無表情★キティ
そして、合宿当日。12月30日。
集合場所に集まったのは、あたしとマナとイッキ。男子は現地で合流するイケメンをのぞいた全員。ペコとウララは予定が合わないからって明日からの合流。
「あのふたり、今日が掃除だからってサボったな!」
昨日の夜、2人で申し合わせたようにメールで連絡してきた。まったく、要領の良いヤツめ。
そこから、例の田舎行きの電車に乗りイケメンの待つ駅へ…。ド田舎へついたのはまだ午前中だった。
「…嘘でしょ??」
イケメンとの待ち合わせに現れたのは、軽トラ。これ、あたし達乗れないよねぇ??
「じゃあ、荷台に荷物のせて。1人だけ車に乗れるから…本城さん。おじさんの助手席に乗って。」
「え。私…いいの?」
「いいよ。ここから近いんだし、このメンバーじゃ、本城さんが一番か弱そうだから。」
イケメンはそう言うと、イッキをおじさんの運転する軽トラに乗せた。
「リョウ。あたし達は?」
「歩きに決まってんだろ?」
「えぇー。マナも乗りたかったー。」
「しょうがねーだろ。近いんだから歩け。大丈夫、近いから…。」
イケメンはそう言うと、自転車にまたがった。
「ここからまーっすぐ、道なりに歩いたら着くから。じゃ。俺はチャリで行くから」
「ちょおっと待ったー!ズルイよ。」
「ん?じゃあ後ろ乗るか?」
イケメンのチャリの後ろ…。乗ったらこの前みたいになっちゃうよねぇ…。
「えぇ…。」
「はーい!マナ乗る!歩きは嫌。」
マナはさっさと、イケメンのチャリの後ろに乗った。この前のあたしと違って、しゃんと乗っている。イケメンに抱きつくように乗ってたあたしは、そうとう鈍臭いかもしれない…。
「あっ。ちょっと!」
「じゃあな~。いいんちょ~。」
「バイバーイ。ゆい。お先に~。」
イケメンとマナを乗せたチャリが…遠ざかる。
しょうがない歩くか…。
「行くぞ。…ゆい。」
柴田があたしの名前を小声で呼んだ。
「!」
柴田に名前を呼ばれ、あたしはうつむいた。忘れてた!柴田にあたし、告られたんだった…。
歩きだそうと顔をあげると、中野君と目が合った。やっぱり無表情。でも、目をそらしてはくれない。じっとこっちを見ている。
「じゃあ、行こうか。山崎君、場所知ってる?」
「調べたのですが…田舎すぎて。地図に目印になるものがなくて…。」
中野君の目をじっと見ていられないあたしは、山崎君に話しかけた。
「それって建物がないってこと?」
「…多分。」
ちょっと。ここ本当にド田舎じゃない。真っ直ぐ道なりって言うけど、障害物が見当たらない。ここ、ずーっと歩くの?全然近くないじゃん!
「嘘でしょ…。」
「大丈夫っすか?…おんぶします?」
背の高いリーゼントが、かがんで横から話しかける。あたし達、身長に差があり過ぎだよね…。でも、親子じゃないんだからおんぶはナシでしょ。下心がなくても…。
「あ、ありがとう。でも自分で歩けるから大丈夫…。」
リーゼント、天然なのかしら。
「ゆい!しっかり歩けよ。手。ひっぱってやろうか?」
「ちゃんと歩けます!」
柴田の横なんて…ヤダ。他の女とくっついてたくせに…。
「委員長さん。」
「何?」
柴田から離れて、山崎君の隣を歩く。
「…ですか?」
「何?」
「逆ハーですか?」
「??」
な、何??
山崎君のことだから…あっち系の話?
「木村さん。ハーレムの事ですよ。後藤君と、山崎君はどうだか知りませんけど。」
中野君があたしを追い越しながら、ボソっと言った。
「は、ハーレム!?」
まったく、山崎君は…!!
「そんなのありえない!!」
あたしは走り出した。
「おーい。ゆい。どこ行くんだ?」
「もう!あたし先に行っちゃうからね!」
ひとりで、先頭に立って歩く。あぁ、もう面倒臭い。
********
「おーい!」
正面から、自転車に乗ったイケメンがやってきた。マナを降ろして戻ってきたみたい。
「乗せてやるぞ。もうあとちょっとだけど。ほら、早く。」
「え?」
「委員長さん、どうぞ。僕たちは歩きますから。」
イケメンに急かされ、後ろに乗る。柴田の目線が気になったけど、山崎君も乗れって言うし…。歩くのにも疲れたし。
「行くぞー!」
「ちょ、ちょっととばさないでよー!!」
自転車は2往復目だというのに、軽々と速度を上げていく。歩き疲れた体に、風が気持ちいい。
「お前これで2回目だろ?もうちょっとしっかりつかまらないと、本当に落ちるぞ。」
「つかまってるってば~!!ていうか、あんまりとばさないでよ!…怖いんだから。」
「文句多いなぁ~。」
減速してカーブを曲がる。2車線の道路には車がたまに走っているくらいで…のどかだ。右手には森のように木々が生い茂っていて、左手には田んぼ。畑?かもしれない。
「お前さぁ。ゆいっていうのか、名前?」
「うん。えっ。今更?自己紹介の時言ったじゃん。」
「…そんなの全部おぼえてられるか。」
まぁ…あたしもそうだったけど。名前より特徴しか憶えてなかったしね。
「柴田がさぁ…。」
「なぁに?聞こえない。」
「つきあってんのか?」
「はぁ?誰とつきあうのよ。それ、嫌味?誰かさんと違って、普通の人は知らない人に告られたりしないの!」
知ってる人には告られたけど…面倒だから言わない。
「何だ?それ。」
「女子校だとね。一生懸命出会いを求めて活動するか、めちゃくちゃカワイイ人じゃなきゃ彼氏できないの!わかる?共学みたいに、ゆっくり恋愛に発展なんかできないの!」
「本当か?お前、モテないの人のせいにしてるんじゃ?」
「…怒るわよ。」
自転車は緩やかな下り道にさしかかり、民家が見えてきた。コンビにもある!
「うわぁ都会じゃん。」
「お前バカにしてるだろ?田舎はコンビニがめちゃくちゃあるぞ。まぁコンビニしかないけど。」
そう言うと、イケメンは自転車を止めた。
「ちょっと待ってて。」
あたしはいったん自転車をおりた。久しぶりの地面が…変なかんじ。イケメンを待つ間、体を伸ばす。
「いった~い。」
自転車の後ろに乗っていると、体が緊張してしまう。つかまらなきゃいけないけど、密着するのは…ねぇ。
「ほい!」
コンビニから出て来たイケメンが、あたしにペットボトルを差し出す。
「おごり。お前、財布を荷物と一緒に預けてるだろ?」
そういえば、あたし手ぶら…。
「あぁ!そうだ。ありがと!!」
喉が渇いていたんだよね~。
「お前、携帯もってきてるか?」
携帯は…ポケットの中に。
「ほら。あるよ。」
じゃーん。携帯を取り出して見せる。さすがに携帯は手放さないわよ!
「ちょっと貸して。」
「ん?はい。」
イケメンに携帯を手渡し、ペットボトルのふたをあける。冷たいスポーツドリンクが、冬なのに美味しい。体に染みわたる~。
「はい。返す。」
「ん?何コレ?」
イケメンから返された携帯には…キティちゃん。
「さっきジュース買ったら付いてたんだよ。」
「えぇ…。」
あたしストラップつけないんだけど…。
「外すなよ!絶対。」
「何で?」
「これで、お前と俺の携帯が間違う事はなくなるんだぞ!お前、またここでチャリに乗りたいのかよ。」
そういえばそんな事が…。でもぉ…。
「それに、これキティちゃんだぞ。捨てられないだろ~。」
「え?何で?」
「だって、恨まれそうじゃん。」
キティちゃんの恨み??
「よく見てみろよ。無表情だぜ?常にポーカーフェイスのやつは、腹黒いぞ…。」
それって…誰かさんみたい…。
「とにかく、これで一石二鳥ってやつだ。それに、お前はもう少しかわいくしろ。」
「はぁ?」
「よ~し。行くぞ。」
なんだかわけのわからない理由で、あたしの携帯にはストラップが。
無表情のキティちゃん。
カワイイはずなのに…。
中野君とかぶって、微妙。
ポケットにいれた携帯に、小さな子猫。
自転車が揺れるたびに、ゆらゆら揺れている。
ストラップをつけるのも、悪くないかもしれない…。




