不敵なイケメンVS不適な委員長
ここは茶道教室。
茶道といえば、和室。
和室といえば、正座。
あたし達は今、全員正座です。
正座でメンバーが揃うのを待っています。
なぜかというと……。
「高橋!お前なにしてるんだ!また授業中になんか食べたな!初日からお前たちは……。」
千葉ちゃんに怒られた。ていうか、お前たちって……。
しかも、女子も男子も足りないらしい。
教室のどこを見ても、男子は3人しかいない。
女子はイッキが来ていない。
「初日から揃わないなんて……。」
がっくり。
千葉ちゃん、困ってます。
「もう、全員正座して待ってろ。揃ったら呼びに来い。いいな、木村。」
「えぇ!あたし??」
「もうお前、代表決定。このクラスの委員長だ。お前が一番安全だ。」
と、いう事でみんな正座です。
本当は先生いないから誤魔化したいんだけど……。
リーゼントが。
すっごく良い姿勢で正座してるんだもん。
「はぁ……。」
足は痛いし、ため息がでちゃう。
「うん??」
横に座ったマナがあたしをつついていた。
「なに?」
「あれ。あのこかわいくない??」
テーブルの下で左の方を指差す。
「あっ。かわいい。なんか、目が超かわいい」
マナが指差した先には、なんともかわいい男の子。
さっきのリーゼントと、同じ人間には思えない。
色白で、目が大きくて……。
いいわぁ目の保養。癒される~。
じゃあもう一人は……。
視線を横にずらす。
「!!」
部屋の隅になにか悪い空気が……どんより。
不機嫌なのか、口を尖らせている。
立派なお腹、ちょいメタボ。
黒縁の、決しておしゃれではないメガネ。
ナイ。
ナイ、ナイ。
ナシだよ~。
思わず首を振る。
「あぁ~もう疲れちゃった。せっかくだから、お茶しましょうよ。あたし何か探してくるね~。」
疲れちゃったって……。ウララはちゃんと正座してなかったじゃん。
「ちょ、ちょっと!ウララ~!」
「じゃあ、あたしも手伝う~。ゆいちゃ~ん。じゃなかった委員長よろしく~。」
マナ!
ウララだけじゃなくてマナまで。
笑顔で手を振り、教室を出て行った。
逃げられた……。
残された女子は、あたしとペコ。
「どうする?」
「だ~いじょうぶ。委員長サン。ほら。」
そう言ってペコはポケットから、どこに入っていたんだ!ってぐらいのお菓子を取り出した。
「そういう事じゃないんだけど…。」
はぁ。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
「遅れましたー」
ドアを開ける音と共に、ダルそうな声が聞こえた。
男子の声だ。
お願いです。今度こそしゃべりやすそうな……できればカッコイイ人を……。
なんて、密かに神様にお願いしながらゆっくり振り返る……。
「あぁ!!」
大当たり!!
超イケメン!
と、もう一人……。
「あれ、お前。木村じゃねー?」
見覚えがある、あいつは……。
「しばた!柴田 湊!」
あたしが、フルネームで呼んだ男子。
彼は……幼馴染というか、ただのご近所さん。
小、中と一緒の学校だった。
男子部にいるのは知っていたけど、こんな所で会うなんて!
久しぶり過ぎて、超迷惑なんですけど。
「お待たせ~」
「持ってきたよ~」
タイミングを計っていたかのように、ウララとマナも戻ってきた。
これで全員……?
じゃなかった。イッキがいないんだった。
とりあえず、揃ったメンバー。
久しぶりの幼なじみの出現に、あたしは内心穏やかではない。
「どうぞ」
ウララとマナは手際よく、みんなにコーヒーを配った。
ポットに、紙コップ。インスタントコーヒーに砂糖。
いずれもどうやって調達できたのだろう?
マナに聞いても、ウララマジックとしか教えてもらえなかった。
やっぱり、謎の女。
「あのぉ……。あたし、先生呼びに行こうか?」
あたしは、沈黙のなか切り出した。
でも、コーヒー飲んでくつろいでいる所に先生呼んでいいのか……疑問。
「千葉ちゃん授業いってるんじゃないの?」
困った顔のあたしに、マナはあっさりそう言った。
「でも……。」
「ほっといていいんじゃない?それに、あたし達は自由登校なんだから。勉強するわけじゃないし。それより委員長、自己紹介でもしたら?」
コーヒーを飲みながら、どこか遠くを見るようにウララは言った。
話は聞いているけど、心ここにあらず……みたいな。
横顔を見ていると、千葉ちゃんなんかより大人に思えてしまう。
「じゃあ……。」
男子からお願いしようかなぁって思ってたら……。
「木村。お前からしろよ。」
「えぇ!?」
いきなり柴田が口を挟んできた。
ちょ、ちょっと待ってよ!
「じゃあ。委員長サンからに決定。よ~ろし~く~。」
異議を唱える間もなく、なんて憎らしい声が聞こえた。
柴田じゃない、イケメンだ!
せっかくイイ顔してるのに、なんて意地の悪そうな声。
……がっかりだよ!
初対面の人に、文句を言えるはずもなくあたしは自己紹介を始めた。
「えっと……。木村ゆいです。……女子の代表らしいです、一応。……よろしくおねがいします。」
ぺこっと頭を下げて終わりにした。
「つまんね~」
何!?またイケメン!
イイのは顔だけかよ!
パチパチと寂しい拍手が空しく響く。
……リーゼントだリーゼント君が拍手している。
なんて、ジェントルマン。
リーゼント君、きみはほんとに律儀だなぁ。
「じゃあ。次は男子ね。男女で交代にしましょ。はい、柴田よろしく!」
仕返しじゃあ!!
「俺?いいよ。俺、柴田 湊。小学校と中学校で、木村と一緒でした。ほとんど同じクラスにはならなかったので、そんなに仲良くないです。おわり」
そ、そんなに仲良くないだとー!
それは、こっちの台詞だよ!!
恨めしそうに柴田を見ていたら、次はマナが手を挙げた
「は~い。次はあたしね。えっと、名前は吉井真奈です。マナって呼ばれてるんで、みんなもそう呼んでね」
今日は、男子がいるのでマナの声は高め。
イケメンもいるからしょうがない……か。
で、次はイケメンの番。
「俺は、佐伯リョウ。先生に借りがあるんで、しょうがなくここに来ました。そんなに暇じゃないんで、早く終わらせて帰りて~って思ってます」
動くたびに揺れる、サラサラとした前髪。
くやしいけれで、やっぱカッコイイ。
ちらりとマナの方を見ると、目がハート。
……趣味悪いなぁ。絶対、性格悪いよ!
しょうがなくとか、早く終わらせてとか言っちゃって!!
イケメンはそんなに忙しい職業なのか??
「あたしは浦沢久美子。ウララって呼んでね。あたしも結構忙しいんだけど、おもしろそうだからここに来てます。思っている事を、すぐに言っちゃうような子供じゃないのでよろしくね。」
ウララはとびきりのスマイルで、イケメンの方を見た。
子供って、イケメンの事?
ウララって、本当に怖いものないんだなぁ。
「はい!」
真っ直ぐと腕を伸ばして、リーゼントが手を挙げた。
「初めまして。後藤英二です。えっと、家は両親が厳しいのでこんな髪型をしてます。これから、よろしくお願いしまっス。」
そう言うと、丁寧に深く頭を下げた。
やっぱ丁寧。でも、怖い……あの顔、あの髪型。
赤面で気付かなかったけど、良く見ると怖い。
鋭い一重の目にやりすぎな細い眉毛、縦長い顔……細いあご。
テレビに出てくる、昔のヤンキーみたい。
でも……。
ウケる!
両親が厳しくて、この髪型って!
両親の厳しさ間違ってナイ??
ヤンキーの英才教育でもしてるのかな?
あぁ、両親の顔が見たい!!
「は~い。高橋琴音です。琴の音って書いて、ことねです。両親が厳しいので、4次元ポケットを持っていま~す。いつでもお菓子が入っているので欲しい人は言ってね。あ、ペコって呼んでね。」
ペコの自己紹介……。
リーゼント君は色んな意味で、顔を真っ赤にしていた。
その後のメンツは本当に、やる気がなくて。
カワイイ男子は「中野智史です。」って今にも消えそうな声で名前を言っただけだった。
小太りのメガネ君なんて……。
「山崎かずと…。漢字で一人って書くけど……ひとりって言わないで……。」
なんて、やっぱり負のオーラ全開だった。
自己紹介が終わると、会話らしい会話はなかった。
もっと楽しくなると思っていたのに、現実は……。
アニメのようにはいきません。
「そういえば……。男子に代表いないから、そこの委員長サン。あんた、全員の代表ね。」
沈黙を破ったのはイケメンだった。
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
女子の代表ってだけでも重荷なのに……全員の代表だなんて……無理!
「いいじゃん。あんた、女子の代表だって押し付けられてやってるんでしょ?」
「それは……。」
イケメンは痛い所をついてきた。
確かに否定できない……。けど。
そんな……言い方。あったまキタ!!
「うるさい!ちょっと顔がいいからって、調子にのらないでよ!あたし、あなたの言いなりなんてならないんだから。あなたの事だってカッコイイとか思わないもん。無人島に流れ着いたって、あなたなんて選ばないもん!」
やばい。余計な事まで言っちゃった……あたし。
静まり返った教室。
みんなの視線が……痛い。
「そーか、そーか。あんたは俺が嫌いなんだな。」
イケメンは急に、不敵な笑いを浮かべた。
「……はぁ?」
言ってる意味がわからない……。
「俺だけは選ばないんだろ?」
「え?」
確かに、そう言ったけど……。
「あんたが俺を好きになったら、あんたは嘘つきだ。その時は謝ってもらうからな。」
イケメンは不敵な笑みのまま、そう言った。
「じゃあ。俺帰る。明日からが楽しみだなぁ。委員長サン。俺を怒らせた事を後悔させてやる。」
なんで?
なんで、こうなっちゃうの?
あたしの共学生活、想像と違うじゃない!
もっと、キラキラした青春が待っているんじゃ……。
結局。
帰っていくイケメンに、何も言い返せなかった……。
ぐったりとうなだれたあたしの肩を、ポンポンと叩くペコ。
そっと何かを手渡していく……。
カサカサとした、セロファンの手触り。
まさか……。
手を広げると、そこには見るからに酸っぱそうな梅干し。
飴玉みたいな袋に大きな一粒。
う~ん。
見てるだけで酸っぱい。
あたし。
共学初日から、やっちまったよ…。
地雷、踏んじゃった??
登場人物が多くて大変です。
読み難かったらゴメンナサイ。
感想頂けたらすごく励みになります。
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