表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて世はこともなし 起の章  作者: きじなご
20/20

天邪鬼の件 第弐拾話

「あっ!」


 サグメの横でキコと折り紙をしていたカガリが、突然声を出した。


「なんだよ」


「アシヤさんから伝言があったの忘れてました‼」


「おいおい……そっちの方が重要そうじゃないのか?」


「いや、それがあんまりよくわかんないんですよ。(ネギラ)ってるのか(ケナ)してるのか」


「……あまり聞きたくないな」


 嫌そうな顔をするサグメに向けて、カガリは棒読みで預かった言伝(コトヅテ)を読み上げる。


「『鏡の件は問題ない。まずは体調を元に戻すのが最優先だ。退院したらまた話そう』」


「……」


 考え込むサグメの頭に、ヌラが軽く拳骨(ゲンコツ)を当てた。


(ワシ)のおかげで命拾いしたんだぞ。一生かけてでも恩を返せよ!」


「……じいさん」


「あ?」


「……その……悪かったよ」


「お?今日は妙に殊勝(シュショウ)だな。呪いと一緒に悪いもんも流れたかな?」


 がっはっはと笑うヌラの横で、サグメが不機嫌な顔でそっぽを向く。

 そちらにはカガリの満悦そうな顔があり、サグメは顔を少し赤くしながら歯ぎしりした。


「……あ、あと最後に」


「まだなんかあるのかよ」


「こっちはカスミさんのメモですね。えっと――」


 カガリがごそごそとポケットを探り、紙を取り出す。

 それを見たカガリは怪訝そうな表情をしながら、それを読み上げた。

 

「――『戸締りには気を付けて』」


 ***


 夜の病院は騒がしい。

 夜行性の妖が多いため、昼間に眠っていた者が目を覚まし談笑している。

 個室になっている病室は妖の病院にはないため、プライバシーも何もあったものではない。

 だが、それは今のサグメにとって好都合だった。

 誰かがいれば、向こうも手を出すことはないだろうと、カスミたちも踏んでいるのだろう。

 ――わからない。

 向こうがこうも簡単に俺と手を切るとは考えられない。

 俺の命はもう何度も刈られているてもおかしくはないのに、あいつはそれをしない。


「……俺なんかにそんな価値はないのに」


 つぶやき、目を閉じる。

 キコたちの顔が浮かぶ。

 俺をそんな目で見ないでくれ。

 俺はお前が思ってるような()()()じゃない。

 あのクソ野郎の子供が、いい奴なわけがない。

 ……だが、弟は別だ。

 あいつは鬼らしくない鬼だった。

 虫も殺せない、優しくて繊細な俺のたった一人の弟。

 それを奪ったのは――。


「だーれだ」


 耳元で声がする。


「……!」


 体が動かない。

 指先一つ動かせない。

 他の奴らは?

 静かすぎる。

 ここに俺とあいつしかいないかのように。

 ――あの時と、同じだ。


「あ、ごめん、このままじゃ喋れないよね」


 あいつがそういうと、首から上だけが動かせるようになった。

 目を開ける。

 暗い。電気がついていない。

 だが俺の横に立っている醜悪な妖気だけは伝わってくる。


「お前……」


「や、久しぶり」


 あいつは軽く手を上げた。たぶん、笑っている。

 あいつが笑ってない顔なんて見たことがない。


「俺を、殺しに来たのか?」


「そんなことしないよ、こんなところで。それに僕は君の力を高く買ってるんだ。まだまだ君には働いてもらわなくちゃ困るんだよねぇ」


 言いながら、俺の首に下がっているペンダントを指でなぞる。

 吐き気と憎悪。耳鳴りがやまない。

 真っ黒な奴の顔を、全力で睨み上げる。


「これ以上、俺に、何しろってんだ……!」


「そんな顔しないでよ。君があんなに嫌そうに仕事してたのは、弟くんに会いたかったからだろう?」


「黙れ……!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 首はごろりと転がり、月夜に照らされる。

 血は出ない。体はそのまま立ち尽くしている。

 照らされた首は、やはり笑っていた。


「そうそう、その『嘘を本当にする力』。それがないと僕たちの計画は成功しないんだよ。賢い君ならわかるだろう?」


 刹那。

 体は鬼の体を蹴り飛ばし、ベッドに突っ伏した鬼に馬乗りになって拘束した。

 関節を固められ、現世に逃げることもかなわない。

 そう。

 ここは常世。

 こいつが作り出した()()()()()()()

 黒い煙が首と体をつないだ途端、糸を引くように首が浮き、体と繋がった。


「君が僕には逆らえないってことも、さ」


「クソ野郎が……」


 耳元で話しかけるおぞましい声に悪寒を感じずにはいられない。

 それすらも楽しむように、あいつは俺に馬乗りになったまま語りかけてくる。


「仲良くしようよ。弟くんも君に会いたがってたよ?」

 

「なに……?」


()()()必要なかったのは君のご両親だけだったからさ。弟くんは別のところにいる。今はね」


「貴様……‼」


 怒りで視界が真っ赤に染まる。

 そんな俺をあざ笑うように、固めている腕を強くする。

 痛みと怒りで頭がおかしくなりそうだ。


「大丈夫。君はいつも通り過ごしてくれればいい……その代わりと言ってはなんだけど、あの大学の人間たちの監視をしてくれないかい?きっと向こうも僕たちのことを知りたがってるだろうからさ。出す情報はこちらで選定するよ」


「……死んでもお断りだ……‼」


「……君に拒否権はないよ」


 言うと、あいつは俺の心臓めがけて静かに手を突っ込んだ。

 痛みはなく、ただ内臓を内側から撫でられる感覚があるだけだ。

 気味が悪い。気持ち悪い。


「やめろ……!」


「嘘をつくのは得意だろう?『()()()』」


 あいつが俺の名前を読んだ途端、心臓に冷たい感覚が走る。

 これが、あいつの呪い。

 生かすも殺すもアイツ次第。

 殺してほしくとも死ねない。

 生きたくても生きられない。

 あの女の呪いとは格が違う、永遠の監獄。


「はあっ……!はぁっ……!」


 あいつの手が離れたが、俺は動くことができなかった。

 汗と涙でぐしゃぐしゃの顔を満足げに眺めたのち、あいつは俺に背を向け歩き出した。


「アシヤイオリとカガリサツキ……遭える日が楽しみだよ」


 パーテーションの向こうにあいつが消えた瞬間。


 ざわざわ。ざわざわ。


 そこには数分前に見たものと変わらぬ風景があった。

 一反木綿が宙を漂い、鬼火が雲外鏡と今日のテレビについて話している。


「………………ごめんな、アザミ」


 嘘つきの鬼は涙を一つ(コボ)し、眠りに落ちた。


 天邪鬼の件 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ