残酷な救世主1
タイトルのみ変更しました。(11月8日)
「柴田ぁー!」
帰り道、柴田と待ち合わせ。場所はいつもの駅前、ファストフード店。
別に用はなかったんだけど、柴田もこっちにきていたらしい。
「制服かよ。」
学校に行っていたあたし。柴田は何の用事だったのか、私服だ。
「学校行くなら、誘えばいいのに。せっかく同じクラスなのに。」
冬だというのに、柴田は大きなサイズのドリンクを飲んでいる。きっと、コーラだ。
あたしは今日の事を話そうか、迷っていた。
「で、何のよう?」
「はい?」
柴田は飲んでいたコーラを、慌てて置いた。噴出しそうになったみたい。
「用がないと、俺はゆいに会いに行けないのか?お前はいつから、そんな冷たい……。まぁいいや。これからカラオケ行こうぜ。」
「カラオケ?」
「そうそう。」
電話がかかってきたのか、柴田は携帯を取り出した。
あたしはその間、ぼんやり柴田を見ていた。
彼氏かぁ……。欲しい欲しいって大騒ぎしてた頃が懐かしいな。できたらできたで、面倒な事もあるんだなぁ。
前にウララに色々言った事を思い出した。
あの頃のあたしは浅はかだったな。彼氏がいないより、いる方が大変なのかもしれない。
「ゆい!」
ぼんやりとしていたあたしは、急に現実の世界に引き戻された。
「久しぶりだな。木村さん。」
驚いた。座っているあたしの上から声が聞こえた。
「りょ、お。」
あけましておめでとうございます。だよ、きっと。年末のあの日、ケンカして以来会ってなかったから。
どうしよう。何から話そう。仲直りしてなかったから、それからなのかな……。
「りょう。あのさぁ……」
そう、話しかけようと思った。ずっと、話してなかったし。あたし、話したい事がいっぱい……。
「ペコちゃん来たよ。」
こんなに柴田の声が残酷に聞こえたのは、初めてだ。
そうか。そうだよね。
あたし、柴田とつきあってるんだった。リョウは、ペコと……なんだ。
4人が揃った時、やっと今日の意味がわかった。
ダブルデート。
あたしは柴田と。リョウはペコと。2人で1組。ダブルデート。
なぜだろう。急にリョウの存在が……遠い。そうか。だからさっき、リョウはあたしの事を木村さんって呼んだのか。
「委員長、お久しぶり。」
「う、うん。」
ペコはいつものように、話しかけてきた。なのに、あたしは上手く答える事ができなかった。
「大晦日の日、柴田君といなくなったと思ったら。ちゃっかりつきあってるんだもん。ペコびっくりしちゃった。」
「はは。あたしもびっくり。」
無理やりな笑顔。あたし、今上手に笑えてる?
「ペコ、急いできたから疲れちゃった。委員長、よこ座っていい?」
「じゃあ、俺。飲み物買ってくるわ。」
リョウは何も聞かずに、レジに向かった。もう、ペコが何を飲むか知ってるんだ。いつの間に二人はそんな……。
「でもさー。二人がつきあうなんて意外だった。」
そっちこそ。あたしは心の中で呟いた。
「俺とゆいは、もともと仲が良かったから。そっちこそ。そんなに仲良くなってるなんて知らなかったぞ。まぁ、リョウは最初からペコちゃんがかわいいって言ってたけどな。」
「ふふふ。」
ラインストーンの付いた冬用の黒いベレー帽は、茶色いふわふわのペコの髪に良く似合っていた。色の白い肌、ピンクのチーク。まるで、どこかの雑誌から抜け出てきたようだ。
ペコや柴田の笑い声。店内の雑音。あたしは、何もかもから取り残されている。そんな気分。
「はーい。ペコちゃん。あれ?そういえば。木村、制服じゃん。学校行ってるの?」
リョウはペコにドリンクを渡している。中身はなんだろう。ペコの好きな飲み物を、あたしは知らない。
「うん。ちょっと、先生に用事が。それにイッキ達も来てるし。」
さっきまで、4人で推理ゴッコを。なんて言ったら馬鹿にされるかも。所詮、あたし達とリョウ達は違うんだから。
「そっか。じゃあ俺もたまには行こうかな。木村、明日も行くんだろ?」
「あ、明日は……わかんない。あたしもみんなも、もう自由登校だし。行ってもやる事ないし……。」
「なんだ。つまんねーの」
本当は明日も行くつもりだ。だけど、素直に言えなかった。
どうしたんだろう、今日のあたし。ペコを見ても、リョウを見ても。心が卑屈になっていくばかりだ。二人の話をきいているだけで、惨めな気持ちになるのはなんで?
「ねぇ。今からどこに行く?」
「あ、あの!あたし。」
急に話しはじめたあたしを、3人が驚いたように見ている。
「あたし。今日は制服だし……。早く帰るって親にも言ってあるし。だから……今日はもう帰るね。3人で遊びに行ってよ。」
できるだけ、笑顔を作った。明るい声も、絞り出した。
あたしはそれだけ言うと、カバンを握り締め逃げるように店を出た。
4人でいると、息が詰まりそうだった。
あたしは、走った。きっと柴田が追いかけてくるから。
捕まりたくない。今は、誰とも話したくない。もう、ひとりにしておいて……。
こんな事、前にもあった。
あの日は柴田が女の子とイチャついていた。
「恋愛、めんどくせーーーー!!」
嫌な気分を追い払うように、お腹の底から叫びながら走った。
5分も走ればクタクタで、あたしは座り込んでしまった。
空がゆっくり、赤く変わっていく。
もう、歩けない。
あたしは、電話をかけていた。あたしから連絡するのは、始めてかもしれない。
5回コールで出なかったら止めよう、そう思っていた。
2回コールの後、彼は電話に出た。
「木村さん?」
「中野君。あたし……」
「息が切れてますよ。また、逃げたんですか?」
「うん……」
「しょうがないですね。どこですか?」
「え……」
「今日もさらってあげますよ。でも、内緒ですからね。」
切れた電話。あたしは携帯を握り締めて待った。
ストラップのキティが揺れていた。強引に笑わせた、偽者の笑顔。




