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ダンジョン生存競争  作者: りど
1章 倉庫編
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1. 地震の後

 その日、日本だけでなく、世界中が激しく揺れた。


 観測史上最大級とも言われた大地震が地球規模で発生し、それと同時に各地で“穴”が出現する。奇妙で不自然な形状のその空間から、未知の生物——モンスターが這い出し、街を襲った。


 多くの国は、突然の異変に対応できなかった。軍は混乱し、政府は情報を隠蔽しようとし、市民はパニックに陥る。大都市は壊滅し、地方は孤立し、数え切れない命が失われていった。


 だが、そんな世界的混乱の中で、日本やアメリカは例外的に冷静さを保っていた。


 アメリカは日本以上に早い段階からダンジョンの存在を察知していたとも言われている。広大な国土を活かし、極秘裏に軍事演習を重ね、各州ごとに特殊対応部隊を配置していた。危機発生と同時に州兵と連邦軍が連携し、主要都市周辺のダンジョンを封鎖。通信やインフラ維持のための非常電源網も整備しており、情報発信と避難誘導は極めてスムーズだった。


 一方、他の国々では準備が間に合わず、対応に大きな差が出た。


 ヨーロッパ諸国では対応が国によって分かれ、EUの統一的な指揮が遅れたことで、国境を越えた混乱が拡大。特に都市部にダンジョンが出現したフランスやドイツでは、軍と警察の連携不足から都市壊滅にまで発展した地域も存在した。


 中東・アフリカ諸国では政情不安の影響もあり、事態の把握すら遅れた地域が多い。通信網やインフラの脆弱さから、孤立地域が多数発生。これらの地域では今なおダンジョンの封鎖や再生の目処が立っていない場所もある。


 南米やアジアの一部諸国では、都市住民が武装して自警団を組織するなどの動きが見られたが、国家の支援体制が整わず、混乱の長期化を招いていた。


 スタンビートによる“最初の波”を越えた今も、世界の至る場所で多くの国が瓦礫の中に立ちすくんでいる。


 政府はすぐさま緊急対策本部を設置し、首相を中心とした危機管理会議を即時招集。防衛省と内閣情報調査室が連携し、すでに秘密裏に把握していたダンジョンに関する情報をもとに、全国の主要都市に警戒を発令した。


 特に自衛隊の対ダンジョン部隊は、すでに複数の模擬演習を重ねており、訓練された人員と専用装備をもって、全国のダンジョン想定地に即応展開された。自衛隊の一部部隊はドローンと遠隔操作ロボットを活用し、迅速な監視と初期封鎖を実行。


 また、首都圏や政令指定都市の一部では、地下鉄網やビルの地下階に臨時避難区域を設け、市民の誘導を開始。マスメディアには報道規制が敷かれたが、SNSの情報拡散速度を警戒し、一部情報を意図的に公開することでパニックを抑える世論操作も行われた。


 さらに厚生労働省・文部科学省・国交省も連携し、病院、学校、交通機関などの重要施設に優先的に防衛ラインを構築。


 前例のない国家規模の対応だったが、政府は裏で2年間準備していた情報とシミュレーションに基づき、迅速な初動を可能にしていたのだった。


 なぜなら——日本政府は、ダンジョンの存在を知っていた。


 始まりは現代、日本の北部、山間にある小さな村で、不可解な出来事が続いた。未確認の巨大肉食獣による家畜の被害が相次ぎ、村人たちは恐怖と混乱に包まれた。被害は夜間に集中しており、柵を破って家畜をさらうような跡が残されていたが、足跡はどれも見たことのない奇妙な形状だった。


 村の有力者たちは最初、熊や野犬の仕業と疑ったが、現場に残された痕跡はあまりにも異質だった。ついに、村で唯一の現役猟師である老人が「これは人間の理解を超えている」と言い残し、自ら森へと調査に向かった。


 数日後、満身創痍で戻ってきた猟師は、信じられないものを見たと語った。森の奥に、まるで生き物のように脈動する巨大な“穴”があったという。そしてその中から、異形の生物が現れ、闇の中をうろついていたのだと。


 彼の証言を受けて、警察は調査隊を編成。やがて、防衛省がこの異常事態に介入し、自衛隊が極秘裏に派遣された。通報を受けた警察と猟師の調査により、森の奥深くで「自然とは思えない構造の洞窟」と、異形の生物の存在が確認されたのだ。


 政府はこれを極秘事項とし、モンスターの殲滅と調査のため、自衛隊を密かに派遣。数々の死傷者を出しながらも、洞窟内部で“異常な物理現象や、生態系から完全に外れたモンスターの存在など、未知の危険性の把握に努めていた。


 それ以降、日本各地で密かにダンジョンの存在が発見され、周囲には秘密裏に自衛隊基地が設置された。洞窟内では電波が届かず、銃火器の性能が著しく低下するなど、常識の通じない空間が広がっていた。


 それでも自衛隊は、未曽有の事態に備えて装備や訓練を重ねてきたのだ。


 そして迎えた「災厄の日」——世界中で一斉に発生した異常現象“スタンビート”。


 世界中のダンジョンから一斉にモンスターが溢れ出し、各地を蹂躙した。


 日本でも多くの都市にモンスターが出現したが、事前にダンジョンの存在を把握し、訓練を積んでいた自衛隊の迅速な対応により、被害は他国に比べて最小限に抑えられた。


 ——しかし、すべてがうまくいったわけではない。


 地方都市の郊外、工場地帯。


 そこにあったのは、自衛隊の目が届いていなかった“未確認のダンジョン”だった。


 人が集まる工業エリアに突如として開いた異空間から、モンスターが大量に現れた。通信は途絶え、警察も間に合わず、あっという間に地獄と化した。


 この地は自衛隊によって、モンスターの縄張りの境目を見極めた上で、周囲に巨大な塀が築かれ、外界と隔離された。


 自衛隊は初期調査の段階で、モンスターの行動パターンを衛星と無人偵察機を用いて継続的に観察していた。その結果、モンスターたちが一定のエリア内を巡回し、特定のラインを越えようとしないことが判明した。


 さらに、境界線上に罠や音響装置などを設置しても反応を示さず、逆に一歩でも内側に踏み込むと、激しく反応するケースが多かった。これにより、モンスターたちは本能的に“何か”を感じ取っており、領域外には進出しないという行動傾向が浮き彫りになった。


 この観察結果をもとに、行動半径の限界点を境目と見なし、その外周を囲うように塀の設置が進められたのである。


 モンスターはなぜか、塀を越えて外に出ようとはしなかった。まるで“あの空間の外”では生きられないかのように。


 侵食された地域は、空気すら異様なものに変わっていた。気温や湿度、さらには光の屈折すら通常とは異なり、まるで別世界のような環境が広がっていた。電子機器の反応も鈍くなり、電波は途絶え、通信も使用できない。


 荒廃した街並みの中、かつて人が暮らしていた建物の中にはモンスターが巣を作り、まるで“そこが自分たちの縄張りである”かのように振る舞っていた。


 建物の壁や道路には、モンスターの通った跡と思われる爪痕や体液の痕跡が無数に残っており、昼夜問わず異音や唸り声が響いていた。


 一帯はすでに“日本”とは呼べない、異常な土地と化していた。


 そう、工場地帯そのものが、まるで“ダンジョン”と化していたのだ。


 そこに、雪村美雲がいた——。


 まだ、何も知らずに。


 外の世界では自衛隊や政府が動き、モンスターとの戦闘や境界の封鎖が進んでいく中で、内部に取り残された人々は何が起こったのかすら理解できずにいた。


 ただの大地震だと思っていた。だからこそ、まさか異形の化け物が現れ、人を襲い始めるなど誰も予想できなかった。


 連絡手段は途絶え、助けも来ない。

 中に取り残された人々は、テレビもラジオも使えず、情報もないまま混乱と恐怖の中に放り込まれた。


 何が起こったのか、どこへ逃げればいいのか。誰も答えを知らなかった。


 だが、確かなことが一つだけあった。


 ——生き延びるためには、自分で考え、動くしかないということだった。



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