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前日の狂想曲1

3月1日。今日は男子部の卒業式。

女子部は3月2日が卒業式。


卒業式くらい一緒にしてくれればいいのに……。


あたし達共学クラスは、3月2日の卒業式の後集まる。

みんなで、最後の卒業式だ。


『今日は、男子で盛り上がってくるから』


柴田は、そういい残して出て行った。

きっと今頃、どこかで騒いでいるのだろう。

あたしは、早めの夕飯を済ませ明日の卒業式の事を考えていた。

東京に行ってしまうリョウと会えるのは、明日が最後だ。

ちゃんと、泣かないでお別れしなくちゃ……。


リョウのくれたストラップを見つめながら、ぼんやりと感傷にひたっていた。


「うわっ!」


急に携帯が鳴り始めた。

誰からだろう?


「はい?あ、山崎君?」


山崎君から電話なんて……初めてじゃない?


「ど、ど、どうしましょう?」

「何?山崎君どうしたの?」

「ほ、本城さんと今日あってたんですけど……」

「何?デート?よかったじゃない」

「いや、あの。良いけど良くないんです!!」


山崎君はかなり動揺しているみたい……。

早口だし、言いたい事がなんなのか全くわからない。


「落ち着いてよ。何が良くないの?」

「僕……また呪ってやろうって……名前を……」

「呪い?まだ、あんな事やってたの?」


謎の黒魔術。あの時、注意したっていうのに……。


「中野君のお兄さんの名前……本城さんに、聞いて……パソコンで調べたら……」

「中野君がどうしたの?」

「お兄さん、死んでるんです」

「うっそ!」

「本当です!嘘だと思うなら調べてください。中野君のお兄さん、4年前の3月1日に……亡くなってます。」


4年前の3月1日。


それって、4年前の今日。中野君のお兄さん。たしか、4つ年上……。


「なんで……」

「事故です。ほら、憶えてませんか?卒業式の日に、高校生が運転する車が事故にあったの。一人死亡で二人が重症って……。」


4年前の事故。そんなのあったかもしれないけど、記憶にはない。

自分に関係の無い事故なんて、いつまでも憶えていられない。


「僕……嫌な予感がするんです。木村さん、中野君と連絡取ってもらえませんか?」

「わかった。連絡がついたら、電話するから」


嫌な予感。


あたしは山崎君の電話を切ると、すぐに中野君に電話した。

お願い、繋がって……。

祈るあたしに、虚しくコール音が響く。

何度鳴らしても、中野君は電話にでなかった。


どうしよう。


中野君。今、どこにいるの?

あたし……中野君のいそうな場所、どこも知らないよ……。


繋がらない携帯。


あたし、どうすれば……。

そうだ、みんなに電話して聞こう。


「柴田!」


柴田は、すぐに電話に出た。


「ねぇ、どうしよう。中野君が、中野君が……」

「なんだよ。落ち着けって。中野がどうしたんだ?」


電話の向こうからは、楽しそうな声が響いている。


「中野君が死んじゃうかもしれないの!!」

「……。何があったんだ?」

「もう、そんなのいいから。中野君がどこにいるか知らない?電話してもでないの。」

「どこにいるかって……。ここにはいないぞ。ちょっと待て、中野に電話が繋がればいいのか?」

「うん……」

「俺、今から中野にメールしてやるから。お前、その後に電話しろ。そうだな……5分後。それでもダメなら、また電話しろ」


部屋の時計を見る。

たった5分。

なのに……今はなんて長く感じるんだろう。


中野君は今、何をしているんだろう?


4年前に死んだお兄さん。

お兄さんは、中野君を嫌って傷つけていた。

だったら、なんで中野君は自殺未遂をしたのだろう?

中野君は高校生になっても、死にたがっていた。

お兄さんが原因だと思っていたのに。


携帯が鳴る。


「もしもし」


電話はイッキからだった。


「木村さん。あのね、私……。気になって中野君の家に行ってみたんだけど。誰もいないの。電気もついていないし……。」


イッキは山崎君から連絡をもらって、わざわざ家まで行っていた。

やっぱり……悪い予感がする。


「イッキ。あのね……。あたし、絶対に中野君探すから!だって……明日、一緒に卒業しようって……言ったのに……」

「木村さん……泣かないで。まだわかんないでしょ?」

「……うん。」

「じゃ、また何かわかったら連絡しましょう。」

「……うん」


あたしはもう、立っていられなかった。

部屋に座り込み、携帯を握り締めていた。


『賭けをしませんか?』


中野君。中野君は、やっぱり笑えなかったの?

笑ったら、死なないって言ったじゃん。


時計を見上げる。


そろそろ、柴田の言ってた時間だ。

あたしは願いをこめて、中野君に電話をかけた。


1回目のコール音が鳴った。

2回目のコール音……。


「中野君!」


嘘みたい。柴田は中野君に何てメールしたんだろう?

何度も繋がらなかった電話が、今繋がっている。


「中野君……なの?」


何も答えない。

携帯の向こうからは、少しだけ雑音が聞こえてくるくらいだ。


「中野君!!」


「……木村さん」


「よかったぁ……」


「木村さん。今日は、さらってあげれませんよ。」


いつもの中野君の声。


「どうして?」


「僕は、約束は守りましたよ。木村さんと結城先生との約束は、卒業までですよ。僕は高校を卒業したら、死ぬつもりでした。」


やっぱり……中野君は死ぬつもりだ。


「どうして?お兄さんが卒業式の後に死んだから?」

「……知ってましたか。」

「なんで?お兄さんが死んだのは事故でしょ?なんで、中野君まで死んじゃうの?」

「僕は、もう疲れたんですよ。両親は兄が死んでも、兄の事しか見ていない。僕が死んだほうが良かったんですよ。誰の目にも、僕はうつっていないんです。僕は……疲れました」


中野君は、それ以上何も話してくれなかった。

携帯の向こうで聞こえる雑音。


あれは……。


「さようなら、木村さん。あなたは……おもしろい人でしたよ」

「中野君!!」


切れた電話。


「……探さなきゃ」


中野君はまだ生きている。

それに……あの音。


あたしは、ダウンを羽織りマフラーをぐるぐると巻いた。


「……行かなきゃ」


あたしは、バッグを持ち家を飛び出した。


あの音は……波の音だ。




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