夕暮れの逃亡者3
「と、ところで。どこに行くの?」
失礼かもしれないけど、誘拐の二文字が頭から離れない…。
「どこでしょう?」
中野君はまっすぐ前を向いたまま、ハンドルを握っている。友達の運転する車に乗るなんて、初めてだ。いつ免許を取ったのだろう?それに、年上ってどういうこと??
「駆け落ちといえば、海でしょう。海に行きましょう。良いですよ、冬の海。静かで寂しくて、誰もいませんよ。」
「…いつから駆け落ちになったの?ていうか、駆け落ちで海なんか行くの?冬の海っていったら…。」
サスペンス。崖の上で犯人が罪を告白するような…。なんて考えが頭を過ぎった。それじゃあ、あたし殺されちゃうじゃない!変な想像するんじゃなかった。
******
「降りてください。」
車は海辺の駐車場に停まった。目の前には砂浜が広がっている。きっと、夏は海水浴場として賑わっていたのだろう。整備された駐車場と、砂浜の傍には小さな休憩スペースが高い位置につくられている。あそこから海を眺めるのだろうか?
「中野君?」
ボーっと海を見ているうちに中野君は、サッサと降りていた。あたしも急いで降りようとドアに手を掛けた。
ガチャリ。
外から中野君がドアを開けた。黙ってあたしの腕を掴み、ひっぱる。あたしを外に出すと、ドアを閉め鍵をかけた。
「残念ながら、崖はありませんけど。罪の告白でもしましょうか?」
…やっぱりサスペンス?
「愛の告白の方が良かったですか?」
「なっ!」
「冗談ですよ。前に言ったとおり、木村さんは僕のタイプではありません。」
冗談と言いながら、全く笑っていないんですけど…。
「では、行きましょう。」
「うん…。」
「でも、良かったです。」
中野君はあたしを見て言った。
「なんで?」
「木村さんが色気のない格好をしていて。冬の海は半端なく寒いですから。」
色気のない格好??だって寒いんだもん。あたしは、ニットのチュニックにデニム。ダウンを羽織って、ぺたんこのブーツを履いている。でも、そんなに色気ない??
「ちょっと、中野君。あたしに対して、すっごく失礼じゃない?何か恨みでもあるの?」
「まさか。でも、木村さんが悪いんですよ。」
「えっ?何かした?あたし。」
…手を握られた。中野君はあたしの手を握り、歩き出した。…冷たい手。手を繋ぐというより、ただ手を握っているようだ。何かをひっぱる時のように、そっけない。
冬の海はやっぱり寂しい。車を止めた付近には何台かの車が停まっていたが、砂浜を歩いている人はいない。あたしは砂浜が歩きにくくて、何度かつまづいた。その度に中野君が支えてくれた。ゴミだらけの砂浜。漢字やハングル文字の、空の容器。雑貨屋さんでみるような、おしゃれな流木やシーグラスの欠片も落ちていない。こけないように足元に集中して歩く。ごみごみした砂浜を抜けると、やっと中野君は立ち止まった。
「座りましょう。」
白く乾燥した大きな流木。座るにはちょうどいい大きさだった。
「あ…。」
困った。流木に2人で座ると、寄り添うように密着してしまう。大きさが、少し小さい。
「ねぇ。中野君。さっきあたしが悪いって言わなかった?あたし、中野君に何かしたの?」
さっきからずっと気になっていた。
「木村さんが悪いんですよ。」
「何で?」
「よくテレビであるでしょ?心霊スポットで肝試しするやつ。」
なんだか、話がコワくなってきたんだけど…。
「そんな感じですよ。」
「え?何が?」
「肝試しした人はその後、どうなります?」
「…。」
怖い目に合いますけど…。
「余計な事をしたばっかりに、木村さんは取り付かれてしまったんですよ。」
「ええ?」
「僕の存在に気付いてしまったから。あなたは、僕という幽霊にとりつかれたんですよ。」
満面の笑顔で、中野君は言った。
「このまま、一緒に死にませんか?」
寒さも何もかも、感じなかった。あたしは、驚きすぎて動けなくなった。びっくりし過ぎて、声も出ない。
すーっと冷たい手が伸びてきた。あたしの首筋に、冷たい中野君の手が伸びる。
「どうします?木村さん。」
どうしよう。どうする、あたし?頭の中で色々考えるけど、何の考えもまとまらない。声も出ない。
ただ…。
必死で、中野君の目を見つめた。中野君は眼鏡をかけたまま。大きな黒目には、何もうつっていないように…見えた…。
シリアスになってきました。
なんだか、話がそれていくような…?
よかったら感想下さい。
参考にさせていただきます。




