表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可笑しな可笑しな出来事  作者: yukko
転生した世界は……日本
7/64

お歯黒

妻になった ゆき。

私は少し体が動くようになってから祝言の日までに「この時代の家事」を覚えないと…と思ったのです。


⦅電気もガスもない…。

 ご飯………どうやって炊くんやろ?!

 かまど

 火を起こすのは何で?

 あぁ――― 分からへんやん。

 誰かに教えて貰わなアカン。⦆


教えてもらいつつ祝言の日までに身体もしっかり動くようにしようと思ったが、この時代の家事労働は大変で…。

家事をするうちに身体もしっかり動くことが出来るようになったのです。

ゆきの母親は6人子どもを産んで成人できたのは、「ゆき」一人だったのです。

一番最後に産まれた娘だけが生き残ったので、ゆきの父親も母親も溺愛して育てたのです。

溺愛されていたゆきは、「我儘な娘」に成長していたのですが…

あの高熱からの生還の後のゆきは全くの別人のように「ありがとう」を言うことが出来、優しい笑顔を誰に対しても見せるようになったとの評判に変わっていました。

ゆきが変わったことで祝言の時も「っつい花嫁御寮やして!」「ほんに 可愛かいらしことでございますのし。」と、その姿を見た人たちは口を揃えたのです。

きっと以前のままであれば違った言葉を陰で言われていたのであろうと言う人も居たのです。


祝言の後、私は初めてお歯黒を塗りました。

このころの日本の地方では、まだ江戸時代にしていたお歯黒を既婚女性はしていました。

東京や大阪、名古屋などではお歯黒は消えた文化だったのかもしれません。


鏡でお歯黒を付けた顔を見て、「っさん になったんやなぁ………。」と思いながら、自分の顔を見ている私に母親は言いました。


「これでわたえが教えることはうなった…なぁ…。」

「おさん……

 まだまだ、これからも教えていただかして!」

「教えることうなったと思いますよし……。」

「いいえ、おさん

 まだまだ、ありますよし。」

「…ゆきは… ほんまに… 優しいこおやして……。」


そう言って涙ぐんだ母親を見て、私は「ゆきさんは、うちとちゃうんやな… 両親に愛されてる。羨ましいな…。」と思ったのです。


祝言の後、ゆき の父親は宗次郎に家督を相続し隠居しました。

杉本本家の戸主に宗次郎がなりました。



そんな穏やかな日は母親が病床に伏すまで続きました。

ゆきの花嫁衣裳を見て安堵したのか………

床に臥す日が増えて、起き上がれなくなりました。

ゆきの妊娠を伝えた時、初めての孫の誕生を心待ちにして……


「ゆき……

 お産の時は辛いけどの……

 無事に生まれてきてくれたらな……

 どんな痛かったか……忘れてしまうんやして……

 それくらい、ゆきは可愛かいらしこお……

 ……ゆき…ありがとう……」

「おさん

 そんなこと言わんといて頂かして。

 生まれてきたこおを抱いて頂かして……。」

「そうでございますのし。

 お義母さんに、ゆきの傍に居て頂かんと

 ゆきが困りますよし。」

「儂も困るからな……。」


そんな会話をした後の初夏の雨上がりの日でした。

母親は家族や一族郎党に看取られて静かにその生涯を閉じたのです。

子どもを何人も産んで…たった一人 ゆき だけしか成人できなかった母親。

母として辛い人生だったのではないかと見送りながら私は思ったのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ