怒りを向ける方向は正確に
ストーカー男に王宮内で拉致監禁された私。その監禁男が好きだったと叫んだ令嬢は、セラフィーナに嫌がらせをしていたんだけど…これって逆恨みではないだろうか?
こんな連中を相手にしていたなんて、今更ながらにセラフィーナの苦労が忍ばれた。子供の頃からこれじゃ、そりゃあ男性不信どころか人間不信になっても仕方ないよね。
「貴女が惨めになったのは、私のせいじゃないでしょうが」
「な、何ですって!」
「貴女を惨めにしたのは、そこの婚約解消を言い出した男でしょ?婚約者がありながら他の女に現を抜かさなきゃ、こんな事にはならなかったんだから」
「な…!」
「…っ」
「一方的に好意を向けられて、こっちはいい迷惑よ。しかもそれを理由に逆恨みなんて。怒りをぶつける先は、貴女を粗雑に扱ったそこの男でしょうが」
「…な、何を…」
何をって、それはこっちのセリフだ。婚約者がいるのに他の女に気を取られた男が一番悪い。というか、その男しか悪くないんじゃない?セラフィーナは男嫌いだから、そんな気持ちはノーサンキューだったろうし、むしろ有難迷惑だ。それでこの状況になったなら、いい加減にしろと思うだろう。私は深くそう思う。
私がここまで言うと思わなかったのか、令嬢は黙り込んでしまったし、男の方は…さっきから状況が理解出来ないのか困惑しています…な感じで狼狽えていた。私の態度が自分の理想に反していたのもあるだろうけど、そこの令嬢が自分を好きだった事実に衝撃を受けている…みたいに見える。
「…そ、んな…それじゃ…私がやってきた事、は…」
「貴女が何をしてきたのかは知らないし興味もないけど、本人に怒りをぶつけられないからって、自分より弱い者に当たり散らすなんてみっともないだけよ」
「当たり散らすなんて…」
「でも、貴女がした事はそうでしょ?第一、そんな事したってその男は戻って来ないわよ。どうせならもっといい女になって、その男が這いつくばって復縁を願ってきても足蹴にするくらいになんなさいよ」
「……」
「ついでに言えば、こんな頭イカレてる監禁ストーカー男、さっさと忘れてもっといい男をゲットしたら?若いんだからまだチャンスはあるでしょう?」
「そ、んな…」
そんなに私の言った事は変だっただろうか?二人はそれぞれの態で呆然としていた。初恋だか何だか知らないけど、この男が好きだったのはわかる。子どもの頃は子どもらしく無邪気でまともだったのだろう。
でも、今この男がしている事は犯罪行為だ。それを諫めなかったんだから、そこに愛情なんて見えない。見えるのはこうなっても離れられない執着と復讐心、じゃないだろうか。
どっちにしても不健全で後ろ向きで、未来がない。まだ十代だってのに、何でこんなに人生拗らせちゃってるのよ。まぁ、その原因を作ったのは彼ら自身なんだけど。
はぁ…とため息が出たその瞬間だった。いきなりドアから大きな音がしたと思ったら、何か物体が飛び込んできて、私は途中まで出していたため息を思わず飲み込んでしまった。更に窓からも人が入ってきたのだから二度びっくりだ。
「セイナ、無事か?!」
ついドアに気を取られていたけれど、後ろからかけられた声はアイザック様のものだった。バルコニーから入ってきたの?どうやって?
「アイザック様?!」
「ああ、無事でよかった!」
部屋の奥のベッドの上に座っていた私に元に一直線にやってきたアイザック様が、あっという間に私をその腕の中に囲った。力強い腕に抱かれて、痛いくらいだけど…その痛みが私の不安を霧のように晴らしたのは間違いなかった。
「な…ど、どうしてここが…」
「きゃ!な、何を…」
二人の声がしてそちらに振り返ると、二人が騎士達に拘束されているのが見えた。その側には二人に冷たい視線を向けるフレディがいた。
「セイナに人を付けておいてよかった。手紙と花束をしつこく送り付けてくる輩がいたから警戒していたが…まさかこんなところで行動に出るとは…」
「そうだったんですね…でも、どうやって窓から…」
「ああ、この辺の部屋は何かあった時のためにバルコニーは繋げてあるんだ。こういう事もあり得るからな」
「そうでしたか」
少し身体を離して、アイザック様がそう教えてくれた。そっか、木を伝って登ってきた…とかじゃなかったのか。こんな時なのに私の思考は明後日の方向に向いていた。助かったという安堵感もあるんだろうけど…ちょっと動揺している…のかもしれない。
「怪我はないか?酷い事はされなかったか?」
「怪我は…手を…」
「手?」
アイザック様の問いかけに、痛みのある左手をゆっくり広げると、掌の数カ所に血が滲んでいるのが見えた。飾りだったから大した傷にはならなかったけど…
「よくもセイナの身体に傷を…!」
耳に届いた声は、低く地を這う様なドスの効いた声だった。傷の大きさとその声の危険な感じの落差が激しくて思わずアイザック様を見上げると…目が座っていた…
「あ、あの…大した事はないので…」
「それでも、貴女の身体に傷をつけるなど…万死に値する」
「い、いえ、これは自分でやったもので…何か薬を嗅がされて…意識が遠ざかりそうだったので、とっさにスカートの飾りを強く握ったんです。そのせいで…」
「…あの連中がこんな事をしなければ付かなかった傷だろう?」
「そうですけど…」
「では、あいつらが付けた傷も同然だ」
「えっと…」
何だか話が飛躍して大げさになっているんだけど…それでいい、のかな?ついでに言えば、あの後私の足につけられた鎖を見たアイザック様が、更に怒りを増して久しぶりに大魔神になってしまわれた。




