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8話 すこしの背伸び


「よし、これで、全員…っと」


臀部を引きずり逃げようとするゴブリン最後の1匹の首を跳ね飛ばし、始末した。

緑の豊かな森は殺戮の結果、一面赤色に。

…んー首を刎ねるのはやりすぎかな。

できることなら、もっとスマートに出来るだけ血を出さず殺してあげたかった。

けど、仕方ないよな。

エンドワークスの剣重すぎです、人が扱える剣じゃねえって。

首を狙えただけでもすごいと思うのよね、うん。


俺はエンドワークスがやったように大剣を地面に突き刺し、少し遠くのエンドワークスに戦闘終了の

視線を送った。


「素晴らしいな」


エンドワークスは俺の元に着くやいなや、俺を褒めた。


「まさか私以外にこの『デスデリート』を扱える人間がいるとはな」


「デスデリート?」


「剣の名だ」


「は、はぁ…」


ダサいとは言わなかった。

言っていいことと悪いことがあるよね。

人が傷つくことは言わない、これ人付き合いで一番大事。


「流石は剣聖の血と言ったところか。

が、それでもこの暴れ馬には手こずっていたな」


エンドワークスはデスデリートを引き抜き、ブンブンと振り血を飛ばし、納刀。

完璧に使いこなしていた。

ま、そりゃ本人のもんですし使いこなせるのは当然なんだけども。


「それ重すぎんだよ。

身体がアンタほどデカけりゃ、使いこなせたかもな」


「ふっ、まったくだ。

もう少し小さい剣なら扱いやすかったのにな」


じゃあなんでその剣使ってんすか?


「ないとは思うが一応聞く、

怪我はないか?」


「ないよ問題」


「そうか、なら進むぞ」


前を歩いていくエンドワークス。

俺はだんまりのルイナに問いかけた。


(どうする?自分で歩く?)


(もう、勝手にして)


ルイナは少し呆れていた。

はて?なぜだろうか?

悪いことしたかな?


・・・


ザリアの迷い森の魔物はやはり気性が荒いようでその後も何度か接敵を繰り返した。

それはワーウルフという狼の魔物だったり、オークという巨大なゴブリンみたいな奴だったり。

初めは俺が戦闘を担当していたが倒しても倒しても際限なく襲いかかる魔物に辟易とし、最後の方は全部エンドワークスに戦ってもらった。

エンドワークスの戦闘を見させてもらったが、流石というべきか、強かった。

敵を殺すスピードも、正確性も、行動一つ一つに無駄な動作が一つもない、まさに惚れ惚れする洗練された剣技。


俺と戦ったらどちらが勝つのだろうと、

妄想したくらいだ。


うーん。

相手は巨体の機械、対する俺は可愛らしい少女。

不利だな、とても不利、フィジカルでもう不利だ。

くこの身体がもっとゴリゴリのマッチョだったら勝てたかもしれないのに…。

いや!今からでも遅く無い!ゴリゴリになれば!!


そんなことを思っていたら、

(バカなんじゃないの?)とルイナに呆れられてしまった。


…ふん、別にいいじゃん、妄想なんだしさ。


「しかしさ、エンドワークス、昨晩はあんなに静かだったのに、今日に限ってどうしてこうも魔物が寄ってくるものかね」


「マナの濃度によってザリアの森の中でも魔物が多い場所とそうでない場所がある」


「へぇ、そのマナとかってよく分からないけどここはそれが多い場所ってこと?」


「昨日の寝床が極小ならここは中くらいだな」


「うげえぇ」


「喜べ、極大まであるぞ」


「ぎゃああ」


そしてその後も何度か戦闘を繰り返し、ついにザリアの森の出口にまでたどり着いたのだった。


・・・


「そろそろ出口だな」


エンドワークスはついにこの森の終着を知らせた。


「まーじっすか、やっと出れるんすか…ふぃー」


正直くたくた、何時間歩き続けたんだろうか。

今すぐにでも横になりたい気持ちを必死に堪える。


「スタミナないな、ルイナは」


「鉄人間と一緒にすんなってんの。

歩きのペースが早いんだよ。

アンタの歩幅に合わせてたらこっちはもうマラソンなんだよ、立派な有酸素運動なーの!」


「ははは、面白いな」


何も楽しくねえよ、

笑い事じゃねーっての。


「さて、そろそろ人と出会うかもしれない。

顔を隠すとするか」


エンドワークスは背の旅嚢をおろし昨晩俺の身体を包んでいたコートを羽織る。

そして頭に仮面を被り、


「よしっ」

と、グッとサインをみせた。

いや、なんのサインだよ、だからなんだよ。


「私はレアだからな。

こうして顔を隠しておかないとトラブルの元になる」


「あーそうっすね」


「そう、腐るなよ。

もうここらに魔物は出ん。

後は歩くだけだ、疲れたなら抱えればいいか?」



エンドワークスがそんなことを言った時だった。


「くぅーん」


近くの茂みからそんな弱々しい鳴き声で狼が現れた。

姿に見覚えがある。ワーウルフだ。

人を襲う凶暴な魔物。この森を歩き続けて今日は飽き飽きするほどみたから一目でわかる。

分かるのだが、少し様子が変だった。

まず毛が金色。

そして身体が小さい、きっと幼体なのだろう

ここまでで相手をしてきたワーウルフはどれも灰色の体毛だった。この個体が突然変異的な個体なのか、それともワーウルフじゃない別種なのか。


「金のワーウルフか」


エンドワークスがそういうならきっとそうなのだろう。

その金色の狼は紛れもなくワーウルフ。

しかし、やはり、おかしい。

弱っているのか、そのワーウルフに戦う意志は見られなかった。


「ワーウルフは集団で狩りをする魔物だ。

気をつけろ、ルイナ。

1匹いれば10匹いると思え」


そうデスデリートの柄に手をかけるエンドワークス。確かにエンドワークスがいうように今まではそうだった。

1匹いれば10匹どころか100匹いた。

けど、今回敵の気配は感じない。

まったく、四方八方どこからも。


「いや、たぶん、コイツ一体だよ。

仲間はいない」


「なぜ言い切れる?」


「…それは、なんだろう…勘…。

でも!さっき自分でも言っただろ?

ここらに魔物は出ないって」


「…む、うむ」


「コイツは、ここに迷い込んだと思うよ。

俺らを襲いに来たんじゃねぇと思う」


俺はワーウルフに近づき頭を撫でた。

ワーウルフはまた「クゥーン」と鳴けば尻尾を振った。

撫でたことに喜んでくれているのだろうか。

もしそうなら、俺も少しだけ嬉しい。


「ほら、噛まない。

俺を襲わないだろ?」


「そうだな…そのようだ」


エンドワークスは分かってくれたようで、デスデリートの柄から手を離した。


「しかし、金の毛皮のワーウルフとは初めて見た。

むむ…剥製にすればかなりの値段が…」


「…おい」


「いや、冗談だ。

冗談。

そんなことするわけないだろ、かわいそうだ」


ほんとに思ってんのかよ、お前。


「けど、どうするかな。

コイツを群れに返すのも厳しいよな」


「そうだな」


「可哀想だけど、このままにしとくしかないよな」


「それが自然というものだ」


…自然、弱肉強食。

強いものが生き残り、弱いものは死んでいく残酷な世界。


「…じゃあな、頑張って生きろよ」


もしかしたらこの先、コイツが生きて苦しむよりはここで殺して楽にしてやることが一番だったのかもしれない。

そんなことも思ったが、俺にはできなかった。

今まで散々殺しておいて、なぜかそれができなかったんだ。


最後にまた頭を撫で、ワーウルフから離れた。既に歩き始めていたエンドワークスに追いつくために走ろうとしたのだけど。


(まって!)


その時だった。

突然、身体が金縛りにあったようにピタリと止まった。

これには身に覚えがある、

もう何度も経験した症状。ルイナだ。

ルイナが身体を止め、操作を乗っ取ったのだ。


「お願い、まって、エンドワークス」


「ん?」


エンドワークスはルイナの言葉に脚を止め、振り返る。


「…うむ、ルイナ。どうした?」


「…それは、その…」


後の言葉がなかなか続かないルイナ。

もともとが人見知り、心の中での俺との会話であんなに話せたのはきっと、心の中だったからだろう。


ま、あと俺の天才的なコミュ力のおかげかな?

…ええ、もちろん冗談でーす。


「…今の君はどちらだ?」


それは分かっている人間の言葉だった。

エンドワークスは今のルイナが俺じゃないことを分かっていてあえて、聞いていた。

既に二重人格なことに気づいていたのだ。


「わ、私は…。

今の私は…ルイナ。

使えない方のルイナ。

…それが本当の…ルイナなの」


「…」

エンドワークスはすぐに返事を返さなかった。

言葉を選んでいるのだろう、今のルイナにかけるべき適切な言葉。

人見知りで傷だらけのルイナをこれ以上傷つけない言葉を。

アイツはロボットだけど、空気が読めるから。

そこは信用していいと思った。


対するルイナは無言の中で、やはり極度に緊張していた。

心拍が全力疾走をしたそれに近い。

目線がおどおどと走り、今も気を抜けば吐いて倒れそうなくらい。

身体に悪いね、ホントすげー悪い。


「そうか。

どうした?何があったルイナ?」


「あ、あの…」


…。


「あ」


身体が戻ってきた。

またルイナは逃げてしまった。


でも、今回はダメ。

甘やかしません。

いつまでも、逃げてちゃ。

人から逃げてちゃルイナのためにならない、それじゃあ俺がいなきゃ何もできない人間になってしまう。

俺だっていつまでルイナと一緒に居られるかわからない不安定な存在だ。

魂だけの存在だ。

いつか目が覚めたら俺という存在は消えてるかもしれない。

せめて人と話せるくらいはできなきゃいけない。


「…っ!」


だから、身体の操作を再び返した。

ルイナが俺に出来ることは、俺にだってできる。


(あの、あのね!!私の代わりに!)


(…いや、伝えない。

言いたいことがあるんだろ?

自分で言うんだ。

自分の意思で、自分の口から話すんだ)


(…わ、私には、そんなこと無理だよ)


(無理じゃない。

ルイナならできるよ。

エンドワークスはルイナを傷つけない。

信用できる奴だ、これまでから分かるだろ?)


(それは、分かるけど…)


(大丈夫。

もしなにかあってもルイナには俺がいる。

傷つくのが怖いなら俺がルイナを傷つけさせないし、誰も信じられないなら俺を信じろ。

失敗を恐れるなら全部俺のせいにしてもいい。

俺はルイナで、ルイナは俺だ。

俺にできることはルイナにもできるし、ルイナにできることは俺にだってできる。

なぁ?そうだろ?ルイナ?)


「…そうかな…」


そうだ。

俺らは二人で一人なんだから。


「…大丈夫か?ルイナ?」


「…っ!…うん、もう、大丈夫。

…ねえ、エンドワークス。

声が聞こえたの、それがずっと心残りだった」


「ん?…こ、声?」


「そう、助けを求める声…。

助けてって…ずっと泣いてる」


「すまん、何がなんだか、さっぱりだ。

いつだ?どこでだ?」


「え、それは、あの…。

確かに聞こえた気がしたの。

…あの…あの子が助けてって…」


ルイナはさっきの金のワーウルフのところまで走り、持ち上げ、胸に抱えた。

しかし、それを見たエンドワークスは視線を外す。


「…それは、残念だが、群れから逸れたワーウルフを群れに戻すのは無理だ」


「ど、どうして!」


「習性だ。

ワーウルフは一度でも群れから抜けた個体を仲間と認めない。それは子供だとて変わらん。

それに…この森にどれだけワーウルフの群れがあると思う?その中からその子が産まれた群れを見つけだすことは至難だ」


「だったら!この子は私が保護する!」


「ワーウルフは決して人には懐かん。

いつか君が喰われて死ぬぞ。

それにこれから人の社会で生きていくなら、魔物を抱えていれば大きな障害になる」


「そ、それは…」


「人は魔物を認めない。

愛玩動物なら他にも沢山いる、諦めるんだルイナ」


「で、でも…けど、た、助けてって…聞こえた」


泣きそうなルイナとそこでバトンタッチ。

ここまで、よく頑張った。

ここから先は、俺の出番だと思ったから。

俺は身体を乗っ取った。


「そっか、ならここでお別れだな」


「…また変わったか」


「悪いな、混乱すると思うけど、俺は二重人格者。

そういう人間なんだ。諦めてくれ」


「…そのようだな。

なるほど、これで初めて出会った時の謎が解けた。

なに今慣れた、これからは問題ない」


「そ。なら話を進めるな。

エンドワークス。

アンタには感謝してるし、しきれない。

尊敬してるよ。

何かの機会があればこの恩を返したいと思う。アンタが何かに困ったならアンタの為に駆けつけたいとすら思える。

でも、そんなアンタの忠告でも聞けない。

俺、自分勝手なんだ。

この狼を助けたいと思ったから助ける。

許容できないなら、俺達は分かり合えない。

アンタとの旅もここまでだ、じゃあな、ありがとう」


「まて、ルイナ。

いいのか?後悔するぞ?

魔物を抱えてる限りお前は正直に生きられん。

あのワーウルフが、成長して他者を襲ったらどうする?」


「だーから言ったろ?

自分勝手だって。

常に自分で精一杯なんだ。

他人がどーなろうとどうでもいいんだよ」


(どうでもいいとまでは思ってないよ!)


「訂正!!

やっぱ、どうでもいいとまでは思ってない!」


「…うむ、そうか、

意見を変えるつもりはないんだな?」


「ねぇな」


「ならば仕方ない。


…この先も同行しよう」


「…ん?」


同行?


「やめとけと忠告はしたぞ。

それでも飼うというなら、もう止めない。

話はそこで終わりだ。

ここで別れる理由にはならん。

リコンの街までは責任を持って送り届ける」


「んー、じゃ、リコンまでは一緒に泥かぶってくれるってこと?」


「ああ、不本意だがな」


「はは、なんだよ。

アンタ、ホントつくづくいい奴だな。

ロボットにしとくのが勿体ねぇくらい」


「いくぞ」


「うぃす!着いて行きますぜ兄貴ィ!」


俺は今度こそエンドワークスの元に走る。

そこに小さな狼の子供を抱えながら。


(…ありがとう)


その日は、

初めてルイナに感謝されたすげー嬉しい一日だった。

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