イケナイコト
「寒くないか?」
「寒いよ。」
あたしは、空を見上げたまま答えた。
ここからは光って見えても、もう存在しないかもしれない星の光。
…不思議だ。
世の中はわからない事ばかりだ。
納得できない事も。
「ここまで連れてきたんだから、言いなさいよ。」
ひざを抱えて座ったあたしの隣。
柴田は寝転んでいる。
「そんな格好して、話す気あるの?」
柴田はこっちを見ない。空を見上げたまま。
「俺、ゆいの事。好きだったけど恋愛対象じゃないって思ってた。だから他の女の子に告られて付き合ったりもした。ゆいの事は、幼なじみだったから。そういうんじゃないって思ってた。」
ずっと、仲良しだったあたし達。お互い恋愛対象じゃなかった。
一緒にいるのは当たり前で、特別な感情なんてないと思っていた。
「だけど、他の女といても比べちゃうんだよ…。ゆいだったらここで笑うなぁとか、ゆいに見せたらもっとよろこんだだろうなって。」
どこか、遠くを見るような柴田。あたしは、そんな事…。考えた事ない。ずっと、彼氏なんてできたことなかったし。
「そんな…。そんなのわかんないよ。勝手にあたしの事避けたり、さっさと彼女作ったり…。柴田は、あたしと話もしてくれなかったじゃない。」
学校で会っても、外で会っても…。目も合わせてくれない。
「だよな。俺、勝手だった。あの頃ちゃんとゆいと話せていたら…。すぐに気付いてやれてたら。あんな思いさせなくて済んだかもしれないのに。」
そうなのだろうか。柴田が力になってくれていたら…。あたしは…。
でも。
そんな事考えて何になる?全て今更…だ。
「ゆいの成績の話も、おばさんから聞くまで知らなかったんだ。おかしいよな、あの成績。俺、先生にかけあったのに…。」
「はぁ?何してんの?ばっかじゃないの?あたしと関わると受験に失敗するって噂知らなかったの?」
「…知ってた。けど、ゆいのせいじゃない。そんなのただの噂だ。俺が受験に失敗したのは、勉強しなかったからだ。だけど、私立だけは勉強したんだ。ゆいと同じ高校に行きたかったから。」
知らなかった事ばかりで…頭が混乱する。
お母さんも、柴田もあたしにずっと隠していたなんて…。
「だから、ゆいのせいじゃない。」
「…嘘。」
柴田は、あたしの知らない所でそんな事してたなんて…。
「泣くなって。」
「泣いてない。」
ずっと誤解してたなんて…。
空を見上げる。涙はそれでも流れ落ちていく。
あたし、何も知らなかった。柴田の事、誤解してた。少し、恨んだ事すらあったのに…。
「でもさぁ。まさか、女子校に行くなんて思わなかったよ!俺の計画、台無しじゃん。同じ学園なのに、ぜんっぜん交流できないし。お前は全然、俺の存在に気付かないし。」
「…だって。まさかいるなんて、知らなかったんだもん。」
「普通、すぐ気付くだろ?俺、ゆいに完全に嫌われたって落ち込んだんだぞ!」
寝転んでいた柴田が、隣に座っている。
「俺。高校に入って、一度はゆいの事あきらめたんだ。ずっと話す機会もなかったしな。でも、こうやってまた話せるようになって…。俺は、やっぱりゆいと一緒にいたいと思うんだ。」
「けど…。」
「恋愛禁止っていうんだろ?でも、ゆいはそう思っててもみんなは違うと思うぜ。リョウだってペコちゃんの事、気に入ってるんだし。」
リョウはペコちゃんの事…。
そうだった。あたし、それで柴田とリョウの家を抜け出したんだった。
「ゆい…。」
リョウは今頃、ペコと楽しくやってるのかなぁ。
リョウはすごくかっこいいから、きっとかなりの面食いで…。
ペコはキレイな白い肌にピンクのチーク。とっても愛らしい…かわいい女の子。
並ぶと、お似合いなんじゃないかな?
地面に置いた左手に、柴田の手が重なる。
少しずつ縮まる、距離。
柴田はあたしと一緒にいたいって言った。
あたしの知らない所で、あたしの事を想ってくれていた。
高校まで、あたしに合わせてくれていたなんて…。
あたしは…。
そんな柴田に、何もしてあげた事がないのに…。
目に溜まったままの涙。
柴田の指が、拭い去る。
この人はどうして…。
泣き顔のあたしは、きっとすごく汚い顔をしているのに。
どうして、柴田は…。
「ゆいの事が、好きだ。」
見えなくなった星空は、今どんなふうに輝いているのだろう。
あたしは、初めてのキスをしながらそんな事を思っていた。
相手が、幼なじみだったからなのかもしれない。
ドキドキというより、いけない事をしているような気分だった。
あたしは、柴田と付き合う事になるのだろうか?
地面に置いたあたしの左手は、柴田にしっかりと握られている。
顔に添えられた手も、くちびるの熱い感触も。
全部リアルなのに、あたしはどこかぼんやりしていた。
きっといろんな事が一度にあり過ぎて、頭がついていかないだけだ。
リョウだったら…。
なんて。あたし、何考えているんだろう。
帰り道。
柴田はすごく、機嫌が良かった。
当たり前のように手を握り、そのまま自分のポケットにいれた。
「こうした方があったかいだろ?」
無邪気な笑顔。あの頃の、湊くんの笑顔。
「ゆい、どうしたの?」
「ううん。なんか、帰りにくいなって。」
リョウの家を出てから、時間は経っている。あたしの顔だって泣いたから、腫れぼったいはず。
きっとマナから、詮索される…。
あたしは、どう答えたらいいんだろう。
「大丈夫だって。俺たちがつきあっていたって、このクラスは変わらないだろ?」
やっぱり。つきあっているんだ。あたし、柴田と…。
「恥ずかしいのなら、内緒にしててもいいよ。多分、ゆいの事だからバレちゃうだろうけど。」
ポケットに二人分の手をいれたまま、柴田は片手であたしを抱きよせる。
なんだか、あたしはちっぽけな存在になってしまった気がした。
柴田の思うまま、なすがままに。
ペコのめんたい子ちゃん。
きっとあたしは、そんな存在。
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