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ピンク頭の所業は屑だった

 私の趣味で地味なドレスを着て茶会に出たら、反省のつもりかと問われたセラフィーナの姿をした私。意味が分からないのでその意味を尋ねたら…参加しているご令嬢たちから益々反感を買ってしまった。

 いや、これは反感なんて軽いもんじゃないわ。だって貴族の令嬢が茶会で招待客にビンタかまして突き飛ばすなんて、普通じゃないもの。でもその原因は…この身体の前の持ち主のせいなのだと…私は確信していた。

 しかし…どうしてここは私なのよ―!断罪されるなら本人にやって!私は見ず知らずの社畜なんですって。もう理不尽に叱られるのはノーサンキュ―なんだけど…

 でも、そんな私の声なんか、前に並ぶお嬢さん方には届きそうもなかった。いや、話しても信じて貰えないよね…


「人の婚約者に色目を使って誘惑しておきながら…よくも…」

「そうよ!私の婚約者だって…!」

「ちょっと可愛いからって調子に乗らないで!」


 気が付けば侯爵令嬢以外の参加者らしき令嬢数人に囲まれていた私。さっぱり訳が分からないけど…話から察するにセラフィーナの馬鹿、婚約者のいる男性に色目を使っていたらしい…しかも複数…


(そりゃあいかんだろう…何してたのよ、セラフィーナ?)


 いや、今はそれどころじゃない。この場をどう治めるかが先よね。このままじゃ生きて帰れないかも…なんて思うのは悪い方に考えすぎ…じゃない気がしてきた…お嬢さん方からの殺気が半端ない…

 他の参加者は遠巻きに見ているし、侯爵令嬢も場を諫収める気はなさそうだ…う~ん、もしかして本当に詰んだ?


「何とか言いなさいよ!」

「そうよ!貴女のお陰で私は婚約者と…」

「貴女が現れるまでは彼とうまくいっていたのに…」


 うう、終いには泣き出してしまったご令嬢まで出てきた。う~ん、私、女の子を泣かすのは趣味じゃないんだけど…しかも男絡みなんてあり得ない。日本にいた時は彼氏より女友達優先だったのよ、私。

 でも、この情況は私=セラフィーナのせいなのよね。どうしたらいいのかしら…


 とにかく相手が怒っているのは間違いない。私にとっては理不尽だけど…彼女たちにとってこれは正当な怒りなのだ。

 こういう時の対応の基本は、まず『相手の話を聞く事』だ。その後で『事実確認』をして『解決策を提示』し、最後に『お詫び』だ。これまで会社で散々繰り返してきたから、もう身に沁みついている。ああ、社畜根性って直ぐには抜けないのね…

 とにかく今は…『相手の話を聞く』のターンだ。仕方ない、セラフィーナの事を知るためにもこれは欠かせない行程だ。私は腹を括った。


「申しわけございません。ですが、私はつい先日までの記憶が全くないのです。なので、皆さまがお怒りの理由を教えてくださいませんか?」


 とにかく下手に出て話を聞くしかない。話を聞かないと事実確認も出来ないし、私もどうしていいかわからない。問題があるなら直さなきゃいけないし、逆に謂れのない事まで謝る気はない。クレーム処理だって下手に出ればいいってもんじゃなく、毅然な態度も必要なのだ。


「そう…それじゃ、お座りになって?貴女がなさった事をお話いたしますから」


 こうして私は反省の意味を懇々と聞かされる事になった。




「そんな事が…」


 あれからどれくらい経っただろう…お昼過ぎに始まったお茶会だったが、今はもう日が傾き始めていた。最初は義務感で聞いていた話だったけれど…途中からはむしろ私の方が食いついていたかもしれない…それくらいに私の…いや、この身体の持ち主の所業はろくでもなかったのだ。

 やっぱりピンク頭は脳内もピンクだった。セラフィーナの頭に詰まっていたのは脳みそじゃない。お風呂の掃除を怠けると出てくるピンクのカビと言えよう。放っておけば黒カビの温床になるあれだ。


 正直言って、泣きながら語るお嬢さんが気の毒になるほど、セラフィーナは色々やらかしていた。婚約者のいる男性と懇意になる、いない男性でも以下同文。しかもその儚げで庇護欲をそそる見かけとぶりっ子で、彼女や婚約者に注意をする令嬢たちを悪者にしていた。

 って、それって正に世に言う残念ヒロインじゃない!話を聞けば聞くほど私の絶望が深まっていった。私って、私が一番嫌いな人種の中に入り込んじゃったって事?何の因果でこうなった?私はこういう女が一番大っ嫌いなのに!


 とまぁ、こんな感じで、話が終わる頃にはぐうの音も出なかった。いや、元より出す気はないけどね。何だかんだ言っても、私自身がやった訳じゃないから、話聞いても他人事にしか思えなかったし。


 でも、この先この身体で生きるしかないのなら、このまま放ってもおけないのだ。そんな事したら私が生き辛くなっちゃうじゃない。王子との恋愛なんかは望んでいないが、それでも人並みに穏やかに暮らしたい。逆ハーはノーサンキューだし、そもそもご令嬢たちの婚約者は若すぎて対象外だ。私はショタじゃないので。


「それでは、私は社交界には二度と顔を出さない事にします」


 話を聞いたうえでの私の結論は、二度と人前に出ないだった。私が姿を表さなきゃ、婚約者を誘惑する事もないし、そうすれば私も面倒事からは解放される。ある意味ウィン―ウィンの解決策じゃないだろうか。いっそ領地にでも引っ込んで自然の中でのんびり暮らすのもいいかもしれない。そう思ったんだけど…


「そんな事したら、彼に私達のせいだと責められるじゃありませんか」

「そうですわ。それに、その程度では私たちの気持ちは収まりませんし」


 って…あら、これじゃダメって事?う~ん、嫌な相手とは距離を置くのが一番だと思うのだけど…でも、加害者側のこちらがそれを言っても意味がないわよね。彼女たちの気が済む方法、怖いけど聞くしかないか…う~ん、聞きたくないなぁ…私も結局は他人事だから、やってもいない事で罰を受け容れる気にはなれないのよね…


「それでは、どうすれば…」

「そ、それは…」


 どうすればいいかと尋ねるも、お嬢さんたちは言葉に窮した。これはアレかしら、あんまり酷い事を言うと性格が悪いと思われそうだから自分は言いたくないって感じ?


「では皆様、こうしてはいかがかしら?セラフィーナ様には、アイザック=ローウェル様と婚約して頂くのです」


 そう提案したのは、主催者の侯爵令嬢エレノーラ様だった。





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