5話 世界の成り立ち
エンドワークスの話を聞いて色々と理解した。
俺が迷っていたこの場所は、ルーファリ大陸という大陸の北東にある国『ルアシア王国』領の南に広がるザリアの迷い森だった。
なんでもこのザリアの森は曲者で、生息する魔物の気性の荒さと樹海特有の迷いやすさから一度入ったら抜けられない人喰いの森とも呼ばれているそう。
だからよっぽどのことがなければ、ここに立ち入る人間はいないのだが、そんな森の中で俺のような見た目だけは天使のように可愛らしい少女がいたのだからエンドワークスからすれば助けないはずもなかったという。
「ふぅん。で、エンドワークスの方はなんでこんな危険な森にいんの?」
「ルアシアの方に用があってな。
ザリアの森を抜けるのが早かった」
「へぇ」
「私は人のように肉は持たないからな。魔物にも襲われんのだ。
それに機械仕掛けの体の仕様、迷わん。
この道を通るのが早かった」
機械だから出来ることってことか。
「今後のプランだが。
明日以降、我々はこのザリアの森を北上に突き進むつもりだ。
あと半日も歩けば、森を抜けれるだろう、
目指すべきはそうだな…。リコルの街が近い、森を抜けて1時間もかからないだろう」
要は半日歩くってことね。
はぁ…しんどそうだけど仕方ないね、赤ちゃんみたいにおぶってもらうわけにもいかんし。
「リコルの街には『ガード』と呼ばれるルアシアの国兵がいる。
彼らに話せば後の生活の補助を受けられるだろう。私はガードの上層部に顔が効くからな、良い扱いをされるはずだ」
すげーな。
助けるだけじゃなくアフターケアまでバッチリかよ。
「エンドワークスはその後どうすんの?」
「そうだな。
ルイナのことが終わり次第。
馬車を使いルアシア王都に向かうとするかな。
元々がそのつもりだ」
「王都にね…。その用事ってなんなの?」
「む、それは…秘密だ」
秘密と言われれば聞き出したくなるのが人のサガ。
「ふーん、それどうしても言えないやつ?」
「そうだな、国王との密会だ。
後はどうか察して欲しい」
…深く聞いちゃいけないやつね、把握しました。
てか、国王と密会って…もしかしてこのエンドワークスとかいうロボット。ひょっとしたら俺が知らないだけで、凄い人物なのではないのだろうか。
サインとか今のうちに貰ってた方がいいのかな?
「そっか、じゃあそのリコルの街でエンドワークスとはお別れってことだな」
「そうなるな。
投げ出すようで悪いが、私にも私の事情がある」
「いや、そんなことない。
ここまで助けてくれただけでもすげー感謝している。俺になにか返せればいいんだけど、なんかある?ああ、パンツとか貰っとく?
売ればいい値段つくかもよ?」
そうパンツの紐を引っ張ってみる。
どっかで一回やってみたかったのよね、こういうセクシーな仕草。
「いや、礼など求めてない、気持ちだけで十分だ」
その後、また少し火を眺めていた。
互い何を話すこともなく、俺はゆらゆらと揺れる火だけをいつまでも。
火は不思議だ、ずっと見つめられる魔力がある。
「…あのさ」
静寂の中で口を開いたのは俺だった。
「なんだ?」
「いや、俺が気絶する前、言っていた。
イルフ人のことを聞きたくて。
エンドワークスさ。
俺のことイルフ人って言ったけど、なんなのそれ?」
あの時、初めて会った時、
エンドワークスからイルフ人かと聞かれた時、びくりと身体が跳ねた。
ルイナ自身の反応だろう。
ルイナの動揺が身体に分かりやすく現れたのだ。
だから、イルフ人を知ればルイナのことを少しは知れるかもしれないと思った。
そりゃ、当人に聞けばもっと早いんだろうけどさ、けどアイツ無口だし。
自分のこと話したがらないし。
「イルフ人は聖人イルフの血を継ぐ一族だ」
「聖人イルフ?」
「ふむ…そこからか」
「ああ、説明めんどくさい?ならしなくてもいいけど」
「いや、いい。
話そう。
まずは歴史の勉強になるが、それでもいいか?」
「もちろん、嫌いじゃないよ勉強」
「そうか」
かつて、大昔、それは…3千年以上も前の過去の話。
ルーファリ大陸は、天界より現れた人ならざる存在、龍たちに支配されていた。
龍は賢く、驚異的な長寿を誇っていた。
雨や嵐などの天候を自在に操り、その知恵と圧倒的な力で大陸全土を支配し続け、
人を含めたその他の生物は、龍の奴隷や家畜として細々と生き暮らしていた。
しかし、その絶対的な支配は、時の龍皇帝イリオセレドスの死後、急激にうつり変わり始める。
龍帝の死により、
後の玉座を巡って彼の二人の子、アルセリアスとグランファザリアが激しい争いを繰り広げたのだ。
彼らの戦いは熾烈を極め、ルーファリ大陸全土に天を裂き、地を揺るがすほどの破壊をもたらした。
大陸に暮らす無数の生物がその激戦の犠牲となり、やがて荒廃した。
しかし、
それでも戦いは100年もの間決着がつかなかった。
人々はそんな中、疲弊し、絶望に苛まれていた。
その時、立ち上がったのが後に聖龍と称されるアルフォリアルだった。
アルフォリアルはイリオセレドスが残した最後の子であり、他の龍とは異なる独自の価値観を持っていた。
アルフォリアルは何より人間を愛でる龍だった。
龍を嫌い、人を愛する龍だった。
大陸を統治するのは、このような惨劇を産んでしまった龍ではなく、
人間こそがルーファリ大陸を支配するべきだと考えていたのだ。
アルフォリアルは自らを慕う人間に自身の力を12の部分に分け、それを血液に混ぜて飲ませ12人の龍戦士を作り上げた。
そして自らの肉体を12の武具に変え、龍の根絶をその戦士たちに託したのだ。
アルフォリアルの使命を受け継いだ12人の戦士たちは、まずは戦闘で疲弊したアルセリアスとグランファザリアを討伐し、その後も次々と他の龍を討ち倒し、やがて大陸全土から龍の姿は消え去っていった。
こうしてルーファリ大陸は、
聖人と呼ばれる12人の龍戦士が支配する新たな時代へと移り変わっていったのだ。
「それが今の文明ってこと?」
「そうだ。
今あるルーファリ大陸の大国と呼ばれる殆どの国はこの12人の聖人のいずれかの血と神器を有している。
例えば、ここルアシア王国なら弓聖ルシアの直系の子孫である、ウィーグ王。
そして神器、神弓ルシア。
南のポルポン王国なら槍聖シキ。
その直系のハルキ王、神器、神槍シキとな」
「えー、つまり。
俺がその12人いる聖人の…イルフだっけ?
…その子孫って言いたいの?」
「そうだ。
ルイナの、その黒い髪に赤い瞳は紛れもなくイルフの。
剣聖イルフの特徴。
ルイナ、身体のどこかに印のような痣は見られなかったか?」
印のような痣?
エンドワークスにそう言われて身を包んでいたコートを脱ぎ、身体の様々を調べてみた。
みたが、そんなものは見当たらない。
「まて」
「え?」
「ルイナ、背中を見せてみろ」
「背中?」
「そう、そのまま背中を」
俺の背中をまじまじと見つめるエンドワークス。
そう長いこと見られるとすこし恥ずかしい。なんでだろうか相手は機械なんだけどね。
「間違いない、これは剣聖の神印…」
ぼそりとそんなことを呟くエンドワークス。
その印ってのはどうやら背中にあったらしい、そりゃ自分じゃ見つからないわけか。
「…」
そして、急に無言になったエンドワークス。
「あの、エンドワークス?」
「…」
「もう、背中見せなくてもいい?」
「あ、ああ。
もう、構わない」
そう言われたので、寒い寒いとコートに身を包み、
火に両手を当ててぽかぽかと温まる。
日中はあんなに蒸し暑かったのに、なんで夜はこんな寒いんだか。
どーなってんのこの国の天候は。
「ルイナ…」
「ん?」
「迷ったが、伝えようと思う。
君は…イルフの転生者だ」




