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醜怪?悪鬼?悪の化身?

 人生初のお茶会は想像以上の魔窟だった。まさかお茶会でざまぁされた上、婚約者が宛がわれるとは、さすがの私も想定外だった。うん、ざまぁってすっきりするものだと思っていたけれど…それは当事者じゃないからだと思い知ったわ。しかも「私」には身に覚えのない事だからね。くっそ―この無念さ、どう発散すればいいのよ…!

 そもそもセラフィーナってヒロインじゃなかったけ?何で脳内ピンクのビッチになってるのよ…私が王子をスルーしたから状況が変わっちゃったの?


 しかし…ご令嬢たちから聞いたセラフィーナの所業を思うと、何と言うか納得しちゃったんだよね。彼女たちの気持ちがわかるって言うか…だって、日本での私は間違いなく彼女たちの側の人間だったから。


 社会人二年目の時、私にも彼氏が出来た。その人は会社の二つ上の先輩で、私の教育係もしてくれた優しい人だったんだけど…交際して半年後、その彼は私よりも新入社員の女を選んだのだ。その女は…紛れもなくピンク頭の側の人間だった。

 確かに可愛かったよ、明るくて朗らかで甘え上手で。だから私も困っている時は助けてあげたし、彼氏とデートだからって困っていた時は、残業だって変わってあげたりもしていた。その彼氏が、私の彼氏と同一人物だったなんて、笑えないオチ付きだったけど…


 その時の悔しさをばねに、私は必死に勉強して仕事を覚えて、それなりにやってきたけど…残ったのは社畜化した枯女の私で…

 一方あの女は、直ぐに別の男に乗り換えて、それを数回繰り返して社長の三男と結婚していた。ああ、世の中って不公平だなぁ…って思ったっけ。


 でも、だからこそ許せなかったのだ、セラフィーナのした事が。本人は軽い気持ちだったんだろうけど、いや、何も考えていなかったのかもしれないけど、そのせいでどれだけの人が泣いているかなんて気付きもしない。

 鈍感で馬鹿な子だと思う。貴族社会という、日本よりもずっと面倒な世界で生きているのに、よくまぁこうも自由にやっていられたよね。一歩間違えれば高位貴族の逆鱗に触れたっていうのに。まぁ、そんな危機管理のなさだから、王子と結婚出来ちゃったんだろうけど…


 それに…アイザック=ローウェル様、か。英雄と言われながら令嬢たちからの評価は酷かったわね…会った事ないし、小説でもそんな人の名前は出てこなかったから何とも言えないけど…


「ね、エレン、アイザック=ローウェル様って知ってる?」

「アイザック=ローウェル様って…あの醜怪侯爵って言われてる方ですか?」

「そ、そうなの?」

「ええ。恐ろしい顔立ちな上に、頬に大きな傷があるからそう呼ばれています。何でも…隣国との戦闘では眉一つ動かさず敵を皆殺しにしたって言われていますよ。普段から無口で表情も変わらないから、騎士たちの間でも恐れられているそうですし」

「騎士からも?」

「ええ、仕事も厳しくって部下にも容赦ないんですって。部下を問答無用で切り捨てたって噂もあるんですよ」

「はぁっ?切り捨てた?」

「はい。その時はもう、悪鬼のように恐ろしかったそうです。そう言えば町で流行っている物語では、ヒロインを攫って王子様との恋の邪魔をする悪の化身のモデルだって噂です」

「そ、そう…」


 エレンに尋ねたところ、返ってきたのは令嬢たちと変わりない、いや、それ以上の答えだった。やっぱりあの令嬢たち、怖い話はあえてスルーしていたのね…アラサーの私ならともかく、十代のお嬢さんなら怖がっても当然とは言え…私だってそこまで言われるくらい怖そうな人、遠慮したいんだけど…


 エレノーラは父でもあるレイトン侯爵に話をすると言っていたけれど…そもそも侯爵様が良しとするだろうか?自分とこの分家の娘が娘と同等の侯爵夫人になるなんて、普通は喜ばないだろう…

 それに、やっぱりクリフォードさんがいいと言うとも思えない。あの人も不器用って言うか喋らない人だけど、シンシアさんへの接し方からして悪い人じゃなさそうだ。だからこんな縁談を良しとしない気がする。頑固そうだし。

 それに、肝心のローウェル様だって、いくら若くて見た目はよくても、身持ちの悪いピンク頭なんて嫌だろう。侯爵家の名に傷がつくだろうし、そもそも侯爵家の夫人が出来る器とは思えない。私にしたって、こっちの世界の常識とマナーは初心者マーク。とても上位貴族に対応出来るとは思わない。


 そういう訳で、私はこの婚約話は流れるだろうと踏んでいた。それでも令嬢からしたら、一度は押し付けたってだけで気は晴れるだろうか…それで許して貰えたらいいんだけどなぁ…





 それから三日後。我が家の前に立派な馬車が停まった。それは恐れ多くも王家の紋章が入ったそれで…それだけで我が家はパニックになったのは言うまでもない。


 その時私は…お茶会に行って疲れたと称して、惰眠を貪っていた。いや、本当に疲れてたんだけどね。初めてのお茶会だったし、たくさんのピンク頭の残念な所業を聞かされたから、結構メンタルに来た。昔の彼氏を思い出したのではない、断じて…


「セラフィーナ様!大変ですぅ!」


 部屋に飛び込んできたのはエレンで、その後にシンシアさんも続けてやってきた。何よ、お茶会は終わったし、そこまで慌てるような事なんかない筈よ?と呆けた頭を起動し始めた私だったけれど…


「おっ、王家から…お使いがっ…!」

「おうけぇ…?」

「王家ですってば!国王陛下からのお使いです!」

「はぁああああ?!」


 まだ起動中だった筈の私の頭が、速攻で立ち上がった。過去最速かもしんない…って速さで。

 じゃなくて!ちょっと待って?王家って、国王陛下って何よ?そんな人からお使いが来る理由なんて…


(あったぁああ?!!)


 心当たりは一つしかない。この前のお茶会だ。って事は…


(レイトン侯爵とクリフォードさん、私を売ったのね!)


 私は自分の考えが甘かったことを痛感させられた。

 案の定、その王家のお使いのご用件は…私と、アイザック=ローウェル様との婚約を内示する書状で、三日後に顔合わせをするので登城しろとの出頭命令だった。う、うそでしょう?!!




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