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すべて世はこともなし 起の章  作者: きじなご
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天邪鬼の件 第拾弐話

「なん、だ、てめえ……!」


 男が頭についたゴミを振り払う。


「アシヤさん!」


「はは、悪いな。手が滑っちまった」


 へらへらと笑いながら手を振るアシヤ。

 だが男が反応したのはカガリの言葉の方だった。

 

「あ、アシヤだと……!?なんで財閥の人間がここに……」


「そっちのアシヤじゃない、僕ははみ出し者だ。金持ちなら有名人の顔ぐらいわかるだろ」


 アシヤはわざとらしく自分の顔を指さす。

 実際は意図的に今の今まで気配を消していたので、気づきようがないのだが。

 それを見て男ははっとして、すぐにアシヤを睨みつけた。


「お前……アシヤイオリ!何の真似だよ、表舞台から追い出されたから今度は善良な市民に暴力か?随分と落ちたもんだな!」


 アシヤは(ノノシ)る男に見向きもせず、地面に落ちたクマのぬいぐるみを拾い上げる。


「善良か……よく言うよ。ここを荒らしたのはお前だろう?」


「はん。そこは俺の敷地内だ、何をやろうが勝手だろう!」


「僕はお前の心配をしてやってんだよ。妖を舐めたら高くつく。なんでここの法律が人間優位なのかわかるか?」


「は……?そんなの、人間が現世にいるからに決まって……」


「違うな」


 はっきりと断言しアシヤはぼすっとカガリにぬいぐるみを押し付ける。

 そこでようやく、塵まみれの男を見下した。

 ゴミを見るような目で。


「そうでないと()()が合わないからだよ」


「な……」


「お前が何をしたのかは知らないし、どうでもいい。だが蔦に術をかけた時点で気づいたよ。蔦は妖が、ゴミは人がやったものだってな。おかげで屋敷自体はほとんど無事……かなりのやり手だ」


「何が言いたい……」


「忠告だ。もしこのゴミ山がお前のものなら、一刻も早く身を引いた方がいい。お前のわがままのツケ……果たしてどれだけつくか。俺の拳程度で釣り合うかな?」


 男の顔が再び真っ赤に染まる。

 

「てめえは俺の敷地内で俺に手を出した!俺より自分の心配をしたらどうだ?」


 唾を散らして怒鳴り散らすと男はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、操作し始めた。


「大学に連絡してやる……退学させて、二度と日の目を見れないようにしてやるからな……!」


 ぶつぶつとつぶやきながら端末をいじる男の手。

 その手首をがしっと掴む者がいた。顔を上げ、睨みつけようとする。


「なんだよ!止めても無駄……」

 

「まず一つ、お前は勘違いをしているようだな」

 

 そのしわがれた腕は、男の手首をじわじわと締め付ける。


「陸陽大学の連中はこいつらに手を出すことはできない。そして、勘違いはもう一つ――」


 手の力は確実に強まり、男は痛みで思わず端末を取り落とした。

 

「――この屋敷は、キコのものだ」


 ***


 お決まりの捨て台詞をぶつけて逃げていく男を見つめながら、ヌラは少女――キコに優しく話しかける。


「怪我はないかい?」


「……」

 

 こくりとうなずくキコ。

 その目はなぜか、少し悲しげだった。


「気に病むことはないさ。こいつらはどうも本気でお前を助けようとしていたようだからな」


「ヌラさん、この子は……?」


 その言葉を聞いて、ヌラはぽかんとする。


「知らねえのに助けようとしたのか?キコはこのあたりじゃ有名な座敷童だよ。儂が言うのもなんだが……変わり者の爺さんの屋敷に住んでいてな。妖にも人にも平等に接して、この街を一人で管理していた、人には恵まれなかったが、ここらの妖には好かれてたよ」


 ヌラは徐々に、懐かしむような目でキコを見る。

 大きく澄んだ瞳は、そんなヌラをじっと見つめている。


「あの男は爺さんの息子だ。遺書にはキコに屋敷を譲ると書いてあったが、連中は法律を盾にしてキコを奪った。咄嗟に儂ら総出で屋敷を守ったが、キコは守れなかった……ここまで来られたのは初めてだろ?」


 もじもじとうつむくキコ。

 よく見ると着物は汚れ、指先には泥や傷がついていた。


「……にしてもよくここまで片したもんだ!二人じゃ流石に無理だろうとは思っていたが……あの蔦もかけるの大変だったんだがな」


「……知ってたんですね、僕たちのこと」


「ん?そりゃそうさ!爺さんがよくカスミのことを話していたよ。お前のこともな!見かけによらず腕っぷしはあるんだなぁ」


「……あんの狸……」


 がっはっはと笑うヌラを前に、顔をしわしわにするアシヤ。それを見て、カガリははっとする。


「そ、そうだ、大学が『手を出せない』ってどういう……」


「狸……カスミさんの力だよ。あの人はいろんな所でいろんな妖や人を助けてる。だから、僕みたいなはみ出し者も大学に残れてるってことだ」


「じゃあ、あの時電話したとしても?」


「あんなの脅しにもならんよ。それに、今回に始まったことじゃない。事務の奴らに軽くいなされるのがオチだ」


「今まで何やってたんですか……」


「入って早々僕をぶん殴った奴がよく言うよ」


「あ、そうだった……えへへ」


 ヌラはカガリの肩をばしっと力強く叩く。


「まあ、()()()()()()()は心配すんな!キコの分の礼もある。鏡はちゃんと直してやるよ」


「本当ですか⁉」


 その言葉を聞いて、ようやく安心したようにカガリは顔をほころばせる。


「よかった~‼キコちゃんも無事で!あの時アシヤさんが手を出してくれなかったら私がやってたかも……!」


 ぬいぐるみごとキコを抱きしめるカガリ。キコはうぅ、と苦しげにうめいたが、その表情はどことなく嬉しそうだった。

 

「アシヤさん、ありがとうございます!」


 満面の笑みで感謝を述べるカガリに対しふい、と顔を背けるアシヤ。

 眉をひそめ、明らかに嫌そうな表情で、ぼそりとつぶやく。

 

「……僕はお前のことを勘違いしていたようだな」


「え?」


 アシヤはカガリを横目でちら、と見て、そのまま背を向けて歩き出す。

 不思議そうに見つめるカガリの存在から、目を背けるように。

 

「――脳筋は脳筋でも、愚直脳筋だ」


「ひどい!私頑張ったんですよ~‼」


「寄るな脳筋がうつる!」


 またしても言い合う二人を、よくわからないが嬉しそうに見ているキコ。

 その光景を見て、ヌラはまぶしそうに目を細め、一人呟く。


「――こいつらならなんとかできるかもしれないぞ、サグメ」

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