いざ、お茶会へ!
我が家の主筋に当たる侯爵家が開いた、令嬢だけを招いたお茶会は敵の巣窟だった。侯爵令嬢に挨拶に向かった私だったけれど…その取り巻きの三人がニヤニヤと私を見て笑っているのだ。
「まぁ、セラフィーナ様、ようこそ、我が家の茶会に」
「お招きいただきましてありがとうございます。このような素晴らしいお茶会にお招き頂き、光栄にございます」
侯爵令嬢に声を掛けられたので、マナーの先生に事前に教えて貰った挨拶を述べて一礼した。うん、噛まずに言えたぞ、私。セラフィーナは第一関門を突破した!
私がそんな悦に浸っていると、彼女たちの方から息を飲む声が聞こえた。んん?どうかしたかしら?挨拶自体は定型文だから問題ないはずなんだけど…
そう思いながら頭を上げると、四人は揃って信じられないものを見る目で私を見ていた。何かまずかっただろうか?シンシアさんにも確認して貰ったが、十分及第点だった筈なのだけれど…
「…あの?」
あまりにも反応がない四人に、さすがの私も不安が込み上げてきた。ちょ…この反応はシミュレーションにはなかったわよ。この世界に来て初めての茶会がこれって、ハードル高くない?こんな事なら先に親しい人を呼んで茶会の予習でもしておけばよかったわ。
「あ、ああ…ようこそ。それにしても…随分と雰囲気が変わりましたのね」
まだ動揺が冷めきらないと言った風の侯爵令嬢だったけれど、さすがに他の三人よりは立ち直りが早かった。さすがはボス。レベル的には…小ボスと言ったところかしら?
「はい。先日階段から落ちて頭を打ったらしく、それ以前の記憶がなくなりまして…」
「まぁ…では私達の事もお忘れに?」
「申しわけございませんが…全く」
「そ、そうでしたの。それはお気の毒な事ね」
四人ともまだ動揺が抜けないらしい…でも…あちらの方が経験値が高い分、立て直しも早いわね。徒党を組んでいるのもあるんだろうけど…
「そのドレスは…反省のおつもり?」
「はい?」
うわ、想定外の質問キター!いや、これは私の趣味なだけで、決して反省ってわけじゃないですけど…って言うか、反省って何?セラフィーナ、何やらかしたの?
「そんなに地味な衣装をお召しになるのは初めて見ましたから」
「そうなのですか?」
「ええ、いつもはもっと…レースやフリルがふんだんで…」
「ああ、あのレースとフリルの塊ですか…」
「え、ええ、正にその通りですわね」
あ~やっぱり周りもドン引きしていたのかぁ…確かにあれはないよね、いくら若くても。あんなレースとフリル三昧、許されるのはせいぜい幼児だろうと思う。幼児でもやり過ぎたら引くけどさぁ…ほんっと、セラフィーナのセンス疑うよ。
いや、今はそこじゃなくて…
「あの、つかぬ事をお聞きしますが…」
「何でしょう?」
「反省とは…一体どのような?」
とにかく相手がそういうって事は、セラフィーナが何かやらかしたと思われる。周りの反応からも、それは感じ取れるのだ。だって頭打って意識不明になったら、普通は心配するものだろう。なのにここに来るまでの間、屋敷の人以外から心配されていないのだ。貴族だよ?付き合い重視だよね?それでこれって…相当だよね?
う~ん、もしかしてセラフィーナって見た目はいいけど、実は相当問題があったんじゃない?可愛いから嫉妬されているとエレンたちは言っていたけれど…マナーの先生も見違えるようだと言っていたけれど…もしかして彼女って問題児だったのかもしれない、って今になって妙に確信になってきたぞ…
いや、その可能性が高いと思ってはいたのだ。だってピンク頭だよ?ヒロインだよ?一目惚れとか言って悩みもせずに王子と恋仲になっちゃうような…
私の中のピンク頭=脳みそまでピンクのイメージだったから、凄く不安だったのだけど…杞憂じゃなかったんかい!これじゃヒロインじゃなくてヒドインじゃないの…
そりゃあ、常識のない物怖じしない美少女がいたら、王子も物珍しさから食いつくよね!きっと珍味枠だけど。でも、珍味は中毒性があって癖になるから危険なのよ。
「まぁ、反省の理由をご存じないと?」
「え、ええ…申しわけございませんが、記憶が戻らないもので…」
自分の思考に嵌っていたら、先ほどとは打って変わって厳しい声色が飛んできた。うわ、やっぱり悪い予感程当たるっていうのは本当だった。もしかして藪蛇突いた?しかもこの状況、蛇は一匹じゃないわよね…これは詰んだ、かもしんない…
「記憶がないからと言って、貴女がやった事がなかった事にはなりませんのよ!」
「そうですわ!」
「見た目が可愛いからって何でも許されると思わないで」
「記憶がないなんて嘘じゃありませんの?ふりをしているだけで」
何だか地雷を悉く踏んでしまったらしい…というか、こんな地雷があるなら教えて欲しかったわ…でも、今更逃げられないわよね…ここは耐えるしかないかな?情況が見えないから迂闊な事は言えないし…
「全く、こんな女にあの方がお心を奪われるなんて…!」
頬に熱を感じると同時に強い衝撃を受け、私はその場に尻もちをついた。