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お茶会に呼ばれました

 春明祭から半月、私は念のために外に出ずに過ごしていた。

 さすがに一月もダラダラしていると、非常に居心地が悪く感じるようになってしまった。これが社畜根性ってやつ?シンシアさんに相談したところ、記憶だけでなくマナーや常識も忘れているなら、それを取り戻してはどうかと提案された。

 確かに…記憶がないんじゃなく別人だからね。貴族のマナーなんぞ知らないし、この世界の常識もわからない。これは暇をつぶすにもちょうどいいんじゃないか?と思った私はその提案を有難く受ける事にしたけど…


(なんて面倒くさいの…)


 マナーは想像以上に細かいルールが多くて、覚えるのが面倒だった。うん、これは若いうちに覚えるべきね。アラサーの脳みそにはちょっと荷が重いわ…

それでも、何もしないよりはずっとマシだと感じる私は…未だに社畜根性が抜けていなかった。そしてそんな自分に苦笑するしかなかった。




 そんなこんなでマナーと教養の勉強に励んでいた私だったが、一月ほど経った頃、侯爵家の令嬢が催す茶会に呼ばれてしまった。子爵家に何で侯爵家が?と思ったら、相手は我が家の主家だったのだ。こうなると…断るのも難しいらしい。それはシンシアさんの表情からもみて取れた。それでも…


「不安なら体調不良を理由に断ってもいいのよ」


 そう言ってくれたけど…子供同士の集まりとは言え、主家の誘いを断るのはマズいんじゃないだろうか?それにずっと引き籠っているわけにもいかないのよね。記憶がなくなったのは周りに知れていると言うし、多少の事は見逃してくれるんじゃないだろうか…

 ただ、気になるのは私のマナーのレベルだ。先生方は頭をぶつけて記憶を失った事にいたく同情して下さって何も言わないけど…マナーがなっていないのなら行くのはマズいかもしれないし…


「行くのは構いませんが…私のマナーは大丈夫でしょうか?」

「そこは問題ないと思うわ。先生方からも及第点は頂いているし」

「それなら…行ってみようかと思います」

「でも…」

「茶会は十日後ですし、マナーもそれまでに特訓して頂ければなんとかなりそうですし…」


 私がそういうと、シンシアさんは不安そうな表情を浮かべながらもほっとしているのが伝わってきた。やっぱり断るのは難しい案件だったのね。だったら仕方ない、行ってやろうじゃないの!

 そんな訳で、私はマナーの先生に事情を話し、お茶会のマナーを徹底的に仕込んでもらった。主家が主催するが、集まるのは下位貴族の令嬢だからそこまで気負わなくてもいいらしいと聞き、私は腹をくくった。いつかは外に出なきゃいけないのだから。




 お茶会のため、私は新しくドレスを作って貰った。快気祝いだからと言われて最初は断るつもりだったけれど…セラフィーナが持っているドレスを見て、前言撤回せざるを得なかった。彼女が持っているドレスはレースやリボンが過剰で、私の趣味ではなかったからだ。こんな子供っぽいドレスを着るなんて、それ何の罰ゲーム?状態でしかない。

 作って貰ったドレスは、暗めの灰水色の落ち着いた色合いの生地にした。形もシンプルにと思ったけれど、私の望んだものは既婚者向けだからと却下され、一般的なプリンセスラインになった。それでもスカートの広がりは出来るだけ抑えて貰って、装飾も濃い青のリボンを数ヵ所付けただけに留めた。

 本人が派手なんだから衣装は抑え気味の方がいいと思ったのだ。だって、ピンクや水色のパステルカラーのオンパレードなんて、余計に悪目立ちしそうじゃない?


「セラフィーナ様…ドレス、凄くお似合いです…」


 散々私らしくないと言っていたエレンだったけれど、ドレスを身に着けた私を見たら急に評価を反転してきた。うん、自分でも思った以上に似合っていると思うわ。元がパステルカラーで顔もいいんだから、服は控えめにした方が品が出るってもんよ。髪も服に合わせて結い上げ、シンプルにまとめた。ふっふっふ…若くて可愛いっていいわねぇ…何着ても似合うから。


 向かう先は主家のレイトン侯爵家だ。レイトン侯爵家は我がハットン子爵家の主筋に当たるが、父のクリフォードさんは侯爵様の片腕として王宮でお勤めしているという。

 王都に住む侯爵に代わって領地を治めるのが子爵家の仕事らしいけど、クリフォードさんは優秀だからと侯爵家が自身の補佐官として抜擢したんだとか。その為、ハットン子爵家の領地はクリフォードさんの弟さんが代わりに治め、いずれは異母兄に引き継ぐらしい。


 やって来たレイトン侯爵家の屋敷は…まさにお城だった。うん、ヨーロッパのお屋敷って感じよね。我が家もそんな感じだけど…規模や豪華さはその比じゃない。レイトン侯爵家は随分裕福らしい。今日は天気がいいからガーデンパーティー形式だと言われて、私は侍女に庭に案内された。

 既に会場には数人の令嬢が集まっていたが、私の姿を見つけると何だか驚きの表情を浮かべていた。う~ん、この反応はどう受け止めればいいのかしら?やっぱりドレスが今までのレースとリボンの塊じゃないから驚いているのかしら?


 そしてやっぱり誰一人として見覚えがない。小説じゃなくゲームだったら見た目で相手が誰かわかるんだけどなぁ…文字しかない小説では、髪の色とか言われてもその人と判断できないのよね…今日は付き添いとして来てくれたエレンが、小声で色々教えてくれたけど…ごめん、さっぱりわからなかった…


 まずはこの茶会の主催者でもあるレイトン侯爵家のご令嬢に挨拶に向かった。やっぱり招待者には礼儀を尽くさないとね。挨拶の仕方もしっかり習ったし、先生曰く、以前よりもずっとよくなっているから自信を持って!と言われた。後は胸を張って背筋を伸ばしなさいと言われたので、その通りにするだけ。なんだけど…


 その肝心のご令嬢の方に向かったら、令嬢を囲んでいる他の令嬢たちがニヤニヤした嫌な笑みを浮かべて私を見ていた。う~ん、これはあんまりいい予感がしないわね。エレンとシンシアさんの事前情報で参加する令嬢の髪色と目の色などの特徴は聞いているけど、彼女たちは正に取り巻きの三人だろう。エレンの話では私にいい感情を持っていないと聞いている、今回の茶会の要注意人物だ。


「まぁ、セラフィーナ様ではありませんか」

「今日は随分と地味でいらっしゃるのですね」

「それに…お一人でいらっしゃるなんて…どういった風の吹き回しかしら?」


 蔑むような視線に、私は悪い方の予感が当たったのを感じた。



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