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目覚めたらピンク頭の屑ヒロインだった件~罰は醜怪騎士団長との婚約だそうです  作者: 灰銀猫


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真実を話し、婚約解消を願い出る

 王子の慟哭にも似た叫びに、私達は暫くの間何も言えずにいた。そして、強制的に戻る事も憚られてしまった。さすがに王子が自死しそうに見えたし、そうでなくても精神的に死んでしまいそうに見えたからだ。そしてその予感が、外れそうにない事も。


 しかし、こっちにだって事情がある。その身体は私のだし、勝手に結婚とかされても困る。それに…年下とは言え男子が私の身体の中に…と思うと…何とも言いようもない気分になるのは仕方ないだろう。これが女の子相手だったら…少しは違ったのかもしれないけど…この戸惑いに折り合いを付けるのは…簡単には出来そうもなかった。


 その後も話し合いを続けたけれど、王子は戻りたくないの一点張りで動かない事山の如しだし、私としては身体を返して欲しいしで、折り合いなどつくはずもなかった。

 結局少し時間を置いてまた話をしようと言う事になり、今日はお開きとなった。王子には悪いようにはしないから逃げない事、逃げたら強制的に元に戻ると告げ、王子も逃げないと約束してくれたため、そのまま赤晶騎士団に帰した。


「「「………」」」


 王子が去った後も、私達は一言も発せずにその場に佇んでいた。私も思うところが多々あったし、他の二人も同じだっただろう。単純に戻る事を考えていたけれど…王子がああも思いつめていたのも意外だったし、クローディアですらも想定外だったのは明らかだった。クローディアが公務に行く時間になったので、それに合わせて私も帰る事にした。




「どうしろって言うのよ…」


 その日の夜。一人で空を見上げていた私は、思わず自分の口から漏れた言葉にため息をついた。独り言なんて…と思いつつも、誰かに今の気持ちを聞いて貰いたかったのだ。

 でも、そんな相手がいない事に気が付いた。話が出来るのはクローディアかセラフィーナだけど…あの二人に聞かせる話ではなかった。さすがに未婚の二人に、子どもが出来たらどうすんのよ―!人の身体勝手に触るんじゃねー!なんて愚痴が言える筈もない。


 自分の身体を取り戻したい。他人に好きなようにさせたくない。そう思う一方で、自分も同じ事をしている罪悪感があった。セラフィーナも私を見て同じように感じているのだろうか…そう思うと…早くアイザック様との婚約破棄を…との思いに急かされた。

 全く、世の中そう上手くいくわけがないのだ…若くて美人な子になれたと喜んでいたけど、実際はこんなもんだ。やっぱり小説は小説でしかなく、それが現実になれば一気に世知辛くなるのだ。




 そんな私の元に、アイザック様からの手紙が来たのは、四人で話し合いをした翌日だった。三日後には時間が取れるから、もしよければローウェル侯爵家に来て欲しいとの事だった。

 直ぐにクローディア達に連絡を取って予定を聞くと、特に問題ないという。それなら三人で訪問してもいいだろうかと返事をすると、アイザック様は楽しみに待っていると返してきた。突然の三人での訪問に気を悪くされたわけではないようでホッとした。

 一方で…その時に話す内容を思うと…胸がじくりと痛むのを感じた。




 約束した三日後。私はクローディアやセラフィーナと一緒にアイザック様の屋敷に向かった。もしかしたらお会いするのもこれで最後かもしれない…そう思うと泣きたい気分になったけれど、これ以上あの優しい人を騙し続けるのも辛いし、仮に元に戻らない選択をしても…打ち明けるべきだと思ったのだ。

 それにセラフィーナの事も心配だった。彼女もきっと気を揉んでいるのだろうから…

 二人にその気持ちを話すと、戻らない可能性があるなら言わなくてもいいのではないか?と言われた。突拍子もない話をして、二人の仲をわざわざかき回す必要はないのではないか、と。

 確かにその通りかもしれない。でも、一緒にいるなら尚更話すべきだと思ったのだ。今更ではあるけれど、アイザック様には誠実でいたかった。




「お久しぶりです、アイザック様」

「よく来たな、セラフィ、待っていた」


 侯爵邸でアイザック様は、以前と変わらない優しさで私達を迎えてくれた。今日は仕事がないが、騎士であるアイザック様は普段着も騎士服のような装いだった。それも逞しい身体にはぴったりで、一層イケメン度を上げているのは間違いなかった。

 私達が二人と時々会っている事を喜んでくれて、セラフィと仲良くしてくれて有難いとまで言ってくれたのだ。正に年上の理想的な恋人そのものだ。


(やっぱり、かっこいいよねぇ…)


 好みのワイルド系イケメンにため息が漏れそうだった。うん、ずっと眺めていても飽きない自信がある。見た目の怖さと傷のせいで誤解されているだけで、こんなに懐が大きくて出来た人はいないんじゃないだろうか。

 もう十年若かったら、聖那の身体の事も投げ出してこの人の側にと思っただろう。さすがにこの年になるとそこまで思いきれないのだけど。やっぱり何も言わずにこのまま…と思う自分がいた。




「それで、今日は一体どうした?」


 応接室に通された私達は、テーブルを囲うように席に案内された。アイザック様の両隣には私とクローディアが、その正面にはセラフィーナが座った。お茶とお茶菓子を置いた侍女が下がった後、アイザック様が尋ねてこられた。うう、とうとうこの時が…と私は、込み上げる思いを宥めるように、まずはお茶を一口頂いた。うん、今日も相変わらず美味しい。


「はい。その…今日は、婚約の事でお話が…」

「ああ、その事か。それなら私からも話しておきたい事があったのだ」

「え?」


 まさかアイザック様にもこの婚約の事で話があがったなんて…何だろう…もしかしてアイザック様もこの婚約を不服に思われていた…とか?そうだったら悲し過ぎる…


「えっと…何か…」

「ああ。婚約期間を縮めて、結婚式を早めたいと思ってね」

「え?」

「どこにもやるつもりはないよ、セラフィ。いや、あなたの本当の名は…セイナと言うのだったかな?」

「…っ」


 笑みを浮かべたアイザック様が、知らない人に見えた。



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