焼き鳥とやさぐれ彼女
会社のデスクでパソコンを打っているとスマホに一件のメッセージが届いていた。
『仕事が終わりそうに無いから悪いけど今日のご飯は蘭音が作ってくれない?』
どうやら月椿ちゃんは今日、お仕事のようです。
私がスタンプを送ると数秒で返信が帰ってきた。
『ありがとう(´;ω;`)』
月椿ちゃん、いつの間にこんな顔文字を覚えたのか……。
ちょっと可愛い。
そうして今日の夕飯は私が作ることになった。
仕事を終え、私は足早に帰路についた。
自分でご飯を作るなんていつぶりだろう。ずっと月椿ちゃんに作ってもらってたからな……。
そう考えるとなんだか申し訳なくなってきた。
ご飯を作って少しでも恩返ししないと!
私は夕飯作りに燃えた。
気合があるのはいいことなんだが何を作ったものか……。
電車に揺られながら頭の中では夕食会議が始まっていた。
「月椿ちゃんはさっぱりしたものが好きだから、ここはやはりさっぱりしたものを作ってみるのはどう?」
「いや、月椿ちゃんはきっと疲れてるに違いない! 疲れている時はパパっと食べられてお腹に溜まるものがいいと思うの」
「でも、月椿ちゃんは疲れている時はいつもビールを一気飲みるすからビールに合った食べ物がいいと思うのだけど……」
「じゃあ、さっぱりして、食べやすくてビールに合う食べ物にしてみない?」
「「「それだ!」」」
頭の中で会議が終わろうとしていると丁度電車が目的地に着いた。
改札を出て、家近くにあるスーパーによって食材とお目当ての品を買い、家に向かった。
家に着くと、私はクローゼットにしまってあったエプロンを身に着けた。
懐かしい。高校生の時によく使ったけ……。
私はキッチンに向かい、食材を取り出し料理を作りを始めた。
スーパーで買ってきたもやしをお湯で一分ほど茹で、そこにごま、ごま油、醤油、鶏ガラスープの素、塩を混ぜたものを加え、もやしと絡めあうようにしっかりかき混ぜる。それが終わると冷蔵庫で一時間冷やす。一品目はこれで完成。続いて今日のメインディッシュに取り掛かる。
私は袋からあるものを取り出した。それはさっきスーパーの前で香ばしく焼かれたお酒のお供。そう焼き鳥だ! 食べたいという欲求を押さえて私はパックから様々な種類の焼き鳥を取り出した。
もも、皮、ぼんじり、つくね、レバー。それぞれ四本ずつ買ってみたけど、足りない気がしてきた。
まっ食べ過ぎは体に良くないし程々が丁度いいよね。
パックから取り出した焼き鳥達は冷めきっていた。
これじゃ美味しく食べれなくなっちゃう……。
私は冷蔵庫を探る。
確かこの奥に……あった!
私の手には焼き鳥のたれが握られていた。いつか使うと思って買っといてよかった。
器に出したたれをハケに付けてそのまま焼き鳥達に塗りたくり、アルミを敷いたトースターに入れて温める。
完全に焼き鳥屋さんになっちゃてない、これ……。
焼き鳥が焼き上がるのを待っていると玄関の扉が開く音がした。
月椿ちゃんが帰ってきた!
私は玄関に向かうとそこには案の定仕事終わりの月椿ちゃんがいた。
「月椿ちゃんおかえ……」
月椿ちゃんは私の横を通り抜け、一目散にキッチンへ向かった。
様子がおかしい。いつもなら玄関でハグをしてくれるのに。少し嫌な予感がした。
月椿ちゃんは冷蔵庫からレモンチューハイを取り出し、勢いよく一気に飲み干した。そして空になった缶をグシャっと潰してみせた。怒ってる。
私は恐る恐る月椿ちゃんに聞いてみることにした。
「月椿ちゃんどうしたの、なにかあったの?」
沈黙が続く。
月椿ちゃんは握りつぶした缶をゴミ箱に捨てると勢いよく振り返った。そして。
「ああああああああああああああああ蘭音んんんんんんんん」
月椿ちゃんが泣きながら勢いよく抱きついてきた。私は月椿ちゃんの頭をなでなでしながら月椿ちゃんをなだめる。
月椿ちゃんは酔っ払うと感情がグシャグシャになってしまい、たまにこうなってしまうことがあります。今は多分、泣き上戸かな。
「あのはげおやじ! 自分の仕事を押し付けてさっさと帰りってええええええ」
普段の月椿ちゃんからは想像できない言葉が飛んできた。今度は怒り上戸か。
「おまけに、身長が私より低いからって私の身長いじってくんじゃねぇ! 結構気にしてんだぞ!」
あ、そうだったんだ。この前、月椿ちゃんに長身で羨ましいって言っちゃてた。反省しないと。
私は心の中で月椿ちゃんに謝罪しつつ、月椿ちゃんをなだめた。
ひとしきり泣いた月椿ちゃんはむくりと立ち上がった。
「月椿ちゃんもう大丈夫?」
「うん、ちょっと取り乱しちゃった。ありがとう蘭音」
「大丈夫だよ、いつも月椿ちゃんにばっか負担を掛けちゃってるし、これくらいがわたしにできることだから、遠慮なく甘えに来てよ」
「ありがとう……」
「さあ! ご飯にしよう。今日は沢山食べて飲もう!」
私は冷蔵庫から作った品をオーブンからは焼き鳥を取り出した。
焼き鳥の匂いが部屋中を包み込む。匂いだけでもお酒が進みそう。
料理をテーブルに置き、いざ実食。
まずは私が作ったもやしのナムルから食べていく。
口の中でシャキっと音が鳴るとごま油と醤油の味が口いっぱいに広がる。この味付けがビールに合う。もやしの歯ごたえもとても気持ちがいい。何度食べても飽きない気がする。お手頃で作るのも超簡単お酒のおつまみにも丁度いい。かなり美味しく出来上がってて私はとても満足です。
「これ蘭音が作ってくれたの? 美味しいよ〜このナムル」
また泣いてる。今日の月椿ちゃんは感情の起伏が激しいな。少し不安になってくる。
しかし月椿ちゃんが美味しそうにナムルを食べてくれてて良かった。
ナムルとお酒で腹を満たしつつ、お米が炊けるのを今か今かと待っていた。
炊飯器の音と共に私はキッチンにダッシュした。
炊飯器から取り出したお米は白く輝いていた。
そして、今日のメインデッシュの焼き鳥ちゃん。
待ってたよ〜。
さっきから部屋に充満している焼き鳥の匂いでそろそろ限界に近かった私は焼き鳥を待っていた。
ナムルのおかわりを持ってくると私は一番好きな皮を口に運んだ。
口に運んだ瞬間、焼き鳥の甘いタレと鶏皮の旨味で私は昇天した。
そのまま私は皮を一本食べ終わると今度はももをお米を一緒に口に運んだ。
犯罪的だ! ウマすぎるぞ焼鳥ちゃん。
続いてボンジリとつくねを食べる。お米に焼き鳥、そしてビール!
缶を開ける音がここまで気持ちい事はそうそうない。
焼き鳥の味が残っている口にビールを流し込む。
最高。明日も仕事があるのにどんどん飲んじゃうよ。
「ねえ月椿ちゃん焼き鳥美味しい?」」
「美味しい……」
「そっか良かっ……」
私は月椿ちゃんの方を見るとそこにはビール二本とレモンチューハイ三本の空き缶が転がっていた。
「ちょっと月椿ちゃん!? そんなに飲んじゃったら二日酔いになっちゃうよ!」
「ん〜……蘭音〜」
「きゃ!」
月椿ちゃんがいきなり私の胸をガッシリと鷲掴みしてきた。
「ちょ、ちょっと月椿ちゃん。くすぐったいよ~」
「柔らかい〜それにいい匂い〜蘭音〜」
「ん〜〜」
胸を揉む力は次第に強くなっていき、私は声を抑えるのに必死だった。
ちょっと月椿ちゃん強いよ!
月椿ちゃんの手が胸から離れると私の体はぐったりと倒れ込んだ。
痛気持ちよかったのは黙っておこう。
「月椿ちゃん、もう寝よう。明日もお仕事でしょう」
月椿ちゃんの方を振り返ると月椿ちゃんはレモンチューハイの缶をゴクゴクと豪快に飲んでいた。
「月椿ちゃん飲み過ぎうっ……」
突然、月椿ちゃんが口づけをしてきた。柔らかい唇が重なり合う。それと同時に何かが口の中に流れ込んできた。
それは先程まで月椿ちゃんが飲んでいたレモンチューハイだった。私は口移しでレモンチューハイを飲まされてしまった。
「蘭音が言ったんだよ。今日は食べて飲むって」
再度、月椿ちゃんがレモンチューハイを口移しで飲ませてくる。
月椿ちゃんの顔はお酒のせいか真っ赤に火照っていて、どこか子どものように思えた。
あっこれ、寝れなくなる感じだ。
私はそのまま月椿ちゃんに抱えられながら寝室に連れて行かれた。後のことはご想像にお任せします。
◇
「うう〜〜」
頭が痛い。あれ? 昨日私何してたんがっけ。むしゃくしゃして蘭音に泣きついたことは覚えてる。だけどそこからの記憶が無い。
「え〜〜っと確か……」
やっぱり思い出せない。頭痛い。とりあえず頭痛薬を飲みに行くか。
「え……なんで私裸なの?」
布団からでは私はなぜか素っ裸になっていた。
蘭音が布団に運んでくれたのかな?
寒い。とりあえず服着ないと。
「ヒャア!」
私はベットから立ち上がろうとすると、突然私の腕を何かが掴んできた。私は思わず変な声を出してしまった。
「なに?」
布団を捲ってみるとそこには、私同様素っ裸の蘭音と脱ぎ散らかされた下着が散乱していた。
「ん……おはよう、月椿ちゃん」
体にタオルを纏った蘭音は起き上がると目を擦りながら、豪快なあくびをした。
「ねえ蘭音、なんで私達二人共裸なの?」
「覚えてないの?」
「うん……」
「まああんなにお酒飲めばそうなっちゃうか」
私はリビングを除くとそこには大量のビールとレモンチューハイの空き缶が転がっていた。
その光景と状況を見て私は悟った。やらかしたと。
「ええと月椿ちゃん? 大丈夫?」
「〜〜〜〜〜〜」
私は恥ずかしさと申し訳無さでベットに顔を押し付けた。蘭音ごめんなさい。
それから私はしばらくお酒を控えることにしました。




