毒の壺【WEB】
毒の壺
雨が土砂降りの夜わたしん家のドアを、自称魔女がずぶ濡れの黑いローブから雨粒をこれでもかと滴らせながらノックノックノックした。
濡れた仔犬の愛らしいワンワ~ンが鳴るピンポーンがあるのに、自称魔女はノックノックノックした。
そのうち諦めるだろうと、暫くノックノックノックをムシしておいた。
いつもは烏の行水のわたしが、ふんふふんふふ~んの鼻唄の音程が中々とれなくて、湯船に浸かってついつい長湯してしまった。
ノックノックノック、ノックノックノック、ノックノックノック……。
ちょっと遅めの夜ご飯は、御中元でもらった自分では壱度たりとも手を伸ばしたり買ったことの無いお高~いハムを、直立不動の胸を張った鯖威張るマークのついたサバイバルナイフで荒々しくぶっとく刃を入れたお高~いハムのステーキをジュッと焼やいた奴に、弍子玉って云う壱卵をパカッて割ると弍卵でてくる玉子の双子の目玉焼き。
普段はお醤油派なんだけど、今日はブラウンソースでいただきます。
お口を絹のような滑らかな肌触りの絹ソフィアでふきふきしてからお片付け。
ノックノックノック、ノックノックノック、ノックノックノック……。
お皿をカチャカチャザブザブして、ナメクジサンタさんのネグリジェに着替えて、横になったら駄目になってしまうナメクジサンタさんのソファに身を沈めて、仕事帰りに購入したナメクジサンタさん最新ご本を読みふける。
ノックノック、ノックノックノック、ノックノックノック……。
それから小壱時間たっても、ノックノックノックは続いていた。
根負けしたわたしは壱つ溜め息をついてから、ノックノックノックのドアへとそっと忍び足で寄って行きます。除き穴から覗いても...…あれ? 誰もいない?
ノックノックノック、ノックノックノック、ノックノックノック……。
どうやらドアの下の方で、ノックノックノックしてるようです。
ファイブキーチェーンと足入れ防止プラスフック帯を確認してからガチャンと鍵を開けて、ドアを開いて見た。
きょろり……きょろり……きょろり……誰もいないかな?
「どこ見てんだいうすらとんかち。ここだよ!」
目線を下へ下へ下へへと下げてゆく……。
目があった。
ちっちゃいずぶ濡れ黑いローブを纏った鷲鼻のオババだった。
「あんた毒の壺もってんだろ。良質の銀貨参枚でどうだい?」
何言ってんだ鷲鼻のオババ?
「純粋な混じりっけ無しの虹色カイマンの毒を持ってるだろ。分かってんだよ!」
「人違いだと思います! 迷惑なんで帰って下さい! 虹色カイマンも、毒の壺も知りませんから(と、言いつつも心当たりが無いわけでもなかった)」
ベランダにいつもへんてこなへろへろの漆色ヘビが出てきて、うりゃって首根っこ掴まえたら毒ヘビぽかったんでたまたまその時食べてたたこ飯の陶器の容器があったんで何かの役に立つかもと口を押し付けて毒をとったんだよね。
毎日ベランダにへろへろ出て来るから、うりゃって首根っこ掴まえ……かれこれ伍年くらい日課になってたような? もしかしてだけど、あれって虹色カイマンって云うのかな?
「あたしゃフェイシャルウッドストーンの森に住む良い魔女さ! あたしに目つけられたんだ、もう諦めないよへへへへ……」
自称、良い魔女来ました。ちょう面倒臭そうなの来たな……。
「銀貨伍枚ならどうだい?」
何も言ってないのに吊り上げてきたけど……。
「それでいいです!」
「そうかい、ほれ良質な銀貨伍枚だよ!」
わたしは慌てて火の揺れるアロマキャンドルの横にそっと置かれた、たこ飯の陶器の容器をラップしてたこ飯の包装紙を掛けてたこ飯の黄色い紐で口を縛って、買い物袋忘れた時に購入した参圓の手提げビニール袋に入れて、玄関先へとタタタタタっと駆けてゆき下駄箱の上にたこ飯の陶器の容器を置いてファイブキーチェーンと足入れ防止帯外してドアを前回で開き、すかさず下駄箱の上に置いてたたこ飯の陶器の容器をとり、ずぶ濡れの黑いローブの鷲鼻の自称良い魔女のオババに手渡した。
ちゃんと良質と言い張る銀貨を伍枚渡してくれた。
「あんがとよ! また、たのんだよ!」と、言い残して自称良い魔女のちっちゃいオババは、参圓の手提げビニール袋を左手に下げて、土砂降りの雨の中箒に股がって翔んでった。
しばらく間抜けた顔でぽかーんと見送っていた。
本当に魔女だったんだ。
ファイブドアキーチェーンと足入れ防止帯をセットして部屋へと戻るとベランダで虹色カイマンが鎌首をもたげて待っていた。ベランダの硝子戸を開けるとスッと首を付き出してまったいる。
「ちょっと待ってね」
たこ飯の陶器の容器あったっけ?
割れ物入れの中から壱つ取り出して軽く洗って布巾で水気をとってアロマキャンドルの横に置く。
お待ちかねの虹色カイマンの首根っこ掴まえて、何時ものように毒を抜いてリリースしてやると、虹色カイマンは御機嫌で去って行った。
カチン! と鍵を閉めて、ナメクジサンタさんのソファに腰を沈める。
これ、どうしようかな? 良質の銀貨って言ってたけど……。
黑ずんだ銀貨っぽいコインを、ポイっと硝子のテーブルに置いて眠りについた。
明日、部長に聞いてみよっと……。
明日は穴子弁当にするかな……やっぱ、たこ飯かなあ……。