカインて呼んで」
カインとシュラが近づいてきた
「私はシェラ。よろしく」
カインはとても優しそうな人だった。
この中で一番背が高い
シェラはクールな人のようだ
でも口調は柔らかい
「カイン。アイリンとの交流はあまりなかったんだよな?」
ルートはソファーに座り直し今度は真剣な顔をしていた。
カインも笑顔を消し
「あぁ、アイリンとはあまり貿易が盛んじゃないからな」
こんな王族もいるのか...そんなことを今考えてしまった
護衛が敬語を使わないなんて...
「確か...アイリンには数人術師がいると聞いたが。
まだ術師を探しているのか」
「今は4人だと思う。王に2人、王子に2人ついていると聞いたことが」
ルートの質問にカインが答えていく
シャイリスにはそんなに術師がいないのだろうか?
そう思ったその時入り口のドアが強引に開いた
入って来たのは、アイリンの兵3人だった
「アイル殿一緒に来ていただきたい」
1番前にいる図体のでかい男がズカズカと入ってきた。
ルートはスッとソファーから立ち上がると
男の動きを止めるかのように男の前に歩み寄った
後ろには、カインとシュラがついていた
「誰だ?貴様。そこをどけ」
男は大声を上げた
ルートは怯む様子はなく
「ヨハン殿下と話がしたい。取りついでほしい」
そう言いながら、ルートは腰にさしていた小刀を男に突きつけた
綺麗な装飾がされた小刀だった。
男はその小刀を目にした瞬間ひざまずいた。
身体の大きさの割には身軽な動きだった
「ご無礼をいたしました。ハッ、直ちに」
男は他の2人を引き連れてそそくさと小屋を後にした
兵が馬に乗り去っていくのが見えた
「訓練されてる兵はお行儀がいいな」
ルートは皮肉を言うように言った
「どうでるんだか...」
シェラが外を見ながら呟いた
空は少し陰りを見せていた
雨は降らないだろう
日が隠れ私にとっては過ごしやすくなってきた
あと数時間で夜がくる
「大丈夫か?」
ルートが私の顔をのぞき込んでいた
みんなが私の近くにいた
私は思わず一歩後ろに下がった
この人はもう少し警戒心を持つべきだと思う
一国の王子が術師の眼を自ら見るなんてどうにかしている
「私が恐くないの?」
ルートは優しく微笑んだ
「人を見る目はあると自負しているからね。
俺はもうアイルを友人だと思っているよ」
なんと言っていいのか分からない
私の知らない世界に来ているようだ
友人か...
友人とは何だろう?
サンを友人と呼ぶのはおかしいだろうし、
他の聖獣達だって友人と言って良い関係にないと思う。
どちらかというと親のような存在だった。
闇の中にだって友人なんていなかったし...
意外なことに兵はすぐに戻ってきた
どうやら、ヨハン殿下はシャイリスとの国境近くに来ていたようだ
「よっぽどアイルがほしいようだな...話が早くすむといいが」
アイリンの所有する馬車の中でルートが呟いた。
日は沈んでいた。
これから国は闇に沈む
私が大好きな夜がきた