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いざダイエット

「キャーーーーーー!!」


 絶叫が部屋に響き渡る。鏡に映る私の顔はムンクの『叫び』のようになっていた。


「どうしたの蘭音!? ゴキブリ!?」


 キッチンからエプロン姿の月椿ちゃんが駆けつけてきた。


「違う。ゴキブリじゃない。月椿ちゃん、体重が、体重が五キロも増えちゃったよ!」


「五キロ、そんなに増えたの!?」


「お酒と料理を食べすぎて余り運動をしてなかったから、こうなっちゃったんだと思う」


 思い当たる節が有りすぎる。

 私は自分のお腹を摘んでみせた。はみ出てきたお肉が虚しい。


「決めた! 私ダイエットします!」


「じゃ私も少しダイエットしよーっと」


 こうして私と月椿ちゃんはダイエット生活をすることになった。


「ダイエットするには、運動と食事が大切ってことは知ってるよね?」


「はい」


「食事は私に任せて、カロリー低め、タンパク質多めの食事にするから」


「ありがと〜」


「あとは運動だね、筋トレとストレッチとかがいいかな」


 筋トレか、運動は苦手だけどこれもダイエットの為、頑張らなくては。


 その日からというもの私達はダイエットに勤しんだ。


「一ノ瀬さんのお弁当、彩りが綺麗だよね」


「そう?」


 隣で一緒に昼ご飯を食べている同僚から言われ、私は自分のお弁当を覗いた。トマトとブロッコリーとチーズの炒め物。卵焼き。サラダチキン。そして麦ごはん。確かに色鮮やかだ。会社に行く前に月椿ちゃんが言っていた。


「ダイエットは無理にするものじゃないからね、お弁当は野菜とお肉をバランス要してあるから……」


 私はおかずたちを麦ごはんと共に口の中に運ぶ。炒めの物はトマトの酸味がチーズよく合ってて美味しい。イタリア料理によくトマトとチーズが使われてるけどどこか納得。ブロッコリーもシャキシャキしてて美味しい。 

 お次は卵焼き。私は卵焼きを口に運ぶと衝撃を受けた。いつもの卵焼きは私の好みで甘じょっぱく月椿ちゃんが作ってくれている。しかし、今日の卵焼きは甘くない。ほんのりと塩の味がするだけで、あとは卵本来の味だった。多分これは月椿ちゃんの優しさなんだろう。こういうところで少しずつ糖質を抑えてくれてる。感謝しかない。私は心の中で月椿ちゃんに向かって手を合わせた。

 次にサラダチキン。サラダチキンは初めて食べるな〜。サラダチキンといえばよくアスリートの人たちや筋トレをしている月椿ちゃんが食べてたな〜。美味しいのだろうか。期待に胸を踊らせて私はサラダチキンを口に運んだ。お……美味しい。ハーブと香辛料が効いててとても美味しい。もう少し淡白な味だと思っていた分、驚きが多かった。麦米とも合ってて全部美味しい。


「ごちそうさまでした」


 弁当をカバンに入れてると私はあるものを見つけた。


「これって、ポロテイン?」


 そこにはダイエット用のプロテインが入っていた。

 プロテインって筋トレをする人が飲むものかと思ってたけど今はこういうのも出てるんだ。月椿ちゃんが選んでくれたのかな?

 私は持参したタンブラーにプロテインと素と水を入れて振り混ぜた。

 一口飲むとその味に驚いた。フルーティーなんだ。プロテインて味がないものかと思ってたけど、これは美味い。これなら私でも飲み続けることができるかも!

 本当、月椿ちゃんには感謝してもしきれないよ。


 家に帰ると月椿ちゃんがトレーニングウェアを着ながら既に筋トレをしていた。


「お帰り蘭音、先に始めちゃってるよ」


 月椿ちゃんのお腹は引き締まっていて少し割れていた。羨ましい。私もああなりたい。羨望の眼差しを向けてると月椿ちゃんが微笑みかけてきた。


「触ってみる?」


「いいの?」


「もちろん」


「それじゃ失礼します」


 私はそっと月椿ちゃんのお腹を触った。

 

 うわ~カッチカチだ。私のお腹とまるで違う。つついてみるとその硬さがよく分かる。


「くすぐったいよ蘭音」


「あっごめんね」


「さっ蘭音の一緒にやろう」


「分かった」


 私はトレーニングウェアに着替えて筋トレを始めた。

 まずは両肘を床に付けて身体をまっすぐにして耐える。

 きっつ! え、こんなにきついの? ただ耐えるだけだよ? 腕立て伏せや腹筋じゃないんだよ?

 自分の甘い考えに嫌気がさしてきた。

 なんとか三分間耐え抜いた私は既にグロッキー状態になっていた。

 これは先が思いやられるな。

 その後も様々な筋トレを試していた。


「も、もう無理……」


「大丈夫そう……じゃなさそうだね」


「月椿ちゃんはつもこんなにきついことしてるの?」


「いや、私はもっとハードな内容でトレーニングしてるよ。今日はだいぶ楽だったね」


 それを聞いた私は愕然とした。これが楽だなんて、スポーツマン恐るべし。


「蘭音起きて、ご飯にしよう」


「うん」


 お風呂から出るとテーブルには既に料理がよそられていた。

 銀の包に野菜がたっぷりと入った味噌汁。

 銀の包からはいい匂いが漂ってくる。この匂いは……。


「月椿ちゃん、この銀の包ってもしかして……」


「鮭のホイル焼きだよ!」


 そういうと、月椿ちゃんはナイフを取り出し、銀の包を開封した。

 銀の包からは香ばしい鮭の匂いとバターの香りが溢れ出した。鮭の切り身の上には輪切りにされたレモンが添えられてて、見た目も食欲をそそらせるものがあった。

 美味しそう。でも……。


「ダイエット中にこんなもの食べてもいいのかな?」


 脂質が多いような気がして食べていいのかと思ってしまう。

 

「大丈夫だよ、ダイエットレシピを参考にして作ったから、糖質と脂質を控えめで美味しく食べれるよ」


「本当に!? やったー!」


 そういうことなら色々悩まずに食べれる。

 

「「いただきます」」


 お箸で鮭を突くとほろっと身が崩れてきた。柔らかい。添えられてるえのき共に鮭を口に運ぶ。口の中で鮭の旨味が溢れ出してくる。ほんのりとレモンが効いててさっぱりした味わいになってる。美味しい。


 うぅ……これは絶対にビールに合う。飲みたい。鮭のホイル焼きだよ? ビールに合わない訳がないんだよな。


「月椿ちゃんビールって……」


「痩せるんじゃなかったの?」


 月椿ちゃんは呆れたように私を見つめてくる。


「うぅ……絶対に痩せてやるんだ!」


 私はそう嘆き、鮭のホイル焼きと野菜たっぷりの味噌汁を食べ尽くした。

 

 ◇


 一ヶ月後──

 

 私はお風呂場の体重計に恐る恐る乗ることにした。後ろでは月椿ちゃんが見守ってくれてる。

 一ヶ月間、必死に筋トレをして、糖質と脂質を押さえて、大好きなお酒も我慢してきたんだ。二キロくらい痩せていて欲しいものだ。


 私は目を瞑ったまま体重計に乗った。しばらく乗り、私は恐る恐る目を開いた。


「減ってる。減ってるよ! やった!」


「おめでとう蘭音! 何キロ減ったの?」


「三キロ!!」


「……三キロ?」


 月椿ちゃんの声色が暗くなった。


「うん……」


「何キロ増えたんだっけ?」


「……五キロ」


 静まり返る部屋。


「蘭音、あと一ヶ月はダイエットするよ」


「そんなああああああ!」


 そうして、私はまた一ヶ月ビールがお預けとなった。


 

 

 










 





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