我ら、第8特殊兵装運用部隊『ウィッチクラフト』!今日も未完成クソ兵器をなんとか実戦試験運用中!!
地球から人類が飛び出してだいぶ経った、太陽系開拓歴89年、
土星の衛星タイタンまで進出した人類は、太陽系外からやってきた未知の敵、
コードネーム『オブシディアン』
出会った謎の機動兵器達との交戦を始めた。
最後の人類同士の大戦から大分久しい人類の武装はあまりにも貧弱で、何よりもその絶対数が少なかった。
戦闘をするための航空機はほぼない、
戦車もない、
宇宙での戦闘艦艇も……ほぼ無い。
結果、人類は技術でも数でも上回る敵に対抗すべく、まずは武器だけを作り、
それを宇宙での建設作業・資源調査活動まで幅広く普及していた『人型作業用重機』、商品名『フレーム』に搭載して対抗することとなる。
人型機動兵器『|ファイティングフレーム《FF》』は、その歴史から間に合わせの結果生まれた物であり、
改めて人類が発足した軍事組織『|太陽系防衛軍《Solar System Defenders Force》』、
略称『SSDF』の主力兵器として、活躍せざるを得ない作業用重機達の成れの果てだった。
太陽開拓系歴95年
人類第3の拠点である木星の衛星エウロパを最前線としたこの異星からの兵器との戦いを支えていたFFは、当然その間に合わせの能力の限界を迎えていた。
「───で?
その我らが慣れ親しんだFFの後輩がこの体たらくってことっスか。
動けってんだよこのポンコツが!!」
ガン、とモニターを拳で殴る。
78%で45秒止まっていた起動準備が、一気に99%へ進み、ポーンと言う音と共に『FFF-OS ver.1.89』の文字が現れる。
『ギャハハハハ!!おい、『パピー』!でもコイツやっぱ改善してんぜ?
昨日は10分起動しなかったからな!!
秒単位で起動したのはすげーぜマジで!!』
「それ変わんないと思うけど『ゴリラ』ちゃんさぁ?」
狗鳴 沙希、太陽系防衛軍中尉。まだ17歳。
TACネーム“パピー”は、同期の一応部下の少尉ことTACネーム“ゴリラ”のゲラ笑いの一言に昨日を思い出して苦笑いする。
『ところで、こちらW4。
モニターが蹴りで壊れました。
要改善点として報告を』
『って、えぇ……??』
「『ボイル』さぁ、どうやってこの狭いコックピットをフル装備のパイロットスーツでどうやって蹴ってんスか……??」
そして、同じく同年代の部下、階級は少尉のTACネーム“ボイル”のいつも通りの信じられない行動に本気で恐怖する。
この三人の女性兵士の中でも、ボイルはTACネーム通りその名の由来通り沸点が一番低いのだ。万物に対して。
『にゃははは!
確かに人の蹴りで壊れちゃうのは改善点ですね〜!
と言うわけで、後でこの『マジカルガール』ちゃんが直しておきますねぇ?』
戯けた声でそう答えたのは“マジカルガール”。
本名ではないし、軍人ではないが、そう呼びたくなる技術担当である。
何せこのポンコツよりマシな機体を作った企業の技術者で、ポンコツどころかガラクタの頃から設計・開発・改良を担当している魔法少女並みに万能な美少女(割とマジ)なのだ。
そして、今回の作戦でも参加する、おそらく民間では最高クラスのパイロットだ。
パピーの評価としてはまさにマジカルガールとしか言えない才能だ。
「頼むっスよマジカルちゃん。ボイルは誰もが羨む清楚な美人の見た目の癖に中身はゴリラ以上のゴリラだから。当然耐爆仕様で改修を」
『後で覚えていなさいパピー』
ヘイヘイ、と生返事するころには、各部の自己システムチェックが昨日より早く終わり、頭部カメラの映像へモニターが切り替わる。
<W1エース>
『みんな、機体の立ち上げは終わった?』
相変わらず可愛らしい上官の声が聞こえ、ヘルメットに備えられたバイザーに、邪魔にならない程度の大きさと位置の無線字幕起こしが出る。
この機能、案外誰喋ってるか分からないレベルの混戦時は便利だ。
「こちらW2パピー、じゃじゃ馬は起きたっスよ隊長?」
<W3 ゴリラ>
『W3ゴリラ、こっちも重たい機体の割には速く終わったわ隊長』
<W4 ボイル>
『W4ボイル、モニターのヒビ以外は問題なし。
ヒビ入ってもよく見えるなんて、我が家のシネマモニターよりも高性能ですこと』
<W5 マジカルガール>
『W5マジカルガール!ロジカルマジカル出撃準備オッケーでーす♪』
<W1 リトルエース>
『確認したよ。
W1リトルエースより『ウィッチクラフト』各位、改めて作戦の確認だよ』
まだ舌足らずな声の主の年齢は、長い戦いで減ってきた人員の補充のために10代後半のティーンエイジャーも当たり前のSSDFの隊員の中でも一際若い15歳。
それでいて、SSDF発足から6年戦い続けている古参兵。
リトルエースといえば、SSDFの誰もが知る撃墜王……もとい小さな撃墜女王ある。
<W1 リトルエース>
『初めての、私達の育てた『FFF』の実戦だ。
それも降下作戦。目的は、味方の撤退の支援。
ここガニメデでオブシディアンの追撃を受けている陸上部隊のFF達を救助するために、今絶賛崩壊中の前線に投下。
部隊と私達を回収する予定の宇宙巡洋艦へ味方を誘導して回収後すぐ帰る』
「すぐ帰るんスか。殲滅はしないんスか?
仮にもウチらの拠点のエウロパが近くなのに、ここにオブシディアン共の基地とか兵器プラント建てられたらまずくないスか?」
<W1 リトルエース>
『まずいよね、パピーさん……
けど……ブリーフィングで話した通り、ガニメデの各基地の熱核動力は撤退予定時間ギリギリの起爆らしいのは聞いてたよね。
ガニメデを完全放棄するわけじゃないけど、基地はしばらく建てられないようにするのは本気らしい。
事実上の核使用で』
ウゲェ、とその後のことを考えると頭が痛くなる。
どうも、土星の拠点であるタイタンの放棄がだいぶ痛かったらしい。
<W3 ゴリラ>
『関係ねぇ!まだ楽な作戦ってだけじゃねぇか!
とっととレスキュー隊やって帰ろうぜ?』
「そりゃまぁそれしかできない、か」
<W4 ボイル>
『チッ……負け戦の尻拭いとは、面白くもないですわね』
<W5 マジカルガール>
『実際、ここ数ヶ月は負け戦が大半らしいって親切な情報屋さんが教えてくれたんですよね〜。
いよいよ、既存のFFだけでは性能維持が限界のレベルに達しているっていうのが滲み出てきているようですよ?』
<W1 リトルエース>
『だからって、FFFの実戦投入は早すぎるよ。
みんなの機体……その短い戦いをこなせるかも不安だもん』
「隊長、アンタ優しいっスね。
ま、そりゃアタイらも不安っすけどここまできて文句言って引き返すのも無しでしょうやお上さまも。
作戦通りいきましょうや。
隊長とマジカルガールは制空権確保と地上への間接攻撃を。
で、アタイにゴリラにボイルの特攻女Aチームは多分着地地点にいる味方へ急いで近づいて護衛へ。
特にボイル。敵にキレても良いけど、目的は守りで殲滅じゃないんスから、絶対『撤退』って聞こえたら撤退するように」
<W4 ボイル>
『フン……言われずとも、任務ぐらいは頭に入ってますので。
パピーはともかく、隊長の顔に泥は塗れませんゆえに』
「だってさ隊長。アンタの人徳が羨ましいねぇ」
<W1 リトルエース>
『……私はそんなに凄くはないよ。
ただ……絶対にパピーさん達を守る。上は私がいるから安心して』
<W5 マジカルガール>
『ちょっとちょっと隊長さーん?
それを言うなら『私達が』でしょ〜!?
マジカルガールな私をお忘れなく!!』
<W1 リトルエース>
『あ、ごめんねマジカルガールさん!!
そ、そう言う意味じゃなくて!!』
<W3 ゴリラ>
『こらこらマジカルちゃんよぉ?お前が良いパイロットなのは分かるが、我らがリトルエース大佐殿をからかっちゃあいけないぜ?
民間人とはいえ軍法会議物じゃねぇか?
いーけないんだー、いーけないんだー?』
<W5 マジカルガール>
『ひぇ〜!!これは失礼致しましたリトルエース大佐殿〜!!』
<W1 リトルエース>
『ふぇぇぇ!?!そんなことしないから!!しないから!!』
はっはっは、と漂ってきた緊張を吹き飛ばすように、全員無線越しで笑う。
と、ピピ、と全員の時計のタイマーが鳴る。
合わせた時間通りだ。
「おふざけは終わりっスね。
まもなく減速、そしてガニメデへご到着ってことで」
ヘルメットのバイザーを降ろす。
モニター以上の情報量が視界へ広がり、降下ポッドからの脱出時間がコンマ以下の秒数のカウントダウンとして表示される。
突然、ガタガタと言う振動と共に足から上へ伝わるブレーキの感覚が来る。
散々ポンコツと言っている今の愛機の衝撃吸収技術が、やはり世代が違うレベルで高いことをパピーは体感していた。
<W1 リトルエース>
『カプセル解放地点まで残り10秒』
カウントを見る。
9、8、7、ろ、
<W5 マジカルガール>
『待った!?高エネルギー反応!!』
アラートが聞こえ、直後に視界が炎のような真っ赤に染まった。
ドォン!!
***
爆発した効果ポッドを見上げる人型兵器。
『そんな……!救出チームが落とされた……!』
SSDF陸戦型FF『カルカロドント』達は、足裏の履帯を止めて空を仰ぐ。
『隊長……じゃあどうやってここから逃げれば……?』
だが、すぐに絶望の衛星ガニメデの地上を見る。
───忌々しさすら感じる黒い集団は、まるで地球の野生動物のサイに似た姿に武装をつけたような黒い装甲とそこを縫うように広がる紫の発光部を持つ。
オブシディアン タイプ03“アヴァランチライノ”
最初に最も人類の施設と、立ち向かった機動兵器FF達を屠った黒い恐怖の雪崩。
そしてその雪崩の上空を飛ぶ黒い翼の群れ。
鳥というよりはコウモリに似た同じ配色の『飛行型兵器群』。
タイプ02”ブラッククラウド“
航空機と思えない硬さと、宇宙戦闘艇の速度と火力を持つ曇天。
『オブシディアンどもめ!
まさか……こんな場所に新型を……!』
だが問題は奴らじゃ無い。
テラフォーミング後に植樹して育てた木々を薙ぎ倒し、現れる巨大な姿。
その姿ゾウだった。
巨大な牙のようなプラズマカッターで樹々を、味方の残骸を焼き切り進む。
そして、その鼻先に存在するビーム発射機構の冷却を終え、救助を撃ち落とした絶望を吐き出すように排熱を行い、ゆっくりと進んでくる。
おそらく、タイプ09と名付けられるはず。
『もし名付けるなら、旧約聖書の海の怪物と対をなす陸の怪物の名前が妥当だ。
ベヒーモス。大河すら一瞬で飲み干す巨大な獣王……!』
『そんなこと言ってる場合じゃない。
重要なのは……俺達の救いの手はもう無いってことだ……!』
すでに、救助を待つFF部隊は弾薬が尽きていた。
黒曜石の名前通り黒く硬い異星の敵、特にアヴァランチライノ相手では今あるどの装備でも撃ち砕くには相当な数の弾薬がいる。
その上で本体の硬さ以上に、特殊なエネルギーバリアーで全てのオブシディアンが守られている。
絶望の雪崩が迫る。
もはや神にも誰にも祈れない。
『──ったくよぉ!!新型いるなら事前に言えや!!
何のための情報部だクソッタレ!!』
その時、
迫る黒い雪崩に降り注ぐ小型ミサイルの雨。
そんなサイズでは、と思うまもなく、不自然な放電を纏い炸裂した青い色の爆発に飲まれ、なんとアヴァランチライノ達が消し飛んでいった。
FFの頭部カメラが、空を見る。
撃ち落とされた降下カプセルの爆炎の中、何かが光った。
***
爆炎を抜けてカメラが捉えた敵のダメージを、青みがかった目の前に映し出される。
内心、ガッツポーズをとる光景だ。
<W3 ゴリラ>
『奇跡だぜパピー!
エネルギーバリアがちゃんと動作しやがった!!』
<W4 ボイル>
『プラズマミサイルもちゃんと起爆してくれたようで。
まったく、試験場では爆発しなかったくせに!』
「奇跡はこれから起こすんスよ2人とも!!
隊長、マジカルガール、上は頼みました!!
陸戦組は突っ込め!!」
両肩の追加装甲から展開していた部位が折りたたまれ、機体を守っていた光の壁が消える。
安心と信頼のペダル操作でブースター出力を上げる。
2体の人型と、1体の下半身が脚ではなく履帯タイプの重装陸戦型が、見た目に似合わない速度で地上へ向けて進み出す。
<救出対象1>
『まさか、生きていた!?』
<W1 リトルエース>
『こちらは、第8特殊兵装運用部隊『ウィッチクラフト』!
隊長のリトルエースです。
これより、あなた方の撤退支援を行います!』
ボン、と上空の黒煙を突き抜け現れる、二つの機体。
青い装甲に翼のようにも見えるバックユニットを持つ機体が二つ。
そのうち片方には、リトルエースの乗る機体に貼られる白い翼のハートのエンブレムが輝く。
<救出対象1>
『リトルエース!?
またあなたに助けられましたな!
大佐になられて、後方にいったものと!』
<W1 リトルエース>
『だったら良かったけど、敵さんが許してくれなかったんです。
だから……行くよアーケオプテリクス!』
リトルエースの操縦を反映し、敵のブラッククラウドが見た目のコウモリ通り超音波のように鼻から放つビームを華麗に弾ける。
YFFF-S01 アーケオプテリクス
その型番を与えられた機体は、さらに避けながら正確に彼女の技量を載せて、反撃のライフルを狙い通りに発射させた。
バシュゥゥゥゥ!!!
放たれたのは、実体弾ではない。
敵と同じ、こちらは黄色い色のビームが放たれ、本来は多量のミサイルとありったけの大口径機銃で突破するブラッククラウドを『2機』貫き爆散させた。
<救出対象2>
『ビーム兵器だって!?』
<W5 マジカルガール>
『ちょっと違いまーす!
プラズマビームウェポンです!!』
さらにアーケオプテリクスの背後から放たれた渦巻光が、近づいてきたブラッククラウドの黒い翼を撃ち抜き、不自然に曲がってその奥の群れを貫いていく。
<W5 マジカルガール>
『そして、コレは『試作型偏光プラズマビームキャノン』。
マジカルガールちゃん特性の、フリーダムファブリケイトフレームこと『FFF』!
空戦用B型パッケージなこの『アンキオルニス』専用で出来立てほやほやな『宇宙由来技術』の推を集めた新兵器ッ⭐︎』
ヒュンヒュンとマニピュレーターで器用にガンスピンさせる、機体とほぼ同じ長さとなかなかの太さを持つキャノンを振り回して、ポーズを取る。
<救出対象1>
『あんな動きしてフレームのマニピュレーターが壊れない!?
いや、そもそも完全に飛行している!?』
<救出対象2>
『ガニメデは低重力とは言え、FFは飛行できないはずだぞ!?』
<W3 ゴリラ>
『へへ、驚くよなぁそりゃあな!!!
ただよぉ、この程度で驚くには早えぇんだよなぁ!?!』
ギュララララ!!
ガニメデの地面を駆ける履帯の音を響かせて、下半身がキャタピラタイプの陸戦機が、ビームを纏うツノを向けて突進するアヴァランチライノと正面衝突する。
<W3 ゴリラ>
『よぉ〜ライノちゃぁん?タイタン撤退戦ぶりじゃ〜ん、元気してたぁ?
今テメェとブチかましあってんのは、アタイの新しい相棒の『タルボ』っていうんだぜ?
挨拶を受け取りなぁッ!?』
バチバチと、両肩の装甲が開き展開したバリアで敵のビーム刃を展開する角から本体を守る。
そのまま、ギュラギュラと履帯で大地を削る様に前へ進み、サイに似た巨体をひっくり返し、踏み潰して進む。
<W3 ゴリラ>
『そんでコイツはサービスだ!!
全弾特注の216ミリ口径HEAT弾頭だ!!』
その両腕の4つの巨大な砲身を持つ火砲が、ガトリングさながらに4つの砲身から変わるがわる弾を吐く。
当たった複数の敵のバリアが徐々に爆発に当てられ弱くなっていき、やがて本体に命中し蜂の巣になりながら爆炎で炙られる。
「ゴリラー!それ5秒以上は撃つなよー!
また砲身加熱とフレーム損傷のコンボ喰らうっスよー!」
パピーは左隣注意しながら、自機の右腕のプラズマビームショットガンで敵一体を穴だらけにして撃ち落とす。
さらに横から来たもう一体を、右背部に備えられた長砲身榴弾砲を叩き込み、バリアを減衰させてから左背部のビームガトリングで蜂の巣にする
<W3 ゴリラ>
『てめーの『ダスプレト』よりは頑丈さ!
ただラジエーターが悲鳴上げてら!
友軍の撤退は完了してっかぁ!?』
「ついさっきまで驚きながらもう巡洋艦に向かってったっスよ!
けど、このままじゃ撤退もできないスね、あのデカブツのせいで!!」
直後、跳躍したパピーの乗る機体の過去位置を薙ぎ払う極太ビーム。
ゴリラのタルボは両肩が展開したバリアで防げたそれは、あの巨大なゾウの様なオブシディアンから放たれた物。
「幸い巡洋艦が射程内なのはあの一体っスけど、倒さなきゃ帰れないっスね」
<W3 ゴリラ>
『今の防いだせいでジェネレーター熱量がヤバいぜ!
また熱暴走で電源喪失は洒落にならねぇ!』
<W4 ボイル>
『任せなさいッ!!』
ボン、とボイルの声には付き物な音速を超える音が響く。
SSDFの機体には良くある、重装甲の陸戦向け機体の背中に増設のブースターを付けた改修機。
<W4 ボイル>
『切り裂け『ユウティラヌス』ッ!!』
それをわざわざ正式採用するべく作った、侍の様な印象を受ける機体がレーザーと実体の二つを伴う巨大な刀をあのゾウの様な怪物に音速で振るう。
斬!
片脚を、どころか片側の足首を勢いのまま切り裂いて、少し遅れて巨体が左へぐら付いてバランスを崩す。
「バカ逃げろ!!倒れるッスよー!?」
<W4 ボイル>
『フン、言われずとも……!?』
だが、巨大なオブシディアンは倒れない。
切れた脚の断面で地面を掴み、安定した瞬間そのゾウの牙がバラン、とバラバラになった。
「なんだそりゃ!?」
瞬間、それはビームを纏う鞭の様に振るわれた。
脚の下のユウティラヌスを、パピーの乗るダスプレトを、隣のタルボを薙ぎ払うべく迫る。
<W3 ゴリラ>
『オブシディアンがビックリドッキリメカなのは知ってっけどコレは予想外だぜ!?』
「FFのままだったら5回死んでるっスよこれは!」
上手くバリアと回避運動でいなす。いなせるだけのスペックを持つ最新型なのを感謝した。
<W4 ボイル>
『チィィィィィッ!!
味な真似をッ!!切り裂かれたいかゾウモドキが!!』
と、両手で握るブレードでビームを纏う鞭をいなしていたボイルのユウティラヌスだったが、瞬間ぼんと音を立てて刀身のみねに当たる部分が爆発。
こちらの刃に纏われたビーム刃が消えた。
<W4 ボイル>
『……限界ですか』
「やっぱ短いなぁ、武器の寿命がさ!」
と、混迷を極める戦闘の最中、
<巡洋艦 フタバ>
『こちらプレシオ級巡洋艦4番艦フタバ艦長です!
味方部隊の回収は終わりました!!離陸します!君らも戻って!!』
そんな通信が入った。
「っしゃあ!!
こちら『ウィッチクラフト』、W2 パピー!!
アタシらはこのままここ射程も鼻もご立派なデカブツをなんとかするっス!!
アンタらは早く離陸しろ!!」
<巡洋艦 フタバ>
『な!?英雄になろうとす、』
「絶対長い説教の冒頭じゃねぇっすか」
無線を切り、ビームショットガンで敵のビームの鞭を弾く。
そろそろ、ビームショットガンの排熱がまずいことになり、弾倉でもあるコンデンサが異常加熱している。
「ゴリラ、ボイル、援護!!
アタシがこのデカブツを落とす!」
<W4 ボイル>
『了解!』
<W3 ゴリラ>
『かましたれ、パピー!』
ユウティラヌスの肩の内蔵多連装ロケットが、タルボの4連オートHEATキャノン二つが火を吹き、巨体のオブシディアンのバリアを削る。
ここからは速かった。
パピーの操縦通り、ダスプレトは両腕のビームショットガンの機能の一つ、いわゆるチャージショットを起動。
コンデンサが爆発するだろうという未来と引き換えに、強烈な一撃でバリアを破る。
「ごめんマジカルガール!」
そして、本体ごと爆発しそうなビームショットガンを投げ、巨大なゾウの様な顔面である光学センサーの前で爆発させる。
陸戦型と思えないジャンプ、そして機敏さで新たな武器をマニピュレーターで握る。
グリップ付きの筒、中には杭。
試作型360ミリ口径対装甲貫徹杭射出装置、
「喰らえ!!戦艦砲並みの杭打ち機だ!」
拳で殴る様にそれを叩き込み、トリガー。
ズドォンッ!!!
一瞬でその顔面を崩壊させ、巨大なゾウの鼻がもげる。
「これで対空手段は死んだ!!
巡洋艦フタバ聞こえるか!?さっさと離陸し、」
直後、3機の空を黒い影が覆う。
<巡洋艦 フタバ>
『見えていたよ!!乗って!!』
それは、巨大な宇宙を進むための船。
宇宙巡洋艦のフタバが低空飛行でこちらに近づいていた。
「いや待ってっス!?」
<巡洋艦 フタバ>
『待ったからここにいる!!』
<W4 ボイル>
『あら……!』
<W3 ゴリラ>
『こりゃ一本取られたなパピー!?』
「チィッ!!
全員フタバに乗るっス!!」
ブースターを点火、巨大な上に宇宙航行用のエンジンを点火したフタバの甲板まで跳躍して3つの陸戦機がフタバ上部へ乗る。
と、同じ場所へ同じく降り立つ二つの影。
<W1 リトルエース>
『全員生きてるみたいだね。予想外だけど』
<W5 マジカルガール>
『こっちはもう、武装も飛行ユニットもオーバーヒートで!』
「隊長にマジカル!無事っスか……結果フタバに助けられた」
けど、と無事を確認した二人から、左舷側を見るパピー。
向こうには別個体のあのゾウ型オブシディアンの鼻先の砲がこちらに向けられている。
<巡洋艦 フタバ>
『全員早く艦内へ!!なんとかガニメデの重力圏を突破する』
「……マジカル!
例の装置、フタバごと使えないっスか?」
せっかくの申し出だが、パピーは『元々の予定』をちょっとアレンジするべく技術屋に尋ねた。
<W5 マジカルガール>
『うむむ?
いやいやそれは……ちょっと無茶ですけどできちゃいますよぉ?
と言うわけで、みなさんFFFの電源を貸してくださいっ⭐︎』
オッケー、とパピー以下3機の機体よりケーブルを伸ばし、アンキオルニスとアーケオプテリクスへ繋げる。
<W5 マジカルガール>
『隊長さん、コントロールを』
<W1 リトルエース>
『お願いマジカルガールさん』
<巡洋艦 フタバ>
『何をしているの!?』
「魔法の準備さ。随分鉄くさい魔法陣書いてる」
<巡洋艦 フタバ>
『基地の爆発も近い!敵の攻撃ももうすぐなのに、一体なんの魔法をかけるって言う気で!?』
<W5マジカルガール>
『そりゃあもちろん、瞬間移動♪
さて、全員FFFのNBHエンジンの出力を全開に!
持ってくださいねジェネレーター!』
祈る。
敵の集団がこちらに間に合いませんように、あのデカブツの対空砲が当たりませんように、
何より、クソ強力でクソ不安定なジェネレーターが爆発しませんように。
<巡洋艦 フタバ>
『もう時間がない!!』
<W5 マジカルガール>
『行きますよ!
フィラデルフィアジャンプ、起動!』
ボシュゥッ!!
巨大なゾウの鼻からビームが放たれる。
それよりも早く、巡洋艦フタバの前方に、巨大な黒い渦と……穴が現れた。
「進めー!!」
フタバの船体が、穴へ突入する。
瞬間、穴ごとフタバが消え、放たれたビームが虚空を貫く。
***
─────ガニメデ重力圏の外、宇宙
ボシュゥ!
突然現れた穴、そこから現れた巡洋艦フタバ。
「ドレイク艦長!!
計器が回復しました!」
「座標は?」
フタバ艦長、乃木琉那ことドレイクは、すぐに現在地を確認させた。
「座標は……ガニメデ近く。宇宙ですよ!?」
「……瞬間移動の魔法、ということか」
ふと、ブリッジにボンと言う爆発音が響く。
見ると、『魔女達』の機体の一機が背中の装備をパージし、直後それが爆発しているのが見えた。
<W2 パピー>
『結局爆発っスか。
これ、連続使用は無理じゃね?』
<W5 マジカルガール>
『うぇーん!また回収する箇所が多過ぎますー!
もうちょっと原型を止めるダメージだったはずなのにー!』
<W3 ゴリラ>
『あ、ヤベ!ジェネ壊れたわ』
<W4 ボイル>
『一つ貸しですわよ。はい』
と、ブリッジから見える船の上で、今回の英雄達の機体は見事に色々なボロを出していた。
「……通信を開いて」
「はい、艦長」
「こちら巡洋艦フタバ。
忙しい所悪いのですけれども……まずはありがとうウィッチクラフト」
ドレイクは、そう無線と共に敬礼を向けた。
ブリッジのクルーも同じく敬礼を向ける。
<W1 リトルエース>
『いえ。コレが私達の任務です』
<W2 パピー>
『このクソポンコツ共、その内そっちの艦にも搭載されるようにアタシら命かけて使えるポンコツに仕上げるんで!
てなわけで、ウィッチクラフト全機!
フタバに回収をお願いするっス〜!
あ、ヤッベェ!アタシのダスプレトもジェネ警告出たっスが!?』
妙に閉まらない通信と、洒落にならなそうな異常を訴えていそうな機体達。
そうして、彼女達の戦いが終わる。
「……正式配備、期待しているから。
頑張って、ウィッチクラフト」
次なる戦いに備えて。
***