元に戻れない?
「えええっ?!!魔道具が壊れたぁ?!!」
目が覚めた翌日、ローウェル侯爵邸にクローディアとセラフィーナがお見舞いに来てくれた。十日も意識不明だったせいか二人共物凄く心配してくれて、アイザック様が連絡したら今すぐにでも顔を見に行きたい、と返信があった。
さすがに目が覚めた直後で会うのは…遠慮したかった。ずっとお風呂も入っていなかったし、さすがに最低限の身だしなみを整えたからでないと、ねぇ…
それでも心配してくれた事は嬉しかったし、早く安心して貰いたかったから今日にしたのだ。まだベッドから出るのは禁止!とアイザック様に止められたので、申しわけないが私はベッドの上だったけど…
そしてやってきた二人に、心配した、意識が戻ってよかったと散々言われ倒された。セラフィーナなんか泣いちゃって、そこまで心配かけていたのかと胸が痛くなると同時に、そんな風に思ってくれた事が嬉しかった。
さすがにクローディアは泣かなかったけど…王子の姿だし、彼女は上位貴族として感情のコントロールをしっかり叩き込まれていたからね。それでも、目が潤んでいたから相当心配してくれたのは明らかだった。
その後で、どうしてこんな事になったんだろうと私が聞いた第一声が、冒頭だった。
クローディアの話では、王子の部屋に入り込んだ側近が、勝手に魔道具を見つけて取り上げたという。危険だからと言って目の前で壊そうとしたので、クローディアが何とか阻止しようとしたけれど…間に合わなかった、と。
「それじゃ…もう、元には…?」
「それは…ごめん、そこまでは私にもわからなくて…」
「そうなんだ?」
「うん。殿下が持っていた魔道具に関するメモにはそのように記されていたけど、そもそも何のための魔道具かもよくわからなくて…」
クローディアの話では、魔道具は古の魔術師が作ったもので、今はその一部が残っているだけだという。王家が保管しているが、既に失われた力な上、魔道具に関しての研究なども禁止されていたから、今はそれらについて知る者がいないのだという。
例外は魔女と呼ばれる魔術に詳しい者達だけど…そもそも存在しているのか、それすらも謎だという。要するに、何もわからないのだ。
(ったく…そんな危ない代物、子どもの手が届くところに放置しておかないでよね!)
そうは思うのだけど、今更だ。
「じゃ、せっかくだし、王子に話を聞く?」
「可能なら是非。魔道具について、私が知らない事もあるかもしれないし」
クローディアもそう言うので、私達は王子も呼び出した。王子はこの家で軟禁状態だし、今は体調が優れないとかで休んでいたが、呼びに行かせたら意外にもすんなりとやってきた。
「クローディア…」
「お久しぶりです、殿下」
相変わらず自分の身体にいるクローディアを前にすると、緊張しているように見える王子に、二人の関係を感じた。う~ん、クローディアに負い目を感じていたんだなぁ…というのはわかる。
「殿下、入れ替わりのきっかけになった魔道具について教えてください」
王子がやってきて、人払いをして四人での話し合いになった。私だけベッドの上が申し訳ないけれど…さすがに十日も寝ていたせいか、身体を起こしているだけでも疲れが滲んでくるのでどうしようもない。
「あれは…王宮の書庫の奥で見つけたんだ…」
今から一年前、いつものように王宮の書庫に籠っていた王子は、奥で雑多に仕舞われていた古書の中からあの魔道具を見つけたのだという。それは魔道具について記した古びた紙に、雑多に包まれていた。大分前から放置されていたのか埃を被っていたが、中の宝石は美しく輝き、酷く心を惹かれた。
部屋に持ち帰って紙に書かれている内容を読んだが、願いを叶えると書いてあるだけで、何がどんな風に働くのかはわからないのだという。そもそも王子は単なるお守りのつもりで持っていただけで、願いが叶うとは信じていなかったそうだ。
「それ以外には…」
「ごめん、クローディア、それ以上は僕にも…」
「そう、ですか…」
結局、状況は振出しに戻ると言うか、そもそも一歩も進んでいない気がした。王子が唯一の希望と言うか手がかりだったんだけど…肝心の王子はあんまり役に立たなかった。残念王子と言われていたのが、ちょっとだけわかった気がしたけど、それで話が進むわけでもない。
「でも…魔道具が壊れても戻らないという事は…一生このままの覚悟もしなければいけないかもしれない…」
クローディアの言葉が、重く心に響いた。私は元の世界に戻らなくて済んでよかったけど、自分の身体を王子から取り戻せないのも腹立たしい。相手が王子ってのがなぁ…あの甘ちゃんに易々と私の身体をくれてやる気になれないのだ。
これがクローディアやセラフィーナならまだよかった。むしろアラサーの私の身体でごめんってって思っただろう。
でも、まぁ…お陰でアイザック様と別れずに済んでいると思えば、プラマイゼロなんだろうけど…
(自分の本当の身体と、別れる覚悟をしなきゃいけないなんて…)
そう思うと、これまでの自分の能天気さに苦々しい思いが込み上げてきた。
でも、誰が戻れないなんて事、想像出来た?この手の話は最後は元に戻って大団円、が王道じゃないの?そんな風に思っていたから、あまり悲観的に考えていなかったのだ。
魔道具でこうなったなら、魔道具を使えば戻れると思っていたし、それはクローディアやセラフィーナも一緒だっただろう。まさか壊れても変化なしだったとは…
(それに…)
心配なのはセラフィーナの事だった。元に戻りたいと一貫していただけに、戻れないと分かったらどれほどショックを受ける事か…クローディアも凄く気にしていたけれど、クローディアだって被害者なのだ。彼女は今の立場も悪くないと思っているみたいだけど…それでも家族や友達もいるし、思うところはあるだろうに…
四人の中では私が一番年長なのに、何も出来ない事が歯がゆかった。




