スパダリですか?そうですか…
無事、婚約した私とローウェル様。この先どうなるのかと心配していた私だったけれど、滑り出しは概ね順調だった。むしろ順調すぎて不安になるのは…長かった社畜生活の影響だろうか…
でも、上手くいっている時に限って最後に落とし穴が…な展開は何度も経験しているんだよねぇ…最後の落とし穴って…例えばご本人登場!とかだろうか…
そう言えば、何のきっかけでこうなったのかわからないんだから、何らかのきっかけで元に戻る可能性も…ないとは言い切れないんだよね…そうなった時、勝手に婚約した事、セラフィーナは何と思うかしら?セラフィーナも他の令嬢と同じく、怖いから嫌だって言うかもしれないんだよね…そう思うと、不安が急速に膨らんでいくのを感じた。
いや、今の私がどうなっているのかわからないし、そもそも「元の私」は事故で死んだんじゃないかと思うんだけど…
若い頃ならともかくアラサーにもなると、まぁいっか、で片付けられなくなるんだよねぇ…願わくばこの身体に死ぬまでいられますように…と祈るしかない。
婚約してからは、ローウェル様は頻繁に我が家に足を運ばれるようになった。お忙しくないのだろうか…と心配になったけれど、団長など名誉職のようなものだから書類決裁などがあるくらいで、そんなに忙しいわけではないらしい。
それでも、陛下や国政を担う重鎮たち、他の騎士団のトップとの会議なんかによく駆り出されるらしいが。ただの騎士団長かと思っていたら、宰相府のメンバーにも名を連ねているらしく、私が思っている以上に偉い人だった。それを知った時には、改めて私でいいのかと不安になったのは言うまでもない。
凄く忙しい筈なのに、ローウェル様は訪ねてくる時は必ず、何かしらのプレゼントを持ってきた。花束から始まって、小さなアクセサリーや珍しい菓子、お茶葉、羽ペンなどだ。どれも絶対にいい値段するよね、って思うものばかりで、貰い慣れていない身としては恐縮するばかりだ…嬉しいけどね!
「あの、贈り物はもう十分ですから…」
「そんな事はないだろう?これでも控えているくらいだが?」
「ええ?」
いや、毎回毎回持ってこなくてもいいんだけど…元彼なんて年に一度の誕生日だって怪しかったんだけど…そうは思うのだけどローウェル様は、毎日プレゼントを贈る者もいるし、訪問時に手ぶらの方がマナー違反だと言われてしまえば、それ以上は強く言えなかった。手土産なら花かお菓子で十分だと言ったら、選ぶのも楽しみの一つだからと言われて、私は言葉に詰まった。なにその男前な発言は…!醜怪侯爵様はスパダリだった!
「婚約披露パーティー、ですか?」
「ああ、陛下にも裁可を頂いたからな」
婚約した貴族にとって、披露パーティーは重要なイベントの一つだ。一般的に婚姻は家同士の結びつきが重要視されるので、両家が手を結んだ事を大々的に知らしめるためにも、結婚式よりも盛大に行う事も珍しくない。
ローウェル様と婚約したのだからいずれは…と思っていたけれど、パーティーは来月を予定していると言われて私は面食らった。
えっと…来月と言っても二十日あるかないか、だよね。ドレスとか準備しなきゃいけないんだけど、今から頼んで間に合うのだろうか…
「ドレス類の心配なら無用だ。全て私から贈ろう」
「ええ?でも…」
「婚約者にドレスを贈るのは婚約者の特権だから気にしないでくれ。それで、何か希望はあるか?」
「き、希望だなんて…贈って頂けるだけでも十分嬉しいです」
うっわ~滅茶苦茶男前だよ、この人。ドレスなんてかなりの値が張るのに、それをさらっと贈れちゃうなんて。いやもう、特にリクエストなんかありません!贈って貰えるだけでも十分です。第一、この婚約、子爵家にメリットはあり過ぎだけど、侯爵家にはそれほどだよね?そんな状態でこんな高価な物、貰っちゃっていいの?そう思ったけれど、贈るのはローウェル様の中では決定事項だった。
(…あ、でも待てよ、一つだけ希望があった!)
「あ、あの…一つだけ、よろしいでしょうか?」
「ああ、何でも言ってくれ。私はこの手の事は得意ではないし、察しがいい方でもないから、言葉にしてくれた方がずっと有難い」
うわぁ…自分の不足な点を理解していて、さりげなくフォローしてくるよ。きっと仕事も出来るんだろうなぁ…じゃなくて。
「あの、出来ればあまり子どもっぽいものは避けて頂けると…」
「子どもっぽい?」
「ええ、レースやフリルが以前の私は好きだったみたいなのですが、今の私はあまり…」
「なるほど。了解した。では、デザイナーにはそのように伝えておこう。近日中にはデザイナーを手配する。他に希望が出てきたら彼女に言って貰えると助かる」
「ありがとうございます」
うわ、侯爵家お抱えのデザイナーまで派遣してくれるの?きっと子爵家には到底手が届かない様なお店なんだろうなぁ…と思っていた私だったが、やって来たデザイナーは何と、王室お抱えのデザイナーだった。私だけでなく、シンシアさんやエレンが腰抜かすほど驚いたのは言うまでもない。
だって、高位貴族だって簡単には頼めないって噂の店なんだよ?国王陛下の力なのか、そうなのか?絶対に陛下が絡んでるよね、これ…私の脳裏には、嬉々として結婚準備を進める陛下の姿が浮かんだ…
「凄い…」
「これが…」
「王室お抱えの実力…」
パーティーの三日前、我が家に届いたドレスを前にして、私やシンシアさん、侍女たちは感嘆の声を漏らしていた。届いたドレスはこれまでに見たどんなドレスよりも素晴らしかったのだ。そう、先日レイトン侯爵から頂いた物など目じゃなかった。
つーか、これいくらするのよ?いいの、こんな高そうな物頂いちゃっても?後で返せって言われても、子爵家じゃ絶対に返せない金額な気がするんだけど…この時、私の頭には喜びよりも不安の方が勝っていたと思う。
でも仕方ないじゃない!つい最近まで薄給アラサーだったんだよ?三十年近く培ってきた貧乏性、そう簡単には消えそうにないのよ~
更には翌日、ドレスに合せたアクセサリーが宝飾店から届いた。こちらも私の一生分の稼ぎをはたいても絶対に手に出来ないレベルだった。子爵家だって手を出せないレベルだろう。正直言って、こんなに立派過ぎるものを身に着けては、私の方が霞んでしまいそうだった。




